1.曲面の曲率
前回曲面\(\b{p}(u^1,u^2)\)上に存在する曲線
\[\b{x}(s)=\b{p}(u^1(s),u^2(s))\]
を考えて、
法曲率
という量を、曲率ベクトル\(\b{x}''\)の曲面の法線方向成分として次のように定義した。
\[\kappa_n = \b{x}''\cdot\b{N}\tag{1}\]
ただし\(\b{N}\)は曲面の単位法線ベクトルで、具体的に書くなら
\[\b{N}=\frac{\frac{\partial\b{p}}{\partial u^1}\times\frac{\partial\b{p}}{\partial u^2}}{\left|\frac{\partial\b{p}}{\partial u^1}\times\frac{\partial\b{p}}{\partial u^2}\right|}\]
というベクトルだ。
今回は、この法曲率を具体的に計算して、
平均曲率
・
全曲率
という量を紹介する。公式だけを知りたい人もいるだろうから先に求める式だけ書いておこう。第一基本量を\(g_{ij}\)、第二基本量を\(h_{ij}\)とすると、全曲率 (ガウス曲率) は
\[K=\frac{h_{11}h_{22}-h_{12}^2}{g_{11}g_{22}-g_{12}^2}\]
で、平均曲率は
\[H=\frac{g_{11}h_{22}+g_{22}h_{11}-2g_{12}h_{12}}{2(g_{11}g_{22}-g_{12}^2)}\]
である。
2.法曲率の表現方法
法曲率\(\kappa_n\)を上の(1)式とは別の表現によって表してみよう。まず注目するのは、曲線の接ベクトルと曲面の法線ベクトルはいつでも直交する、すなわち
\[\frac{d\b{x}}{ds}\cdot\b{N}=0\]
という式だ。これを微分すれば、
\[\frac{d^2\b{x}}{ds^2}\cdot\b{N} + \frac{d\b{x}}{ds}\cdot\frac{d\b{N}}{ds} = 0 \\\iff \kappa_n = -\frac{d\b{x}}{ds}\cdot\frac{d\b{N}}{ds} \tag{2}\]
となる。形式的な変形をすると、
\[\kappa_nds^2=-d\b{x}\cdot d\b{N}\]
である。ここで前回までに紹介しておいた、曲面の
第一基本形式と
第二基本形式を思い出す。第一・第二基本形式とは、以下のような式のことだった。
\begin{align}
ds^2 &= \sum_i\sum_j g_{ij}du^idu^j \\
-d\b{x}\cdot d\b{N} &= \sum_i\sum_j h_{ij}du^idu^j
\end{align}
ちなみに、\(g_{ij},h_{ij}\)は曲面が与えられたとき勝手に決まる量だった。これを使うと、
\[\kappa_n\sum_i\sum_j g_{ij}du^idu^j = \sum_i\sum_j h_{ij}du^idu^j\tag{3}\]
となる。微分の形で表されていて少しわかりにくいので、もう少し明示的な形まで持っていこう。例えば\(ds^2\)で割ると、
\[\kappa_n= \left.\left(\sum_i\sum_j h_{ij}\frac{du^i}{ds}\frac{du^j}{ds}\right)\right/\left(\sum_i\sum_j g_{ij}\frac{du^i}{ds}\frac{du^j}{ds}\right)\tag{4}\]
となって、ある曲線\(\b{x}(s)\)が与えられたときの法曲率がこの式によって計算できることがわかるだろう。
2.全曲率・平均曲率
上で求めた法曲率は曲線の通る方向の関数になっている。通る方向といったのは、曲線の接ベクトルを計算すると、
\[\frac{d\b{x}}{ds}=\frac{du^1}{ds}\frac{\partial\b{p}}{\partial u^1}+\frac{du^2}{ds}\frac{\partial\b{p}}{\partial u^2}\tag{5}\]
となっていて、その点での自然基底
\[\frac{\partial\b{p}}{\partial u^1},~\frac{\partial\b{p}}{\partial u^2}\]
を使って曲面に対するある接ベクトルを定めているからだ。
