1.テンソルの定義
テンソルとはベクトルの概念の拡張である。ベクトルはある数字の一次元的な組で、添字一つで一つ一つの成分を区別していた。テンソルはその数字の組を一次元的なものから二次元的、さらには三次元、四次元・・・と増やしていったものだ。添字は2個(2階のテンソル)だったり、3個(3階のテンソル)だったり、n個(n階のテンソル)だったりする。プログラミングを知っている人には「配列」といったほうがわかりやすいだろうか。添字が2個の場合は平面上に行列として次のように表記できる
\[\left( \begin{array}{cc}
T_{11} & T_{12} \\
T_{21} & T_{22}
\end{array} \right)\]
のだが、3個の場合にはそうはいかない。3階のテンソルをまとめて表現しようとすれば、立方体を考えて、立体的に表してやるほかないのだ。(どのようにすればよいかというのはそんなに難しい問題でもないだろう。画像をつくろうかとも思ったがめんどくさいのでやめてしまった。そのうち作るかもしれない。)
というふうに、ベクトルの拡張がテンソルであるので、当然テンソルも座標変換によってその見え方が変化する。その変化の仕方によって、テンソルにも
共変テンソル
と
反変テンソル
が存在する。それぞれ座標変換をした時の振る舞いから定義されるが、ベクトルの時とほぼ同じである。
共変テンソル
とは、\(x\)から\(x'\)への座標変換の時に、その各成分\(T_{ij}\)が、
\[T'_{ij} = \frac{\partial x^k}{\partial x'^i}\frac{\partial x^l}{\partial x'^j} T_{kl}\]
という変換を受ける量のことをいう。また
反変テンソル
とは、同じ座標変換の時に、その各成分\(T^{ij}\)が、
\[T'^{ij} = \frac{\partial x'^i}{\partial x^k}\frac{\partial x'^j}{\partial x^l} T^{kl}\]
のようになるもののことをいう。これが定義なのだから了解するしか仕方がない。
また、テンソルには
混合テンソル
というものもある。これはある一つまたは複数の添字について反変的で、他の添字については共変的であるようなテンソルのことだ。その変換は次のようになる。
\[T'^i_{~j} = \frac{\partial x'^i}{\partial x^k}\frac{\partial x^l}{\partial x'^j} T^k_{~l}\]
まあテンソル一般論についてはこの程度だろう。
2.計量テンソル
話ががらっと変わるが、
前々回に出てきたRiemann空間の定義に、二次の対称テンソル場\(g_{ij}\)というのがあった。これは二次元の場合には、曲面の第一基本量に一致する量であり、空間の微小距離が\(ds^2 = g_{ij}dx^idx^j\)と定義されていることから、
計量テンソル
と呼ばれたり、あるいはただ単に
計量
と呼ばれたりする。
そもそもRiemann幾何というのが発展し始めたきっかけは、Gaussが発見した、
Theorema Egregium(驚異の定理)である。これは曲面上の計量テンソル(=第一基本量)のみによって、曲面の
全曲率が計算される、という定理だ。だから、とにかくその計量テンソル\(g_{ij}\)だけ定義してしまえば、その空間の性質が決定されるといっても過言ではない。そこでRiemann幾何では、それだけをとりあえず定義して議論を深めていく。
この辺りの事情から、\(g_{ij}\)という量が非常に大きな役割を占めているのはわかる。ちょっと性質をたしかめておこう。ずっと下付きの添字で表してきたが、本当に共変的なのだろうか?
実は、\(ds^2 = g_{ij}dx^idx^j\)をみれば簡単に確かめられる。座標変換によって、座標の微分\(dx\)は次のように変換される。
\[dx^i = \frac{\partial x^i}{\partial x'^k}dx'^k\]
したがって、座標変換後は、
\[ds^2 = g_{ij}\frac{\partial x^i}{\partial x'^k}\frac{\partial x^j}{\partial x'^l}dx'^kdx'^l\]
となるわけだ。座標変換後の計量テンソルは
\[ds^2 = g'_{kl}dx'^kdx'^l\]
の形になるはずなのだから、
\[g'_{kl} = \frac{\partial x^i}{\partial x'^k}\frac{\partial x^j}{\partial x'^l}g_{ij}\]
であるべきである。これをみれば明らかに計量テンソルが共変的なものであることがわかるだろう。
また、これからは\(g^{ij}\)を
\[g^{ij}g_{jk} = \delta^i_{~k} = \left\{ \begin{array}{cc} 1 & (i=k) \\ 0 & (i \neq k) \end{array}\right. \]
となるような(
逆行列)テンソルとして扱っていく。