物理とか

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測地的曲率と測地線


1.測地的曲率

今回は

測地的曲率

の性質や、

測地線

について書こうと思う。曲面上曲線の曲率のページでも紹介したが、まずは曲面に拘束された曲線の測地的曲率\(\kappa_g\)が、どのように定義される量だったか確認しよう。曲面\(\b{p}(u^1,u^2)\)上に定義された曲線\(\b{x}(s)=\b{p}(u^1(s),u^2(s))\)の測地的曲率とは、曲線の曲率ベクトル\(\b{x}''(s)\)の接平面成分であり、その点での単位法線ベクトル\(\b{N}\)を使って、 \[\kappa_g = |\b{x}''-(\b{x}''\cdot\b{N})\b{N}|\tag{1}\] とかける。下の図のように曲率を分解するわけである。ちなみに、\(\b{x}''\cdot\b{N}=\kappa_n\)は法曲率と呼ばれる。

イメージは、法曲率が曲面自体の曲がりに由来する曲率で、測地的曲率というのがそれを差っ引いた曲線自体の曲率というような感じだ。

それと、今回からはシグマ記号が増えすぎて大変なことになるので、Einsteinの規約を使う。Einsteinの規約とは、同じ添字が上下に出てきたときは、自動的に和をとるというルールだ。例えば今回考えるような曲線の接ベクトルは、合成関数の微分を使って、 \[\frac{d\b{x}}{ds} = \sum_i\frac{\partial\b{p}}{\partial u^i}\frac{du^i}{ds}\tag{2}\] のように計算できるが、これを \[\frac{d\b{x}}{ds} = \frac{\partial\b{p}}{\partial u^i}\frac{du^i}{ds}\tag{3}\] と書くのがEinsteinの規約である。

結果は、測地的曲率が \[ \kappa_g=\left|\begin{array}{cc} \frac{du^1}{ds} & \Gamma^1_{~ij}\frac{du^j}{ds}\frac{du^i}{ds} + \frac{d^2u^1}{ds^2} \\\\ \frac{du^2}{ds} & \Gamma^2_{~ij}\frac{du^j}{ds}\frac{du^i}{ds} + \frac{d^2u^2}{ds^2} \end{array}\right|\sqrt{g} \] となり、測地線を求めるための微分方程式は \[\Gamma^k_{~ij}\frac{du^j}{ds}\frac{du^i}{ds} + \frac{d^2u^k}{ds^2} = 0\] である。

2.測地的曲率を求める

測地的曲率を具体的に求めてみよう。測地的曲率を、曲面の第一基本量\(g_{ij}\)・第二基本量\(h_{ij}\)・パラメータ\(u^i\)の微分\(\frac{du^i}{ds}\)で表すことが目標だ。(1)式から、測地的曲率を求めるには、 \[\b{k}_g = \b{x}''-\kappa_n\b{N} = \b{x}''-(\b{x}''(s)\cdot\b{N})\b{N}\tag{4}\] というベクトルの大きさを求められれば良い。

そこで注目するのは、このベクトル\(\b{k}_g\)が\(\b{N}\)や\(\b{x}'\)に対して垂直である、ということだ。\(\b{N}\)に垂直なのは定義からあたりまえだが、\(\b{x}'\)というベクトルにも垂直なのは意外かもしれない。しかし、\(\b{x}'\)というのは要するに曲線の接ベクトルのことなので、曲線の主法線ベクトル\(\b{x}''\)や、曲面の法線ベクトル\(\b{N}\)に垂直なのだ。 だからその大きさは、\(\b{N},\b{x}'\) (2つとも単位ベクトルだったことに注意しておこう。) に垂直な単位ベクトル\(\b{a}=\b{N}\times\b{x}'\)を使えば、符号をとりあえず無視して\(\kappa_g = \b{k}_g \cdot\b{a}\)によって求められる。よって \begin{align} \kappa_g &= (\b{x}''-(\b{x}''(s)\cdot\b{N})\b{N})\cdot(\b{N}\times\b{x}') \\ &= \b{x}''\cdot(\b{N}\times\b{x}')&(\because \b{N}\cdot(\b{N}\times\b{x}')=0)\\ &= \b{x}''\cdot(\b{N}\times\b{x}')\tag{4} \end{align} となる。

次に\(\b{x}',\b{x}''\)を曲面における自然な基底の組\(\left\{\b{p}_1,\b{p}_2,\b{N}\right\}\)ただし \(\b{p}_i = \frac{\partial \b{p}}{\partial u^i}\) によって表していこう。

