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量子化学用語まとめ


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最近量子化学に興味がある。しかし勉強してみると、聞き慣れないことばが多くてすごく混乱する。とても面白い分野なのだけれど、この「ことば」に困らされているので、その気持ちを忘れないうちに量子化学用語をまとめておきたいと思って書いている。自分の理解を確認するために書いているというのが本当のところだが、同じような境遇の人がいれば、少しでも助けになればいいかなと思う。

線型代数的な量子力学をそれなりに理解している人向けの説明。間違っている可能性は大いにあるので、間違いを見つけた人は教えてください。



原子軌道 (atomic orbit, AO)

1つの原子核の周りにが電子がただ一つ存在している系における電子の固有状態の実空間波動関数、もしくはその状態を近似する関数 \(\chi(\b{r})\) のこと。分子の空間波動関数を表現するのに、\(\{\chi_i(\b{r})\}\) を適当に線型結合させたものが使われることが多い。

分子軌道 (molecular orbit, MO)

最も一般には、原子軌道のセットを \(\chi_i(\b{r})\) としたとき、それを重み \(c_i\) で線型結合した \[\phi(\b{r}) = \sum_j c_j \chi_j(\b{r}) \tag{1}\] という関数のこと。原子軌道を線型結合してさえいれば、\(c_i\)がどんな値であろうとそれは MO と呼ばれる資格があるようだ。しかし普通は、Hartree-Fock (HF) 計算によって最適化した \(c_i\) のことを指すことが多い。文脈によって判断する。HF 計算をすると、 \[\phi_i(\b{r}) = \sum_{j} c_{ij} \chi_j(\b{r}) \tag{2}\] のように複数個の分子軌道が得られる。HF 計算によって現れるこれらの分子軌道は互いに直交する、すなわち \[\int d\b{r} \phi_i^{*}(\b{r})\phi_j(\b{r}) = \delta_{ij}\tag{3}\] を満たすので、

orthogonal molecular orbital (OMO)

とも呼ばれる。普通分子軌道といったときはこれのことを指すので、何も断りが無いときはこれのことだと判断する。逆にこの条件を満たさない分子軌道は

unorthogonal molecular orbital (UMO)

と呼ばれるが、こちらはマイナーなので普通はしっかり書いてある。

スピン軌道 (spin orbit)

分子軌道にスピン状態を付け加えたもののこと。間違ってもスピン座標のことではない。紛らわしい。

\(\phi(\b{r})\) という分子軌道にスピン関数 \(\sigma(s)\) (\(s\)はスピン座標) を付け加えた \(\phi(\b{r})\sigma(s)\) がスピン軌道である。

基底関数系

分子軌道を表現するために使う関数のセット \(\{f_i(\b{r}\}\) のこと。単に基底関数と呼ばれることもある。基底関数として原子軌道を使う場合 \(\{f_i(\b{r}\} = \{\chi_i(\b{r})\}\)である。原子軌道と基底関数という言葉は同じものを指すことも多い。下で紹介する以外にも、いろいろな基底関数系が提案されている。

水素様原子軌道 (もしくは水素様軌道, hydrogen-like orbital)

1つの原子核の周りにが電子がただ一つ存在している系における電子の厳密な固有状態の実空間波動関数のこと。ラゲール多項式とか使うやつのこと。原子軌道の厳密な形のこと。

STO 軌道 (Slater type orbital)

水素様原子軌道の動径 (\(r\)) 方向の減衰のみを近似するように作り出された原子軌道のこと。角度方向の関数としては球面調和関数を使い、動径方向は \[R(r) \propto r^{n-1}e^{-a_n r}\] の形の関数を使う。\(n\) は主量子数。考案者の Slater の名前がつけられている。

GTO 軌道 (Gaussian type orbital)

さらに近似を推し進めて \[R(r) \propto r^{n-1}e^{-a_n r^2}\] の形の関数を使った原子軌道。\(n\) は主量子数。計算が楽になるらしい。もはや「原子」軌道の特性を正しく表しているとは言えなくなっているので、基底関数と呼ぶことが多い。