しかし、(4)の法曲率は方向によって違う曲率になってしまうから、曲面の曲がり具合を端的に表しているとはいえないだろう。そこで、もっと簡単に曲面の「曲がり具合」を表す言葉として、
全曲率 (ガウス曲率)
や
平均曲率
を紹介しよう。
どちらの量も、方向を少しずつ変えていったときの、法曲率の最大値\(\kappa_{n1}\)と最小値\(\kappa_{n2}\)を用いて定義される。ガウス曲率は、これらの積
\[K=\kappa_{n1}\kappa_{n2}\tag{6}\]
であり、平均曲率はこれらの算術平均
\[H=\frac{\kappa_{n1}+\kappa_{n2}}{2}\tag{7}\]
である。さて、この2つの量を具体的に求めていこう。ただし、以下の議論では\(h_{ij}\)や\(g_{ij}\)の組み合わせはある程度よい性質であるとする。(例えば分母に出てくるものは0にはなっていないものとする。)
(4)式の形を見ると、法曲率を決めているのは
\[\frac{du^1}{ds}, \frac{du^2}{ds}\]
という2つの量というよりは、それらの比
\[w=\left.\frac{du^1}{ds}\right/\frac{du^2}{ds}\]
である。
この\(w\)を使うと(4)式は、
\[\kappa_n(w) = \frac{h_{11}w^2+2h_{12}w+h_{22}}{g_{11}w^2+2g_{12}w+g_{22}}\tag{8}\]
と書き直される。
ここからこの法曲率の極値を調べるわけだ。\(w\)で微分して調べてやればいいだろう。ちょっとめんどくさいがやってみる。
\[
\frac{d\kappa_n}{dw} = \frac{2(h_{11}w+h_{12})(g_{11}w^2+2g_{12}w+g_{22})-(h_{11}w^2+2h_{12}w+h_{22})2(g_{11}w+g_{12})}{(g_{11}w^2+2g_{12}w+g_{22})^2}
\]
極値を求めたいのだから、分子=0となる\(w\)の値が重要である。つまり
\[
(h_{11}w+h_{12})(g_{11}w^2+2g_{12}w+g_{22})-(h_{11}w^2+2h_{12}w+h_{22})(g_{11}w+g_{12}) = 0 \tag{9}
\]
となる\(w\)を見つける必要がある。
展開して整理すれば3乗の項は消えてくれて、
\[
(g_{12}h_{11}-g_{11}h_{12})w^2 + (g_{22}h_{11}-g_{11}h_{22})w + g_{22}h_{12} - g_{12}h_{22} = 0
\tag{10}\]
となる。しかしwの解は非常にめんどくさい形になるようだ。上の式の解は、
\[
w_1=\frac{-(g_{22}h_{11}-g_{11}h_{22})+\sqrt{(g_{22}h_{11}-g_{11}h_{22})^2+4(g_{12}h_{11}-g_{11}h_{12})(g_{22}h_{12} - g_{12}h_{22})}}{2(g_{12}h_{11}-g_{11}h_{12})} \\\\
w_2=\frac{-(g_{22}h_{11}-g_{11}h_{22})-\sqrt{(g_{22}h_{11}-g_{11}h_{22})^2+4(g_{12}h_{11}-g_{11}h_{12})(g_{22}h_{12} - g_{12}h_{22})}}{2(g_{12}h_{11}-g_{11}h_{12})}
\]
だ。これを(8)式に代入すればよいのだが、さすがにめんどくさすぎるから、少し違うやり方で行こう。全曲率と平均曲率を求めるには、何も最大値と最小値それぞれを求める必要は無くて、それらの積や和が求まればいいのだから。
3.全曲率の計算
\(w=w_1\)において\(\kappa_n\)は次のように変形できる。
\begin{align}
\kappa_n(w_1) &=\frac {h_{11}w_1^2+2h_{12}w_1+h_{22}}{g_{11}w_1^2+2g_{12}w_1+g_{22}} \\\\
&=\frac {h_{11}w_1^2+2h_{12}w_1+h_{22}}{g_{11}w_1^2+2g_{12}w_1+g_{22}}\frac{h_{11}w_1+h_{12}}{h_{11}w_1+h_{12}} \\\\