\(\b{x}'\)の方は(3)式でもうできていて、 \[\b{x}'=\frac{du^i}{ds}\b{p}_i\tag{5}\] となっている。

\(\b{x}''\)のほうは(5)式をもう一度微分しなくてはいけなくて少し面倒だが、次のように計算できる。前回のGauss-Codazzi方程式、 \[ \frac{\partial \b{p}_i}{\partial u^j} = \sum_k \Gamma^k_{~ij}\b{p}_k + h_{ij}\b{N}\tag{6} \] を用いると、(\(\Gamma^k_{~ij}\)は第一基本量から決まる関数である) \begin{align} \b{x}''&= \frac{d}{ds}\left(\frac{d\b{x}}{ds}\right) \\ &= \frac{d}{ds}\left(\b{p}_i\frac{du^i}{ds}\right) \\ &= \frac{d\b{p}_i}{ds}\frac{du^i}{ds} + \b{p}_i\frac{d^2u^i}{ds^2} \\ &= \frac{\partial\b{p}_i}{\partial u^j}\frac{du^j}{ds}\frac{du^i}{ds} + \b{p}_i\frac{d^2u^i}{ds^2} \\ &= \left(\Gamma^k_{~ij}\b{p}_k + h_{ij}\b{N}\right)\frac{du^j}{ds}\frac{du^i}{ds} + \b{p}_i\frac{d^2u^i}{ds^2}\tag{7} \end{align} のように書ける。(5)と(7)を\(\kappa_g\)を求める式(4)に代入して計算していくと、 \begin{align} \kappa_g &= (\b{N}\times\b{x}')\cdot\b{x}'' \\ &= \left(\b{N}\times\b{p}_l\frac{du^l}{ds}\right)\cdot\left\{\left(\Gamma^k_{~ij}\b{p}_k + h_{ij}\b{N}\right)\frac{du^j}{ds}\frac{du^i}{ds} + \b{p}_i\frac{d^2u^i}{ds^2}\right\} \\ &=\left(\b{N}\times\b{p}_l\frac{du^l}{ds}\right)\cdot\left\{\Gamma^k_{~ij}\b{p}_k\frac{du^j}{ds}\frac{du^i}{ds} + \b{p}_k\frac{d^2u^k}{ds^2}\right\} &(\because \b{N}\cdot(\b{N}\times\b{x}')=0)\\ &= \left(\b{N}\times\b{p}_l\frac{du^l}{ds}\right)\cdot\left(\Gamma^k_{~ij}\frac{du^j}{ds}\frac{du^i}{ds} + \frac{d^2u^k}{ds^2}\right)\b{p}_k \\ &=\left\{\left(\b{N}\times\b{p}_l\frac{du^l}{ds}\right)\cdot\b{p}_k\right\}\left(\Gamma^k_{~ij}\frac{du^j}{ds}\frac{du^i}{ds} + \frac{d^2u^k}{ds^2}\right)\\ &=\left\{\left(\b{N}\times\b{p}_l\right)\cdot\b{p}_k\right\}\left(\Gamma^k_{~ij}\frac{du^j}{ds}\frac{du^i}{ds} + \frac{d^2u^k}{ds^2}\right)\frac{du^l}{ds}\tag{8}\\ \end{align} とまあこんな感じになる。さらにベクトルの内積の部分について考えると、ベクトル三重積の性質から、 \[\left(\b{N}\times\b{p}_l\right)\cdot\b{p}_k = \b{N}\cdot(\b{p}_l\times\b{p}_k)\tag{9}\] と書き直せる。(9)の外積は\(l,k\)が異なるときにのみ0でなくなることに注意しておこう。ここで \[|\b{p}_1\times\b{p}_2|^2 = \det\left(\begin{array}{cc} g_{11} & g_{12} \\ g_{21} & g_{22} \end{array}\right) = g,\] \[\b{N} = \frac{\b{p}_1\times\b{p}_2}{\sqrt{g}}\] であったことを思い出す (接平面の記事参照) と、\(l=1,k=2\)のとき(9)は、 \[\b{N}\cdot(\b{p}_1\times\b{p}_2) = \sqrt{g}\] となるし、逆の時には、 \[\b{N}\cdot(\b{p}_2\times\b{p}_1) = -\sqrt{g}\] である。これを(8)に代入して整理すると、測地的曲率は \[ \kappa_g=\left|\begin{array}{cc} \frac{du^1}{ds} & \Gamma^1_{~ij}\frac{du^j}{ds}\frac{du^i}{ds} + \frac{d^2u^1}{ds^2} \\\\ \frac{du^2}{ds} & \Gamma^2_{~ij}\frac{du^j}{ds}\frac{du^i}{ds} + \frac{d^2u^2}{ds^2} \end{array}\right|\sqrt{g}\tag{9} \] のように行列式を使って表せることがわかる。

(9)のように行列式で表したからと言って、具体的な曲面上の曲線に対して(9)で測地的曲率を計算するのは手間がかかりすぎる。具体的な問題を解かないといけないときには、測地的曲率の定義式(4)から計算するほうが遥かに簡単だろう。


3.測地線

測地線とは、測地的曲率が0であるような曲線のことだ。曲面上における「直線」と言ってもいいだろう。

測地的曲率が0である、という条件は、(8)式から、 \[\Gamma^k_{~ij}\frac{du^j}{ds}\frac{du^i}{ds} + \frac{d^2u^k}{ds^2} = 0 \tag{10}\] とかける。(もちろん\(\frac{du^l}{ds}=0\)でもいいのだが、これではsに対して\(u^l\)が定数になってしまって曲線にならない。)

この(10)式は

測地線の方程式

と呼ばれる。(10)を連立微分方程式としてとき、\(u^i(s)\)を求めることで測地線が求まるのだ。