物理とか

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反変ベクトル・共変ベクトルの関係


1.反変成分と共変成分

突然だが、Riemann空間では

計量

と呼ばれる二次の対称テンソル場\(g_{ij}\)が定義されていた。そのテンソル場とある反変ベクトル\(v^i\)を掛けあわせて和をとったもの、\(g_{ij}v^j\)は共変的なベクトルである。

実はこの\(g_{ij}v^j\)というベクトルは、元のベクトルの見方を変えたようなベクトルなのだが、これをベクトル\(v\)の

共変成分

と呼んで、これからは\(v_i = g_{ij}v^j\)と書くことにする。逆に元の反変ベクトル\(v^i = g^{ij}v_j\)はベクトル\(v\)の

反変成分

と呼ばれる。

2.実例

実例を考えてみないことには、本当にベクトルの反変成分と共変成分が対応関係にあるか、ということを確かめた気がしなくて気持ちが悪い。

それでは実際に確かめてみよう。

ただ一般論で行くのは難しいから、とりあえず曲面上の話にして、具体性をもたせていく。曲面\(\b{p}(x^1,x^2)\)上の\(g_{ij}\)は \[g_{ij} = \frac{\partial \b{p}}{\partial x^i}\cdot\frac{\partial \b{p}}{\partial x^j} = \b{p}_i\cdot\b{p}_j\] だった。(第一基本形式参照。)

じゃあ反変的な位置ベクトル \[\b{v} = v^j\b{p}_j \tag{1}\] の共変成分を見てみよう。 \[v_i = g_{ij}v^j = (\b{p}_i\cdot\b{p}_j)v^j\] となるが、一方(1)式の両辺と\(\b{p}_i\)の内積をとってみると、 \[\b{v}\cdot\b{p}_i = (\b{p}_i\cdot\b{p}_j)v^j\] となるから、 \[v_i = \b{v}\cdot\b{p}_i \tag{2}\] である。これが共変成分の意味である。図を書けばわかりやすいからかいてみてほしい。(ただし基底\(\b{p}_i\)を直交させないようにしよう。直交させてしまうとよくわからなくなってしまうからな。)

と、言われても納得できないときのために説明を書いておく。

反変ベクトルでは、基底のある実数倍(定数ではなく関数だが)を足しあわせたもの\(v^i\b{p}_i\)によって、位置ベクトルを表現していた。その係数\(v^i\)だけを取り出したものが反変ベクトルというわけ。共変ベクトルでは、上の式を見る限り、それぞれの基底ベクトルへの射影をもってベクトルを表現しているわけだ。そのどちらもベクトルを一意的に決められるから、確かに反変ベクトルと共変ベクトルは対応関係にあって、見方が違うだけ、ということが言える。

さらに重要なのは、(1),(2)式を見ればわかるように、正規直交基底では、共変ベクトルと反変ベクトルは同じようなベクトルとなるということだ。だから、反変ベクトルと共変ベクトルを理解するために図を書くときは、直交していない基底で書かないとだめだったのだ。

3.双対基底

ついでなので、

双対基底

の話もしておこう。共変ベクトルは、元の基底\(\b{p}_i\)から見てしまうと、基底に対しての射影という一瞬理解が難しいような概念になってしまう。そこで、共変ベクトルに対して、 \[\b{v} = v_i\b{p}^i\] となるような基底\(\b{p}^i\)を考えると共変ベクトルも直感的に理解できるようになる。そのような基底のことを

双対基底

と呼ぶ。

双対基底の間の関係を考えよう。
上の式の両辺と\(\b{p}_j\)の内積をとる。すると、 \[\b{v}\cdot\b{p}_j = v_i\b{p}^i\cdot\b{p}_j\] これの左辺は(2)式から明らかに\(v_j\)である。したがって、 \[v_j = (\b{p}^i\cdot\b{p}_j)v_i\] これが常に成り立つためにはどんなことが必要だろうか。このままではわかりにくいから、j=1の式とj=2の式を並べて和もしっかりと書いてみる。(一応二次元の話だとしておこう。書くのもめんどくさいし。高次元になっても基本的な議論は変わらない。) \begin{align} v_1 &= (\b{p}^1\cdot\b{p}_1)v_1 + (\b{p}^2\cdot\b{p}_1)v_2 \\ v_2 &= (\b{p}^1\cdot\b{p}_2)v_1 + (\b{p}^2\cdot\b{p}_2)v_2 \end{align} これを行列表示してやると、 \[ \left(\begin{array}{c}v_1\\v_2\end{array}\right) = \left(\begin{array}{cc}\b{p}_1\cdot\b{p}^1 & \b{p}_1\cdot\b{p}^2 \\ \b{p}_2\cdot\b{p}^1 & \b{p}_2\cdot\b{p}^2\end{array}\right) \left(\begin{array}{c}v_1\\v_2\end{array}\right) \] もう一目瞭然である。係数行列はどう考えても単位行列でなくてはいけない。したがって、 \[ \b{p}_i\cdot\b{p}^j = \delta_i^{~j} = \left\{ \begin{array}{cc} 1 & (i=j) \\ 0 & (i \neq j) \end{array}\right. \] という関係性があるということがわかる。この式によって双対な基底同士が結ばれているのだ。

この双対基底という概念は、物理において、結晶を扱うときに基本となる逆格子ベクトルに現れているようだ。「ちょっと見方を変えてみる」ということは如何に強力な武器だろうか。

さらに、実は計量の逆行列\(g^{ij}\)は双対基底\(\b{p}^i\)を用いて、 \[g^{ij} = \b{p}^i\cdot\b{p}^j\] となっている。まあ簡単に導出できるだろうし、感覚的にもこうなっているのが間違いないから、特に導出の過程は書かない。

4.内積

そういえばRiemann幾何における

内積

の定義についてやっておくのを忘れていたから、このへんでやっておこうと思う。
2つのベクトル\(\b{v}=v^i\b{p}_i, \b{w} = w^i\b{p}_i\)の内積はどのように定義したらいいだろうか?これまでの(高校などでやってきた)内積のやり方にのっとってやってみよう。 \begin{align} \b{v}\cdot\b{w} &= (v^i\b{p}_i)\cdot(w^i\b{p}_i) \\ &= (v^i\b{p}_i)\cdot(w^j\b{p}_j) \\ &= v^iw^j(\b{p}_i\cdot\b{p}_j) \\ &= g_{ij}v^iw^j \end{align} ということでこれからRiemann空間では \[\b{v}\cdot\b{w} = g_{ij}v^iw^j = v_jw^j =v^iw_i\] というふうに内積を定義してやれば良さそうだ。実際これはスカラーになっている。さらに、ベクトルのなす角\(\theta\)は \[\cos\theta = \frac{g_{ij}v^iw^j}{\sqrt{g_{ij}v^iv^j}\sqrt{g_{ij}w^iw^j}}\] と定義される。

ここまで基底ありきで議論を進めてきたが、これは直感的に理解できるようにするためにそうしたのであり、本当のRiemann幾何というのは最初に計量テンソルありきの理論である。だから本当は内積などの定義は定義として受け止めるのが本来の数学であり、例えば内積であればそれが内積の公理を満たしていることを確認するべきなのだ。しかしまあ僕は、物理で使うのであれば、できるだけ抽象性を省いた形で理解をしたかったからこのような形でまとめた。もし気に食わないようであれば、数学書を読んでもらいたい。