&=\frac {(h_{11}w_1^2+2h_{12}w_1+h_{22})(h_{11}w_1+h_{12})}{(h_{11}w_1^2+2h_{12}w_1+h_{22})(g_{11}w_1+g_{12})} ~~~~~((9)式より) \\\\
&=\frac{h_{11}w_1+h_{12}}{g_{11}w_1+g_{12}}\tag{11}
\end{align}
\(w=w_2\)でも当然同じ式が成り立つので、全曲率は
\[K=\kappa_n(w_1)\kappa_n(w_2)=\frac{(h_{11}w_1+h_{12})(h_{11}w_2+h_{12})}{(g_{11}w_1+g_{12})(g_{11}w_2+g_{12})} \tag{12}\]
となる。(10)式をもう少し展開してみると、
\[
K=\frac{h_{11}^2w_1w_2 + h_{11}h_{12}(w_1+w_2)+h_{12}^2}{g_{11}^2w_1w_2 + g_{11}g_{12}(w_1+w_2)+g_{12}^2}\tag{13}
\]
である。ここで、\(w_1,w_2\)が(10)の二次方程式の解だったことを思い出すと、その積と和は簡単に求めることができて、
\[\begin{align}
w_1w_2&=\frac{g_{22}h_{12} - g_{12}h_{22}}{g_{12}h_{11}-g_{11}h_{12}}\\
w_1+w_2&=-\frac{g_{22}h_{11}-g_{11}h_{22}}{g_{12}h_{11}-g_{11}h_{12}}
\end{align}\tag{14}\]
となるので、これを代入して頑張って計算する。
\begin{align}
K&=\frac{h_{11}^2(g_{22}h_{12} - g_{12}h_{22})-h_{11}h_{12}(g_{22}h_{11}-g_{11}h_{22})+h_{12}^2(g_{12}h_{11}-g_{11}h_{12})}
{g_{11}^2(g_{22}h_{12} - g_{12}h_{22})-g_{11}g_{12}(g_{22}h_{11}-g_{11}h_{22})+g_{12}^2(g_{12}h_{11}-g_{11}h_{12})}\\\\
&=\frac{g_{22}h_{11}^2h_{12}-g_{12}h_{11}^2h_{22}-g_{22}h_{11}^2h_{12}+g_{11}h_{11}h_{12}h_{22}+g_{12}h_{11}h_{12}^2-g_{11}h_{12}^3}
{g_{11}^2g_{22}h_{12}-g_{11}^2g_{12}h_{22}-g_{11}g_{12}g_{22}h_{11}+g_{11}^2g_{12}h_{22}+g_{12}^3h_{11}-g_{11}g_{12}^2h_{12}}\\\\
&=\frac{g_{12}h_{11}^2h_{22}+g_{11}h_{11}h_{12}h_{22}+g_{12}h_{11}h_{12}^2-g_{11}h_{12}^3}
{g_{11}^2g_{22}h_{12}-g_{11}g_{12}g_{22}h_{11}+g_{12}^3h_{11}-g_{11}g_{12}^2h_{12}}\\\\
&=\frac{g_{12}h_{11}(h_{12}^2-h_{11}h_{22})+g_{11}h_{12}(h_{11}h_{22}-h_{12}^2)}
{g_{11}h_{12}(g_{11}g_{22}-g_{12}^2)+g_{12}h_{11}(g_{12}^2-g_{11}g_{22})} \\\\
&=\frac{h_{11}h_{22}-h_{12}^2}{g_{11}g_{22}-g_{12}^2}
\end{align}
できた!自分のやり方でできたし満足だ。
教科書とかはもっと洗練された方法で計算しているのだろうが、僕が全曲率を計算するときに思いついたのはこの方法位だった。センスは無いかもしれないが結果は同じだ。行列式の形をしていることにも気づいておこう。つまり、
\[g=\det\left(\begin{array}{cc} g_{11} & g_{12} \\ g_{21} & g_{22} \end{array}\right)\\