STO-NG 基底関数系

さすがに GTO ではだめだということで、STO を \(N\) 個の Gaussian の線形結合によってなるべく近似しようとした基底関数。STO の動径方向を \(R_{\text{STO}}(r)\) としたとき \[R_{\text{STO}}(r) \approx r^{n-1}\sum_{i=1}^N c_{n,i} e^{-a_{n,i} r^2}\] となるように決めた関数 \[R_{\text{STO-NG}}(r) = r^{n-1}\sum_{i=1}^N c_{n,i} e^{-a_{n,i} r^2}\] のこと。

スレーター行列式

スレーター行列式といったとき多分物理の人は、適当な (直交する) 1体の波動関数 \(\phi_1(\b{r}),\cdots,\phi_N(\b{r})\) を \[ \Phi_{\phi_1\phi_2\cdots\phi_N}(\b{r}_1,\b{r}_2,\cdots,\b{r}_N) = \frac{1}{\sqrt{N!}}\left|\begin{array}{cccc} \phi_1(\b{r}_1) & \phi_1(\b{r}_2) & \cdots & \phi_1(\b{r}_N) \\ \phi_2(\b{r}_1) & \phi_2(\b{r}_2) & \cdots & \phi_2(\b{r}_N) \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ \phi_N(\b{r}_1) & \phi_N(\b{r}_2) & \cdots & \phi_N(\b{r}_N) \\ \end{array} \right|\tag{4} \] のようにフェルミオンの反対称性を満たすように \(N\) 体の波動関数 \(\Phi_{\phi_1\phi_2\cdots\phi_N}(\b{r}_1,\b{r}_2,\cdots,\b{r}_N)\) を構成する"手段"だと認識するのでは無いだろうか?(少なくとも僕はそうだった。)

しかし量子化学ではスレーター行列式といったとき、それは \(N\) 体の実空間波動関数 \(\Phi_{\phi_1\phi_2\cdots\phi_N}(\b{r}_1,\b{r}_2,\cdots,\b{r}_N)\) "そのもの" を指す。また、化学の人はあまり波動関数 \(\Phi_{\phi_1\phi_2\cdots\phi_N}(\b{r}_1,\b{r}_2,\cdots,\b{r}_N)\) とそれに対応する量子状態 \(\ket{\Phi_{\phi_1\phi_2\cdots\phi_N}}\) を区別しないことも多いようで、\(\ket{\Phi_{\phi_1\phi_2\cdots\phi_N}}\) もスレーター行列式と呼ばれることがある。もちろん、\(\ket{\Phi_{\phi_1\phi_2\cdots\phi_N}}\) はフェルミオンの生成演算子\(a^\dagger_{i}\)とフェルミオンの真空\(\ket{}\)を用いて、 \[\ket{\Phi_{\phi_1\phi_2\cdots\phi_N}} = a^\dagger_{N}\cdots a^\dagger_{2}a^\dagger_{1}\ket{}\] とかける。\(a^\dagger_{i}\) は波動関数 \(\phi_i(\b{r})\) を持つフェルミオンを生成する演算子である。

個人的には \(\ket{\Phi_{\phi_1\phi_2\cdots\phi_N}}\) をスレーター行列式と呼ぶのはすごく気持ち悪い。


Hartree-Fock 法

\(N\)電子系の量子状態をスレーター行列式 (フェルミオンの積状態) に制限し、変分法的に解く手法のこと。電子系の平均場近似と思えばよい。 この手法では、\(\ket{\Phi_{\phi_1\phi_2\cdots\phi_N}}\)に関するハミルトニアン \(H\) の期待値を、各分子軌道 \(\phi_i(\b{r})\) を変分することで最小化することを目標とする。 具体的な理論はこの記事この記事に書いた。

post-Hartree-Fock法

Hartree-Fock 法はあくまでも平均場近似なので、一般に厳密な基底状態を求めることはできない。したがって分子を正しく記述するためには Hartree-Fock 法を超えた取扱が必要である。そのような計算のことを総称して post-HF 法と呼んでいる。

電子配置 (configuration)

