物理とか

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逆格子ベクトルの導出とその意味


1.並進対称性

早速だが、並進ベクトル\(\b{T}\)を次のように定義しよう。 \[\b{T}= u_1 \b{a}_1 + u_2 \b{a}_2 + u_3 \b{a}_3 ~~~~~ (u_1,u_2,u_3 は整数) \tag{1}\] \(\b{a}_1,\b{a}_2,\b{a}_3\)は結晶の基本並進ベクトルである。基本並進ベクトルは、(1)式のような組み合わせによって結晶中の任意の格子点を表すことができるベクトルである。格子点から格子点へと移るベクトルが並進ベクトル\(\b{T}\)なのだから、\(\b{T}\)によって平行移動させても考えている結晶が十分大きいならば、結晶の基本的な構造は変化しない。したがって、このような並進ベクトルに対して、結晶が持つ何らかの物理的な性質\(\psi(\b{r})\)は以下のような周期性を持つことになる。 \[\psi(\b{r}+\b{T}) = \psi(\b{r})\]

2.Fourier展開

物理的な性質の例として、電子の分布を考えてみよう。電子の密度が\(n(\b{r})\)の形で表されているとする。すると、これも結晶がもつ性質にかわりないのだから、 \[n(\b{r}+\b{T})=n(\b{r})\] という周期性を持つだろう。よって\(n(\b{r})\)をFourier展開することができるはずだ。実は、結晶の逆格子ベクトルというものは、このFourier展開と密接に関係している。

そこでまずは簡単に、ある方向xへの周期性を考えていこう。x方向への周期をaとするならば、Fourier展開は次のようになる。 \[n(x) = \sum_m\left\{a_m\cos\left(\frac{2\pi mx}{a}\right) + b_m\sin\left(\frac{2\pi mx}{a}\right)\right\}\] この式を見たことがない人はFourier展開について勉強する必要がある。このままでもいいんだけども、今回はもう少し扱いやすい複素表示 \[n(x) = \sum_m n_m \exp\left(\frac{i2\pi mx}{a}\right)\] を使う。これを三次元に拡張してみよう。それをするには、周期性を見てやる方向\(\b{r}\)と波数ベクトル(のようなもの)\(\b{G}\)を定義して、 \[n(x) = \sum_i n_{\b{G}_i} \exp(i\b{G}_i\cdot\b{r}) \] のように書くことができる。一般に結晶は色々な方向に周期性を持つので、その周期性の方向を向いたベクトルが\(\b{G}_i\)というわけだ。

少し寄り道して、展開係数\(n_{\b{G}_i}\)を求める方法について書いておこう。一次元のFourier展開係数を求めるときには、 \[c_n = \frac{1}{a}\int_0^a f(x)e^{-inkx}dx\] という計算をすればよかった。一周期分積分しているところがミソである。それと対応して、\(n_{\b{G}_i}\)は次のように求められるだろう。 \[n_{\b{G}_i}=\frac{1}{V}\int_V n(\b{r})\exp(-i\b{G}\cdot\b{r})dV\] \(V\)と言うのは一つの単位格子のことで、つまり一周期分積分することを意味する。

しかし\(\b{G}\)というのはどういうベクトルなのだろうか。次で見ていこう。

3.逆格子ベクトル

上で出てきた\(\b{G}\)を表そうとすると勝手に出てくるのが

逆格子ベクトル

である。

まず考えるのは、\(\b{G}\)を何らかのベクトルの組\(b_1,b_2,b_3\)の一次結合によって表せると便利だろう、ということだ。さらに(1)式の並進ベクトルと対応した形にするために、整数\(v_1,v_2,v_3\)を使って、 \[\b{G} = v_1\b{b}_1 + v_2\b{b}_2 + v_3\b{b}_3\] と書けるときれいにまとまる。しかも自動的に \[\exp\left(i\b{G}\cdot(\b{r}+\b{T})\right) = \exp(i\b{G}_i\cdot\b{r}) \tag{2}\] という周期性が満たされるようにできれば、とっても嬉しい。(\(\b{T}\)というのは並進ベクトル)

だれが考えたのかは知らないが、これを実現するような\(b_1,b_2,b_3\)は次のように計算すればいいことが知られている。 \[ \b{b}_1 = 2\pi \frac{\b{a}_2 \times \b{a}_3}{\b{a}_1\cdot(\b{a}_2\times\b{a}_3)},~~\b{b}_2 = 2\pi \frac{\b{a}_3 \times \b{a}_1}{\b{a}_1\cdot(\b{a}_2\times\b{a}_3)}, ~~\b{b}_3 = 2\pi \frac{\b{a}_1 \times \b{a}_2}{\b{a}_1\cdot(\b{a}_2\times\b{a}_3)}\tag{3}\] こうすると \[ \b{b}_i\cdot\b{a}_j = \left\{ \begin{array} ~2\pi~~~~(i=j) \\ 0 ~~~~~~(i\neq j) \end{array} \right. \] となるので、 \[\exp(i\b{G}_i\cdot\b{T}) = \exp\left(i2\pi(u_1v_1+u_2v_2+u_3v_3)\right)=1 \] から、(2)式が勝手に満たされる。(3)のベクトルが

逆格子ベクトルの基底

であり、\(\b{G} = v_1\b{b}_1 + v_2\b{b}_2 + v_3\b{b}_3\)は

逆格子ベクトル

と呼ばれている。

逆格子ベクトル

というのは、こんなふうに結晶の周期性を表すのに非常の都合の良い量であるというわけだ。

ちなみに、この逆格子ベクトルというものを数学的に呼ぶと、双対ベクトルという。


4.逆格子ベクトル・逆格子空間の意味

こいつらを初めてみるときは本当に意味不明だ。何がしたいのかわかったもんじゃない。

よく、「周期的な格子をフーリエ変換すると逆格子になる」みたいなことをいわれる。僕もそれを聞いたことがあるし、読んだこともある。でも、自分ではこれを聞いても納得することはなかった。だって空間のフーリエ変換なんてやったことが無い。

でも、ここまでの話をまとめながら、頑張って自分なりに説明を書いてみようと思う。

今回、 \[n(x) = \sum_i n_{\b{G}_i} \exp(i\b{G}_i\cdot\b{r}) \tag{2}\] という式から考えた。これは空間的な周期性を持った量\(n(x)\)をフーリエ展開した量だった。 (2)式の展開係数\(n_{\b{G}_i}\)は、\(\b{G}_i\)によって決まる量なんだから、これは逆格子ベクトルたちによって張られる空間、「逆格子空間」の上に存在するといえるだろう。それも、格子点のそれぞれに乗った形で存在して、それ以外の場所には存在しない、デルタ関数みたいな量だ。

だから、「周期的な格子の中のある任意の物理量(例えば電子密度やポテンシャル)をフーリエ変換すると、逆格子空間の格子点に値をとる」というのが正しいんじゃないだろうか?それで逆格子空間の格子点それぞれには、実空間でのある周期性が関連付けられていて、その物理量のスペクトルが完璧にわかるわけだ。

馴染みの深いであろう、時間的なフーリエ変換で周波数スペクトルをみるとき、に例えてみよう。時間でフーリエ変換をするときは、たいがい横軸に周波数をとり、縦軸にその強度をとる。逆格子空間という存在は、このときの横軸(周波数軸)に相当するといえる。

言いたいことが伝わったかわからないが、とりあえず自分用のメモとして書いてみた。