物理とか

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ハートリーフォック方程式の導出


1. 多電子系のシュレディンガー方程式

\(N\)個の電子が3次元空間に存在する系を考えよう。シュレディンガー方程式の考え方に基づけば、おのおのの電子の位置を\(\{\b{r}_i\}\)としたとき、これらの電子たちの波動関数は\(\psi(\b{r}_1,\b{r}_2,\cdots,\b{r}_N)\)と、\(3N\)次元の波\(\psi\)によって表されるのだった。

今回は、この系のシュレディンガー方程式を解くための近似手法、ハートリーフォック法について書いていこうと思う。簡単のため、電荷\(Ne\)を持つ原子核が位置\(\b{R}\)に1つだけ存在する系を考えると、この系の全エネルギー (= ハミルトニアン)は、以下のように表せる。 \[H = \frac{1}{2m}\sum_i p_i^2 + \frac{p_{nucleus}^2}{2m_{nucleus}} - \sum_i \frac{Ne^2}{4\pi\epsilon_0|\b{r}_i-\b{R}|} + \sum_{i\lt j} \frac{e^2}{4\pi\epsilon_0|\b{r}_i-\b{r}_j|}\] 本来は、原子核の運動エネルギーや原子核の位置も変数と考えた系を解くべきなのだが、実際には、原子核は電子よりも1000倍以上思いため、ほとんど動かないものとみなして良い。そこでハミルトニアンは次のように近似される。 \[H = \frac{\hbar^2}{2m}\sum_i p_i^2 - \sum_i \frac{Ne^2}{4\pi\epsilon_0|\b{r}_i-\b{R}|} + \sum_{i\lt j} \frac{e^2}{4\pi\epsilon_0|\b{r}_i-\b{r}_j|}\tag{1}\] 原子核を固定するこの近似は、

Born-Oppenheimer 近似

と呼ばれる。

上のハミルトニアンは未だ古典的なものなので、波動関数\(\psi(\b{r}_1,\b{r}_2,\cdots,\b{r}_N)\)を決めるハミルトニアンへと量子化するには、いつものように\(\b{p}_i\to -i\hbar\nabla_i\)という置き換えをすれば良い。すると、この系のシュレディンガー方程式は \[\left(-\frac{\hbar^2}{2m}\sum_i \nabla_i^2 - \sum_i \frac{Ne^2}{4\pi\epsilon_0|\b{r}_i-\b{R}|} + \sum_{i\lt j} \frac{e^2}{4\pi\epsilon_0|\b{r}_i-\b{r}_j|}\right)\psi = E\psi\tag{2}\] と書ける。こんな微分方程式は数値計算ですら、そう簡単に解けるものではない。そこで使われる手法がハートリーフォックである。

2.近似の方針

まず考えられる方法は、通常の偏微分方程式を解くときのように、\(\psi\)に対して変数分離した形 \[\psi(\b{r}_1,\b{r}_2,\cdots,\b{r}_N) = \phi_1(\b{r}_1)\phi_2(\b{r}_2)\cdots\phi_N(\b{r}_N)\tag{3}\] を仮定して解くやり方だろう。ここにさらに、全ての関数\(\phi_i\)について、正規直交性\(\int\phi_i^*(\b{r})\phi_j(\b{r})d\b{r} = \delta_{ij}\)が成り立っているという条件を追加すると、それぞれの関数が、それぞれの電子の波動関数を表しているという解釈が成り立って、物理的描像もわかりやすいものになる。(この形を仮定して解く方法はハートリー法と呼ばれる。) しかし、この形の波動関数は、電子のものとしてふさわしく無い。なぜなら電子は区別できるものでは無く、多電子の波動関数は、粒子の入れ替えに対して反対称でなければならないからだ。「粒子の入れ替えに対して反対称である」とは、例えば2つの電子を表す波動関数\(\psi(\b{r}_1,\b{r}_2)\)について \[\psi(\b{r}_1,\b{r}_2) = -\psi(\b{r}_2,\b{r}_1)\tag{4}\] が成り立っているということだった。(3)式の形では、この性質が満たされていない。

