1.第一・第二基本量\(g_{ij},h_{ij}\)によって曲面は決まるか?
第一・第二基本量は、曲面の性質を端的に表す量である。では、曲面の上の「長さ」を表現する\(g_{ij}\)と、曲面の「曲がり具合」を表現する\(h_{ij}\)を決めてやれば、曲面は一意的に決定されるだろうか?今回はそんな問題を考えていく。
最初に使う記号を定義しておこう。このページでは、曲面を\(\b{p}(u^1,u^2)\)と表し、曲面上の各点における自然基底を\(\b{p}_1,\b{p}_2,\b{N}\)と書く。ただし、
\[\b{p}_i = \frac{\partial\b{p}}{\partial u^i}\]
\[\b{N} = \b{p}_1\times\b{p}_2\]
である。曲面が先に与えられているという状況の場合には、第一基本量・第二基本量は次のように表される。
\[g_{ij}=\b{p}_i\cdot\b{p}_j\\ h_{ij}=\frac{\partial\b{p}_i}{\partial u^j}\cdot\b{N}\]
さらに、\(g_{ij}\)の逆行列は、添字を上にした\(g^{ij}\)で表すことにする。
今回は、これを逆に辿って\(\b{p}\)が見つかるかどうか考える。さらに、曲面が見つかるための最後の条件式に、曲率テンソルと呼ばれる量が入ってくるので、それに関連して驚異の定理と呼ばれる結果についても説明しようと思う。
2.Gauss-Codazziの積分可能条件
今回出発点にするのは、曲面上で自然基底がどのように変化するかを表す2つの式、
Gauss-Codazziの式
\[
\frac{\partial \b{p}_i}{\partial u^j} = \Gamma^k_{~ij}\b{p}_k + h_{ij}\b{N} \tag{1}
\]
と
Weingartenの式
\[\frac{\partial \b{N}}{\partial u^j}=-h_{jl}g^{lk}\b{p}_k\tag{2}\]
である。
この2つの式は、曲面\(\b{p}(u^1,u^2)\)が与えられた状況で、基底ベクトルがどのように変化するかを調べた式だった。しかし、逆に\(h_{ij},g_{ij}\)が与えられたという条件の下では、自然基底\(\b{p}_i\)、さらには曲面\(\b{p}(u^1,u^2)\)を決定する微分方程式と捉える事もできる。
そうすると、(1)と(2)に解があれば、\(h_{ij},g_{ij}\)によって曲面が決定されるわけだ。しかし、どんな\(h_{ij},g_{ij}\)であっても解が存在するわけではない。上にあげた(1)が積分可能、すなわち連続な解を一意的に持つにはどんな条件が必要だろうか。実は、これは「偏微分が交換可能」という条件から求めることができる。
ということで、偏微分を計算してみよう。(1)式をまずは\(u^l\)で微分する。
\begin{align}
\frac{\partial^2 \b{p}_i}{\partial u^j\partial u^l} &= \frac{\partial\Gamma^k_{~ij}}{\partial u^l}\b{p}_k + \Gamma^k_{~ij}\frac{\partial\b{p}_k}{\partial u^l} + \frac{\partial h_{ij}}{\partial u^l}\b{N} + h_{ij}\frac{\partial \b{N}}{\partial u^l}\\\\
&= \frac{\partial\Gamma^k_{~ij}}{\partial u^l}\b{p}_k + \Gamma^k_{~ij}\left(\Gamma^m_{~kl}\b{p}_m + h_{kl}\b{N}\right) + \frac{\partial h_{ij}}{\partial u^l}\b{N} + h_{ij}\left(-h_{lk}g^{km}\b{p}_m\right)\tag{*}\\\\
&= \left(\frac{\partial\Gamma^m_{~ij}}{\partial u^l} + \Gamma^k_{~ij}\Gamma^m_{~kl}-h_{ij}h_{lk}g^{km}\right)\b{p}_m + \left(\Gamma^k_{~ij}h_{kl}+\frac{\partial h_{ij}}{\partial u^l}\right)\b{N}
\end{align}
ここで、偏微分の順序が交換可能であるならば、上の式でjとlを入れ替えた、
\[\frac{\partial^2 \b{p}_i}{\partial u^l\partial u^j} = \left(\frac{\partial\Gamma^m_{~il}}{\partial u^j} + \Gamma^k_{~il}\Gamma^m_{~kj}-h_{il}h_{jk}g^{km}\right)\b{p}_m + \left(\Gamma^k_{~il}h_{kj}+\frac{\partial h_{il}}{\partial u^j}\right)\b{N}\]
と上の式は一致するはずである。したがって、以下の連立方程式が成り立つべきだ。