\(N\)個の電子に対して\(M\)個の分子軌道のセット \(\{\phi_i(\b{r})\}_{i=1}^M\) が与えられたとき、どの軌道に電子を "配置" するか、というそのやり方のこと。一つの電子配置に対して、一つのスレーター行列式が対応する。例えば \(\phi_1(\b{r}),\cdots,\phi_N(\b{r})\) という\(N\)個の軌道に電子を "配置" したとき、系の状態は \(\ket{\Phi_{\phi_1\phi_2\cdots\phi_N}}\) であり、その空間波動関数は \(\Phi_{\phi_1\phi_2\cdots\phi_N}(\b{r}_1,\b{r}_2,\cdots,\b{r}_N)\) である。

また、量子化学の人は、スレーター行列式 (すなわち平均場近似) では表せない波動関数 \(\ket{\psi}\) は、「複数の電子配置が重ね合わさってできている」とか「複数の電子配置の線型結合によって表される」とか表現する。

占有軌道・仮想軌道

Hartree-Fock法では、変分によって基底状態を表すのに最適な分子軌道 \(\{\phi_i(\b{r})\}_{i=1}^M\) が求まる。 Hartree-Fock状態は、\(N\)個の電子を軌道エネルギーが低いものから順に詰めていったものである。このとき電子が詰まっている軌道を

占有軌道

と呼び、残りの軌道を

仮想軌道

と呼ぶ。

配置間相互作用法 (configuration interaction, CI法)

Hartree-Fock 法では表せない電子状態を記述するためのアプローチの一つ。CI法は、Hartree-Fock 法によって求めた近似基底状態 \(\ket{\psi_{HF}} = \ket{\Phi_{\phi_1\phi_2\cdots\phi_N}}\) からスタートして、 \[\ket{\psi_{CI}} = \ket{\psi_{HF}} + \sum_{\mu\in \text{occ}\\ i \in \text{vir}} c_\mu^ia_i^\dagger a_\mu\ket{\psi_{HF}} + \sum_{\mu,\nu\in \text{occ}\\ i,j \in \text{vir}} c_{\mu\nu}^{ij}a_i^\dagger a_j^\dagger a_\mu a_\nu\ket{\psi_{HF}} + \cdots\] という状態を構成し、基底状態を近似するアプローチである。ここで occ は占有軌道の集合、vir は仮想軌道の集合を表し、\(c_{\mu\nu}^{ij}, c_{\mu}^{i}\) は実数係数である。第二項はHF状態の占有軌道から仮想軌道へと 1 つの電子を励起した項、第三項は2つの電子を励起した項であると理解できる。

この手法は展開の打ち切り方によってそれぞれ名前がつけられている。 という具合だ。

すべての可能な励起を考える方法は Full-CI (FCI と書かれることもある) と呼ばれている。Full-CI の波動関数は電子が\(N\)個であるようなすべての状態を用いて基底状態を表現しようとする方法であり、したがってハミルトニアンの厳密対角化と全く同じことを指している。\(M\)個の分子軌道 (\(2M\)個のスピン軌道) があるとき、\(N\)個の電子を配置する方法は \({}_{2M}C_N \approx O(2^M/\sqrt{M})\) 存在し、Full-CI の計算量は指数関数的に増大する。

結合クラスター法 (coupled cluster, CC)

CC 法では、クラスター演算子と呼ばれる演算子 \[T = \sum_{\mu\in \text{occ}\\ i \in \text{vir}} c_\mu^ia_i^\dagger a_\mu + \sum_{\mu,\nu\in \text{occ}\\ i,j \in \text{vir}} c_{\mu\nu}^{ij}a_i^\dagger a_j^\dagger a_\mu a_\nu\ket{\psi_{HF}} + \cdots\] を用いて、基底状態を \[\ket{\psi_{CC}} = e^T \ket{\psi_{HF}}\] の形で探索する。これもCIと同様にクラスター演算子 \(T\) の打ち切りの程度によって、 と呼ばれる。

Møller–Plesset (MP) 法

ハミルトニアンの相互作用項を摂動項とみなして、摂動論的に近似基底状態を得る手法。

摂動の次数によって、次のように呼ぶ。 理論的な詳細は、摂動の一般論にゆずる。

参照波動関数 (reference state)