そこで、(3)式の代わりに、

スレーター行列式

を使うことを考える。スレーター行列式とは、(3)式の形の波動関数を、電子の波動関数としての性質を満たすような波動関数\(\Phi_{\phi_1\phi_2\cdots\phi_N}\)にうまく変換する手法で、下のようにする。 \[ \Phi_{\phi_1\phi_2\cdots\phi_N}(\b{r}_1,\b{r}_2,\cdots,\b{r}_N) = \frac{1}{\sqrt{N!}}\left|\begin{array}{cccc} \phi_1(\b{r}_1) & \phi_1(\b{r}_2) & \cdots & \phi_1(\b{r}_N) \\ \phi_2(\b{r}_1) & \phi_2(\b{r}_2) & \cdots & \phi_2(\b{r}_N) \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ \phi_N(\b{r}_1) & \phi_N(\b{r}_2) & \cdots & \phi_N(\b{r}_N) \\ \end{array} \right|\tag{5} \] このように変形した波動関数\(\Phi_{\phi_1\phi_2\cdots\phi_N}(\b{r}_1,\b{r}_2,\cdots,\b{r}_N)\)では、\(i,j\)番目の粒子の入れ替え\(\b{r}_i\leftrightarrow \b{r}_j\)が、ちょうど行列式の列の入れ替えに対応していて、うまく反対称的な性質を持っていることがわかるだろう。(行列式は列の入れ替えをすると符号が反転するのだった。)

そこでハートリーフォック法では、このスレーター行列式によって反対称性が保証された波動関数\(\Phi_{\phi_1\phi_2\cdots\phi_N}\)をシュレディンガー方程式の解として仮定する。

しかし仮定したところで、解くべき方程式は \[\left(-\frac{\hbar^2}{2m}\sum_i \nabla_i^2 - \sum_i \frac{Ne^2}{4\pi\epsilon_0|\b{r}_i-\b{R}|} + \sum_{i\lt j} \frac{e^2}{4\pi\epsilon_0|\b{r}_i-\b{r}_j|}\right)\Phi = E\Phi\tag{6}\] というもので、まだまだ普通に解くには難しすぎるし、\(\Phi\)という形に限定してしまったために、そもそもその仮定の中で解けるかどうかも定かではない。

こういうときに便利なのが「変分法」である。変分法では、 \[\int \Phi^* \hat{H} \Phi d\b{r}_1d\b{r}_2\cdots d\b{r}_N\tag{7}\] を最小化するような\(\Phi_g\)を見つければ、その\(\Phi_g\)は真の基底状態解\(\psi_g\)に (仮定された形の中では) 最も近いものになっていることを利用する。基底状態が見つかった後は、それに直交するような形\(\Phi_\perp\)の中で(7)を最小化するような関数を見つけられれば、それは1番目の励起状態の近似となるので、励起状態もこの手法で順々に求められる。ハートリーフォック法でもこの手法を採用する。

まとめると、ハートリーフォック法では、
  • スレーター行列式の形の波動関数 \(\Phi_{\phi_1\phi_2\cdots\phi_N}(\b{r}_1,\b{r}_2,\cdots,\b{r}_N)\)を仮定する。
  • スレーター行列式に現れる関数の組\(\phi_1,\phi_2,\cdots,\phi_N\)はそれぞれが波動関数としての資格を持てるように、\(\int \phi_i^*\phi_jd\b{r}=\delta_{ij}\)を条件とする。
  • \(\int \Phi^* \hat{H} \Phi d\b{r}_1d\b{r}_2\cdots d\b{r}_N\)を最小化するような関数の組\(\phi_1,\phi_2,\cdots,\phi_N\)を見つける。
という方針でシュレディンガー方程式を近似的に解く。それと今回は、\(\b{r}_i\)という座標は、電子の空間座標とスピン座標をひっくるめたものを表すものとしておく。

3.変分法

変分法を使う前に、量子力学における変分法の一般論について書いておく。

\(\int \psi^* \hat{H} \psi d\b{r}\)が最小となる\(\psi\)を見つけたいのだが、この\(\psi\)はどれだけでも変化させられるわけではなく、波動関数としての性質である規格化条件\(\int\psi^*\psi d\b{r} = 1\)を満たすようにしなければいけない。つまりこれは拘束条件付きの最小化問題である。そこで、実数関数とのアナロジーから、ラグランジュの未定乗数法を使ってこの問題を定式化してみよう。普通の関数に対するラグランジュの未定乗数法では、拘束条件\(g_i(\b{x})=0\)に未定定数 \(\lambda_i\) を掛けたものを目的関数\(f(\b{x})\)から引いた、 \[L(\b{x},\b{\lambda}) = f(\b{x}) - \sum_i \lambda_i g_i(\b{x}) \tag{8}\] という関数\(L(\b{x},\b{\lambda})\)の微分が\(0\)になるという条件によって、拘束条件付きの最小化問題を解く。これを今回の問題に適用すると、 \[L(\psi^*,\psi,E) = \int \psi^* \hat{H} \psi d\b{r} - E\left(\int \psi^*\psi d\b{r}-1\right) \tag{9}\] の\(\psi^*,\psi,E\)に関する「微分」が0になれば良いわけだ。