\[
\frac{\partial\Gamma^m_{~ij}}{\partial u^l} + \Gamma^k_{~ij}\Gamma^m_{~kl}-h_{ij}h_{lk}g^{km}= \frac{\partial\Gamma^m_{~il}}{\partial u^j} + \Gamma^k_{~il}\Gamma^m_{~kj}-h_{il}h_{jk}g^{km} \tag{3}\]
\[\Gamma^k_{~ij}h_{kl}+\frac{\partial h_{ij}}{\partial u^l}= \Gamma^k_{~il}h_{kj}+\frac{\partial h_{il}}{\partial u^j} \tag{4}
\]
(3)式がごちゃごちゃしてわけがわからなくなりそうなので、ここで新しい記号を定義しよう。(3)式の第二基本量が付いている部分以外をまとめて、
\[R^m_{ijl} = \frac{\partial\Gamma^m_{~ij}}{\partial u^l} + \Gamma^k_{~ij}\Gamma^m_{~kl} - \frac{\partial\Gamma^m_{~il}}{\partial u^j} - \Gamma^k_{~il}\Gamma^m_{~kj}\tag{5}\]
とする。すると、この積分可能条件は、
\begin{align}
R^m_{ijl} &= (h_{ij}h_{lk}-h_{il}h_{jk})g^{km}\tag{6}\\
\Gamma^k_{~ij}h_{kl}-\Gamma^k_{~il}h_{kj}&= \frac{\partial h_{il}}{\partial u^j}-\frac{\partial h_{ij}}{\partial u^l} \tag{7}
\end{align}
となる。この連立方程式のことを、
Gauss-Codazziの積分可能条件
もしくは
Gauss-Codazzi方程式
と呼ぶ。
そして実はこの方程式が、Gauss-Codazziの式とWeingartenの式が連続で一意な解を持つための必要十分条件になっているらしい。こんどその証明を確認したらここに追加したいと思うが、ちょっと時間がかかりそうだ。でもまあとりあえず必要条件ではあることがここでわかった。
ちなみに、今回定義した記号\(R^m_{ijl}\)は
曲率テンソル
と呼ばれる量である。この量は、曲面の
全曲率 (Gauss曲率)と密接に関係しているのだ。それを次に説明する。
3.驚異の定理
全曲率 (Gauss曲率) は次のように計算される量だった。
\[K = \frac{h_{11}h_{22}-h_{12}^2}{g_{11}g_{22}-g_{12}^2}\tag{8}\]
ちなみに、このGauss曲率は、曲面の法曲率の最大値と最小値の積によって定義された量だった。勘の良い人は(7)式になんとなく似ていることを感じ取ったかもしれない。
なめらかな曲面上で曲率テンソル\(R^m_{ijl}\)が満たしているべき式、(6)の両辺に\(g_{mn}\)をかけると、
\begin{align}
R^m_{ijl}g_{mn} &= (h_{ij}h_{lk}-h_{il}h_{jk})g^{km}g_{mn}\\
R^m_{ijl}g_{mn} &= (h_{ij}h_{lk}-h_{il}h_{jk})\delta^k_n\\
R^m_{ijl}g_{mn} &= h_{ij}h_{ln}-h_{il}h_{jn}\tag{9}\\
\end{align}
を得る。微分幾何の習慣に従って、
\[R_{ijln}=R^m_{ijl}g_{mn}\]
と書くことにすると、
\[R_{ijln} = h_{ij}h_{ln}-h_{il}h_{jn}\tag{10}\]
である。ということは、
\[i,j,l,n = 1,2,1,2\]
とすれば、この\(R_{ijln}\)が(8)の全曲率の分母そのものになる。つまり、
\[K = \frac{R_{1212}}{g_{11}g_{22}-g_{12}^2}\tag{11}\]
である。
この結果(11)は、Gaussによって
Theorema Egregium
(驚異の定理) と名付けられた。何が驚異的かというと、
全曲率が曲面の第一基本量のみによって表示される、という点だ。 (曲率テンソルが、第一基本量だけを使って定義されていた量だったことを思い出そう。)
第一基本量というのは、曲面のある点における接線ベクトルの内積、つまりその曲面上に住む人からみた「ものさし」のような量である。こんな「曲面の中」に含まれているような情報から、曲面の曲がり具合という「曲面と外との関係性」が得られることが驚異的なのだ。だっておかしいじゃないか。接線ベクトルはその点において曲面に平行なベクトルであるのに、その二本の間の関係性をみるとなぜか接平面からのずれ具合がわかってしまうのだから。(曲がり具合が分かるとはいっても、法曲率全体がわかるわけでは無いことには注意しておこう。わかるのはGauss曲率だけだ。それでも十分すごいんだけど。)
曲率テンソルには、もっと内在的な意味合いもあるんだけど、それは今後共変微分を学んだ後のお楽しみ。