h=\det\left(\begin{array}{cc} h_{11} & h_{12} \\ h_{21} & h_{22} \end{array}\right)
\]
とすればこれは、
\[K=g/h\]
である。
4.平均曲率の計算
次に平均曲率は、
\[H = \frac{\kappa_{n1}+\kappa_{n2}}{2}\]
だった。早速求めていこう。
(11)から、
\[2H = \frac{h_{11}w_1+h_{12}}{g_{11}w_1+g_{12}} + \frac{h_{11}w_2+h_{12}}{g_{11}w_2+g_{12}}\]
であり、\(w_1,w_2\)の和と積は(14)によってわかっている。一気に計算してしまおう。
\begin{align}
2H &= \frac{(h_{11}w_1+h_{12})(g_{11}w_2+g_{12})+(h_{11}w_2+h_{12})(g_{11}w_1+g_{12})}{(g_{11}w_1+g_{12})(g_{11}w_2+g_{12})} \\\\
&= \frac{(g_{11}h_{11}w_1w_2 + g_{12}h_{11}w_1 + g_{11}h_{12}w_2 + g_{12}h_{12})+(g_{11}h_{11}w_1w_2 + g_{11}h_{12}w_1 + g_{12}h_{11}w_2 + g_{12}h_{12})}
{g_{11}^2w_1w_2 + g_{11}g_{12}(w_1+w_2)+g_{12}^2} \\\\
&=\frac{2g_{11}h_{11}w_1w_2 + (g_{11}h_{12}+g_{12}h_{11})(w_1+w_2) + 2g_{12}h_{12}}
{g_{11}^2w_1w_2 + g_{11}g_{12}(w_1+w_2)+g_{12}^2}\\\\
&=\frac{2g_{11}h_{11}(g_{22}h_{12} - g_{12}h_{22}) - (g_{11}h_{12}+g_{12}h_{11})(g_{22}h_{11}-g_{11}h_{22}) + 2g_{12}h_{12}(g_{12}h_{11}-g_{11}h_{12})}{(g_{11}g_{22}-g_{12}^2)(g_{11}h_{12}-g_{12}h_{11})}\\\\
&=\frac{2g_{11}g_{22}h_{11}h_{12}-2g_{11}g_{12}h_{11}h_{22} - g_{11}g_{22}h_{11}h_{12} + g_{11}^2h_{12}h_{22} - g_{12}g_{22}h_{11}^2 + g_{11}g_{12}h_{11}h_{22} + 2g_{12}^2h_{11}h_{12} - 2g_{11}g_{12}h_{12}^2}{(g_{11}g_{22}-g_{12}^2)(g_{11}h_{12}-g_{12}h_{11})}\\\\
&=\frac{g_{11}g_{22}h_{11}h_{12}-g_{11}g_{12}h_{11}h_{22}+g_{11}^2h_{12}h_{22}-g_{12}g_{22}h_{11}^2+ 2g_{12}^2h_{11}h_{12} - 2g_{11}g_{12}h_{12}^2}{(g_{11}g_{22}-g_{12}^2)(g_{11}h_{12}-g_{12}h_{11})}\\\\
&=\frac{g_{22}h_{11}(g_{11}h_{12}-g_{12}h_{11})+g_{11}h_{22}(g_{11}h_{12}-g_{12}h_{11})+2g_{12}h_{12}(g_{12}h_{11}-g_{11}h_{12})}{(g_{11}g_{22}-g_{12}^2)(g_{11}h_{12}-g_{12}h_{11})}\\\\
&=\frac{g_{11}h_{22}+g_{22}h_{11}-2g_{12}h_{12}}{g_{11}g_{22}-g_{12}^2}
\end{align}
となる!いやあ大変だったけどやってみるもんだな。つまり平均曲率\(H\)は
\[H=\frac{g_{11}h_{22}+g_{22}h_{11}-2g_{12}h_{12}}{2(g_{11}g_{22}-g_{12}^2)}\]
である。さっきに比べてあんまりきれいじゃないな。
今回はこの辺で終わろう。次回は接ベクトルや法線ベクトルが、曲面上でどのように変化するか考える。