上で説明した CI や CC, MP のような post-HF 法では、ある近似的な基底状態からスタートして、系統的に他の量子状態を導入していく事によって精度を上げていく。このような手法において、最初に用意する近似的な基底状態 \(\ket{\Psi_0}\) のことを参照波動関数とか、reference state と呼ぶ。

上の CI, CC, MP の例では、Hartree-Fock 状態 \(\ket{\psi_{HF}}\) を reference \(\ket{\Psi_0}\) として使っている。

Size consistency (大きさについての無矛盾性)

分子を2つ (相互作用させずに) 合わせて計算したときの結果と、それぞれ独立に計算したときの結果が等しくなる性質のこと。

例えば (Full-CIでない) CI は size consistent でなく、CC は size consistent である。

なぜなら、たとえば CISD では \(A\) という分子と \(B\) という分子を独立に計算するとき、 \[\ket{\psi_{CISD}^A} = \ket{\psi_{HF}^A} + \sum_{\mu\in \text{occ}\\ i \in \text{vir}} c_\mu^ia_i^\dagger a_\mu\ket{\psi_{HF}^A} + \sum_{\mu,\nu\in \text{occ}\\ i,j \in \text{vir}} c_{\mu\nu}^{ij}a_i^\dagger a_j^\dagger a_\mu a_\nu\ket{\psi_{HF}^A}\] \[\ket{\psi_{CISD}^B} = \ket{\psi_{HF}^B} + \sum_{\mu\in \text{occ}\\ i \in \text{vir}} c_\mu^ia_i^\dagger a_\mu\ket{\psi_{HF}^B} + \sum_{\mu,\nu\in \text{occ}\\ i,j \in \text{vir}} c_{\mu\nu}^{ij}a_i^\dagger a_j^\dagger a_\mu a_\nu\ket{\psi_{HF}^B}\] という形で近似的に基底状態を表現する。\(A, B\)が独立に存在する系では、全系の量子状態はこれらの直積 \(\ket{\psi_{CISD}^A}\ket{\psi_{CISD}^B}\) で与えられるだろう。この量子状態の中には、3電子励起や4電子励起の項も含まれていることは明らかである。一方で、\(A, B\)が独立に存在する系を直接 CISD で計算するときには、2電子励起までの項しか含まれない。これは独立な分子を2つ与えたとき、計算の仕方によって出てくる基底状態が異なるということであり、このことを指して size consistency が無いという。

一方で、CC は \[\ket{\psi_{CC}^A} = e^{T_A}\ket{\psi_{HF}^A}\] \[\ket{\psi_{CC}^B} = e^{T_B}\ket{\psi_{HF}^B}\] であり、合成系の基底状態は \(\ket{\psi_{CC}^A}\ket{\psi_{CC}^B} = e^{T_A+T_B}\ket{\psi_{HF}^A}\ket{\psi_{HF}^B}\) となる。これにより、クラスター演算子 \(T_A, T_B\) を例えば2電子励起で打ち切った時、合成系のクラスター演算子 \(T_{AB}\) も2電子励起で打ち切られることになる。したがって、それぞれの分子を独立に計算した場合も、合成系として計算した場合も同じ結果が得られる。したがって CC は size consistent であると言える。

縮約密度行列 (reduced density matrix, RDM)

一般的に縮約密度行列とは、ある量子系の部分系だけを残し、それ以外は積分をしてしまったときの密度行列のことを言う。部分トレースの記事参照。量子化学の場合、ある電子状態 \(\ket{\Phi}\) の密度行列 \(\rho = \ket{\Phi}\bra{\Phi}\) について、 といった具合に名前がついている。

\(N\) 個の電子が存在する系の状態 \(\ket{\Phi}\) に対する 1-RDM \(\gamma\), 2-RDM \(\Gamma\) は、その密度行列を \(\rho = \ket{\Phi}\bra{\Phi}\) として、 \[\gamma = \int d\b{r}_2\cdots d\b{r}_N \bra{\b{r}_2\cdots \b{r}_N}\rho\ket{\b{r}_2\cdots \b{r}_N}\] \[\Gamma = \int d\b{r}_3\cdots d\b{r}_N \bra{\b{r}_3\cdots \b{r}_N}\rho\ket{\b{r}_3\cdots \b{r}_N}\] と定義できる。ここで \[\ket{\b{r}_2\cdots \b{r}_N} = \frac{1}{\sqrt{(N-1)!}}\psi^\dagger(\b{r}_N)\cdots\psi^\dagger(\b{r}_2)\ket{}\] であり、\(\psi^\dagger(\b{r})=\sum_i \phi_i(\b{r})a_i^\dagger\) はフェルミオンの生成演算子である。