そこで試しに\(\psi^*\)を\(\psi^*+\delta\psi^*\)と、\(\psi\)とは独立に、微小に変化させたときどのくらい変化するか調べてみよう。(\(\psi\)は複素数の関数なので、実部と虚部を独立に動かすことができる。少し変数変換すれば、\(\psi\)とその複素共役\(\psi^*\)を独立に動かすこともできることがわかると思う。) \begin{align} L(\psi^*+\delta\psi^*,\psi,E) - L(\psi^*,\psi,E) = \int \delta \psi^* (\hat{H} - E) \psi d\b{r} \end{align} 「微分」が\(0\)となるには、任意の\(\delta\psi^*\)についてこれが0であれば良いはずなので、 \[(\hat{H} - E) \psi = 0\] がその条件である。シュレディンガー方程式に戻ってきた。これはシュレディンガー方程式と変分法が等価であることを示している。この結果は今回特に重要では無いが、最後にハートリーフォック方程式を導出するために、ここで行ったような式変形を使うので紹介した。

さて、一般論は終わって本筋に戻ろう。今回はスレーター行列式による波動関数\(\Phi\)に関する変分問題が現れる。その形は \begin{align} \int \Phi^* \hat{H} \Phi d\b{r}_1\cdots d\b{r}_N - \sum_{i,j} \lambda_{ij} \left(\int \phi_i^* \phi_j d\b{r}-\delta_{ij}\right) \end{align} のようになるはずである。そこで次に、\(\int \Phi^* \hat{H} \Phi d\b{r}_1\cdots d\b{r}_N\)はどのようになるか考えよう。

4.スレーター行列式の積分の計算

今回の系のハミルトニアンは \[\hat{H} =-\frac{\hbar^2}{2m}\sum_i \nabla_i^2 - \sum_i \frac{Ne^2}{4\pi\epsilon_0|\b{r}_i-\b{R}|} + \sum_{i\lt j} \frac{e^2}{4\pi\epsilon_0|\b{r}_i-\b{r}_j|} \] だった。まずはこのハミルトニアンを、1電子の部分と2電子の部分、 \begin{align} \hat{H}_i &= -\frac{\hbar^2}{2m}\nabla_i^2 - \frac{Ne^2}{4\pi\epsilon_0|\b{r}_i-\b{R}|}\\ \hat{H}_{ij} &= \frac{e^2}{4\pi\epsilon_0|\b{r}_i-\b{r}_j|} \end{align} に分解して考えよう。2電子の部分は、\(i\lt j\)という和の範囲の条件が若干面倒なので、\(i\neq j\)という条件にして2で割っておく。すなわち、 \[\hat{H} = \sum_i \hat{H}_i + \frac{1}{2}\sum_i\sum_{j\neq i} \hat{H}_{ij}\tag{10}\] とする。

