1.座標変換
ベクトルやテンソルの話に入る前に、まずは座標変換について学ばなければいけないらしい。
まあそんなに難しい話でもない。ただ単にあるものの見方を変えるというそれだけだ。具体的な話をしていこう。
あるRiemann空間\(A\)上の点\(a_1\)が、Euclid空間のある領域の値\(x_1\)を使って\(a=f(x)\)のように座標で表示できていたとする。このときに違う写像\(g\)を使ってある違う点\(x'\)から\(a\)へ写すことができるなら、この\(x'\)だって座標である。別に\(x\)にこだわらなくても\(x'\)を使ったほうが便利なときだってあるだろう。
この\(x\)と\(x'\)の関係について考えると、どちらも\(a\)を指し示すのだから当然\(f(x)=g(x')\)である。つまり\(x'=g^{-1}\circ f(x)\)とかけるわけだ。\(f,g\)とその逆写像はどれも全単射で連続なのだ(
前回参照)から、その合成写像も全単射で連続なはず。
そこで、座標変換は全単射で連続な写像\(\phi=g^{-1}\circ f(x)\)を用いて、\(x'=\phi(x)\)の形に書くことにしよう。
2.スカラー
まずは
スカラー
について簡単に説明しておく。
スカラー
とは、座標変換によってその値が変化しない量\(f(x)\)のことだ。つまり、Riemann空間内の1つの点が、\(x=a,x'=a'\)として表されていたとすると、\(f(a)=f'(a')\)となるということである。(当然関数の形自体は変化するから、変換後の関数を\(f'\)とした。)
相対論で言えば、静止質量や光速なんかがそれにあたる。
3.基底ベクトルの変換
Riemann空間での基底ベクトルが座標変換によってどのように変化するか考えてみる。わかりやすいように、3次元空間内の曲面\(\b{p}(x^1,x^2)\)について考えていこう。
まずある点における曲面上の基底のようなもの、つまり曲面の接線ベクトルは、
\[\left(\frac{\partial\b{p}}{\partial x^1},\frac{\partial\b{p}}{\partial x^2}\right)\]
の2つであるわけだが、座標変換\(x=\phi(x')\)を施した後には次のようになるだろう。
\[\frac{\partial\b{p}}{\partial x'^1} = \frac{\partial x^1}{\partial x'^1}\frac{\partial\b{p}}{\partial x^1} + \frac{\partial x^2}{\partial x'^1}\frac{\partial\b{p}}{\partial x^2} \]
\[\frac{\partial\b{p}}{\partial x'^2} = \frac{\partial x^1}{\partial x'^2}\frac{\partial\b{p}}{\partial x^1} + \frac{\partial x^2}{\partial x'^2}\frac{\partial\b{p}}{\partial x^2} \]
まとめて書けば下のようになる。
\[\frac{\partial\b{p}}{\partial x'^i} = \frac{\partial x^j}{\partial x'^i}\frac{\partial\b{p}}{\partial x^j}\]
さらにわかりやすく\(\b{p}'_i = \frac{\partial\b{p}}{\partial x'^i}, \b{p}_i = \frac{\partial\b{p}}{\partial x^i}\)としてやれば、
\[\b{p}'_i = \frac{\partial x^j}{\partial x'^i} \b{p}_j\]
まあこんな二次元だとこんな感じでできるわけだが、高次元になっても同じであることは式展開からもなんとなくわかるだろう。
しかしちょっと微妙な議論かもしれない。なぜなら、曲面の接線ベクトルと言うのは一般に曲面の外に飛び出していて、Riemann空間内で完結していないから。でもまあ局所的に小さい範囲を見れば上のようなイメージでもいいんじゃないだろうか。
4.反変ベクトル
上の基底ベクトルの変換を踏まえて、
反変ベクトル
と
共変ベクトル
が定義される。反変ベクトルというのは、\(x\)から\(x'\)への座標変換によって次のような変換を受ける変数の組であり、添字を上に付けて表すと約束されている。
\[v'^i(x') = \frac{\partial x'^i}{\partial x^j} v^j(x)\]
上で見た基底の変換と逆になっているから
「反変」というらしい。
簡単な例は位置ベクトルだ。位置ベクトルは基底の線形結合で、
\[\b{v} = v^i\b{p}_i\]
の形に表せる。座標変換をおこなうと基底が上のように変化するのだが、位置ベクトル自体は変化してはこまる。位置ベクトルというのはある1つの「位置」を指し示していてほしいからだ。
基底が
\[\b{p}'_i = \frac{\partial x^j}{\partial x'^i} \b{p}_j\]
と変換されるなら、それを打ち消すという視点から、
\[v'^i(x') = \frac{\partial x'^i}{\partial x^j} v^j(x)\]
としないといけない。実際こうすれば
\[\b{v} = v^i\b{p}_i = v'^i\b{p}'_i \]
のように変換後も位置ベクトル自体は変化しない。したがって、位置ベクトルは反変ベクトルであるといえる。
5.共変ベクトル
基底ベクトルの変換と同じ変換を受けるベクトルを
共変ベクトル
と呼ぶ。すなわち共変ベクトルとは、\(x\)から\(x'\)への座標変換によって
\[w'_i(x') = \frac{\partial x^j}{\partial x'^i} w_j(x)\]
の形の変換を受けるものであり、これは下付きの添字によってあらわす。
例えば、あるスカラー関数の勾配ベクトル、すなわち\(\grad f\)が共変ベクトルである。\(\grad f\)は\(\frac{\partial f}{\partial x^i}\)というのを各成分にもつベクトルであるから、これの変換を考えてみよう。
\begin{align}
\frac{\partial f'(x')}{\partial x'^i} &= \frac{\partial f(x)}{\partial x'^i} \\\\
&= \frac{\partial x^j}{\partial x'^i}\frac{\partial f(x)}{\partial x^j}
\end{align}
とできるので、このベクトルの共変性が確かめられた。
次回はテンソル、次々回は反変ベクトルと共変ベクトルの関係性やら相互変換やらについて書いていく。