よく見かけるのは、これを座標表示したもの、 \begin{align} \gamma(\b{r}, \b{r}') &= \bra{\b{r}}\gamma\ket{\b{r}'}\\ &= N\int d\b{r}_2\cdots d\b{r}_N \Phi(\b{r},\b{r}_2,\cdots, \b{r}_N)\Phi(\b{r}',\b{r}_2,\cdots, \b{r}_N)^* \\ \Gamma(\b{r}_1, \b{r}_2, \b{r}_1', \b{r}_2') &= \bra{\b{r}_1\b{r}_2}\Gamma\ket{\b{r}_1'\b{r}_2'} \\&= \frac{N(N-1)}{2}\int d\b{r}_3\cdots d\b{r}_N \Phi(\b{r}_1,\b{r}_2,,\b{r}_3,\cdots, \b{r}_N)\Phi(\b{r}_1',\b{r}_2',\b{r}_3,\cdots, \b{r}_N)^* \end{align} や、モード表示したもの \begin{align} \gamma_{ij} &= \Tr(\gamma a_i^\dagger a_j ) = \bra{\Phi}a_i^\dagger a_j\ket{\Phi} \\ \Gamma_{ijkl} &= \Tr(\Gamma a_i^\dagger a_j^\dagger a_k a_l ) = \bra{\Phi}a_i^\dagger a_j^\dagger a_k a_l\ket{\Phi} \end{align} である。

多配置自己無撞着場法 (multi-configuration self consistent field, MCSCF)

Hartree-Fock 法は、 \begin{align} \ket{\psi_{HF}} &= \ket{\Phi_{\phi_1\phi_2\cdots\phi_N}} \\ &= a_N^\dagger \cdots a_1^\dagger \ket{} \end{align} という状態の軌道 \(\{\phi_i\}\) を変分し、\(\bra{\psi_{HF}}H\ket{\psi_{HF}}\) を最小化するような \(\{\phi_i\}\) を求める手法だった。

一方で多配置 SCF では、適当な電子配置のセットを選び出し、 \begin{align} \ket{\psi_{MCSCF}} &= \sum_{C\in \begin{array}{l}\text{chosen}\\ \text{configs.}\end{array}} c_C\left(\prod_{i\in C} a_{i}^\dagger \right)\ket{} \end{align} という状態の係数 \(c_C\) と軌道 \(\{\phi_i\}\) を変分する。CI と Hartree-Fock を同時に行うような手法であり、多配置 SCF と総称される。

バリエーションとしては、以下で紹介する CASSCF 以外にも、RASSCF, GASSCF, DMRG-SCF などがあるらしい。

完全活性空間 SCF 法 (complete active space self consistent field, CASSCF)

CASSCF は、HF計算によって求まった分子軌道 \(\{\phi_i\}\) のうち、占有軌道の上端に近いもの・仮想軌道の下端に近いものを適当に選び出し、その空間におけるすべての電子配置を使って MCSCF を行う手法である。選び出された軌道の集合を 活性空間 (active space) と呼ぶ。活性空間の選び方は自由であるが、普通は軌道エネルギーが近く縮退しているような軌道を選ぶ。

CASSCF(N,M)という表記は、活性空間に存在する電子数が \(N\), 分子軌道の数が \(M\) (したがってスピン軌道数は\(2M\)) であるような CASSCF のこと。

CASSCF の変分状態は \begin{align} \ket{\psi_{CASSCF}} &= \sum_{C\in \begin{array}{l}\text{active space}\\ \text{configs.}\end{array}} c_C\left(\prod_{i\in C} a_{i}^\dagger \right)\ket{} \end{align} とかけるだろう。活性空間内で Full-CI を行うことになるため、\(M, N\) に対して指数関数的に計算量が増える。