さて、積分を計算していこう。計算には、スレーター行列式の展開式、 \begin{align} &\Phi_{\phi_1\phi_2\cdots\phi_N}(\b{r}_1,\b{r}_2,\cdots,\b{r}_N)\\ &= \frac{1}{\sqrt{N!}}\sum_{\{P\}} \text{sign}(P) \phi_{P_1}(\b{r}_1)\phi_{P_2}(\b{r}_2)\cdots\phi_{P_N}(\b{r}_N) \end{align} を使う。\(P\)は\((1,2,...,N)\)の順列 (permutation) を表し、和は\(N!\)通りの全ての順列\(\{P\} = \{(1,2,...,N),(2,1,...,N)...\}\)についてとる。また、\(\text{sign}(P)\)は\(P\)が偶置換なら\(1\), 奇置換なら\(-1\)とする。
1電子ハミルトニアン: \begin{align} &\int \Phi \hat{H}_i \Phi d\b{r}_1\cdots d\b{r}_N \\ &= \frac{1}{N!}\sum_{\{P\}}\sum_{\{Q\}} \text{sign}(PQ) \int d\b{r}_1\cdots d\b{r}_N \phi_{P_1}^*(\b{r}_1)\cdots\phi_{P_N}^*(\b{r}_N)\hat{H}_i\phi_{Q_1}(\b{r}_1)\cdots\phi_{Q_N}(\b{r}_N)\\ &= \frac{1}{N!}\sum_{\{P\}}\sum_{\{Q\}} \text{sign}(PQ) \int \phi_{P_i}^*(\b{r}_i)\hat{H}_i\phi_{Q_i}(\b{r}_i)d\b{r}_i\prod_{k\neq i}\left(\int d\b{r}_k \phi_{P_k}^*(\b{r}_k)\phi_{Q_k}(\b{r}_k)\right) \end{align} \(\{\phi_i\}\)は正規直交しているという条件をつけているので、 \begin{align} &= \frac{1}{N!}\sum_{\{P\}}\sum_{\{Q\}} \text{sign}(PQ) \int \phi_{P_i}^*(\b{r}_i)\hat{H}_i\phi_{Q_i}(\b{r}_i)d\b{r}_i\prod_{k\neq i}\delta_{P_kQ_k} \end{align} となる。\(\delta_{P_kQ_k}\)を\(i\)以外について掛け合わせると、\(P_k = Q_k\)が全ての\(k\neq i\)について成り立っているときのみ\(0\)でなくなるだろう。\(P,Q\)は\(1,\cdots,N\)の並べ替え順列だったから、\(i\)番目を除いて全て等しいということは、\(i\)番目も等しいはずである。したがって、 \begin{align} &= \frac{1}{N!}\sum_{\{P\}}\sum_{\{Q\}} \delta_{PQ}\text{sign}(PQ) \int \phi_{P_i}^*(\b{r}_i)\hat{H}_i\phi_{Q_i}(\b{r}_i)d\b{r}_i\\ &= \frac{1}{N!}\sum_{\{P\}} \int \phi_{P_i}^*(\b{r}_i)\hat{H}_i\phi_{P_i}(\b{r}_i)d\b{r}_i \end{align} となる。さらに、\(P_i = s\)となるような並び替え方は、それぞれの\(s\)について\((N-1)!\)通りあることに注意すると、 \begin{align} &= \frac{1}{N}\sum_{s} \int \phi_{s}^*(\b{r}_i)\hat{H}_i\phi_{s}(\b{r}_i)d\b{r}_i \tag{11} \end{align} を得る。結構簡単になったのでこの辺で1電子ハミルトニアンの積分は終わりにする。
2電子ハミルトニアン:
2電子ハミルトニアンの方は計算が少し面倒になる。しかしゆっくりやれば大丈夫。まずは書き下してみよう。 \begin{align} &\int \Phi \hat{H}_{ij} \Phi d\b{r}_1\cdots d\b{r}_N \\ &= \frac{1}{N!}\sum_{\{P\}}\sum_{\{Q\}} \text{sign}(PQ) \int d\b{r}_1\cdots d\b{r}_N \phi_{P_1}^*(\b{r}_1)\cdots\phi_{P_N}^*(\b{r}_N)\hat{H}_{ij}\phi_{Q_1}(\b{r}_1)\cdots\phi_{Q_N}(\b{r}_N)\\ &= \frac{1}{N!}\sum_{\{P\}}\sum_{\{Q\}} \text{sign}(PQ) \int \phi_{P_i}^*(\b{r}_i)\phi_{P_j}^*(\b{r}_j)\hat{H}_{ij}\phi_{Q_i}(\b{r}_i)\phi_{Q_j}(\b{r}_j)d\b{r}_i d\b{r}_j\prod_{k\neq \{i,j\}}\left(\int d\b{r}_k \phi_{P_k}^*(\b{r}_k)\phi_{Q_k}(\b{r}_k)\right)\\ &= \frac{1}{N!}\sum_{\{P\}}\sum_{\{Q\}} \text{sign}(PQ) \int \phi_{P_i}^*(\b{r}_i)\phi_{P_j}^*(\b{r}_j)\hat{H}_{ij}\phi_{Q_i}(\b{r}_i)\phi_{Q_j}(\b{r}_j)d\b{r}_i d\b{r}_j\prod_{k\neq \{i,j\}}\delta_{P_kQ_k} \end{align} 先の1電子の方では、\(\delta_{P_kQ_k}\)が1つの添字\(i\)を除いて掛け合わさっていたから、\(P=Q\)のときだけ\(0\)でないことが言えたが、今回は、それが\(i,j\)の2つの添字を除いたものになってしまっているので\(P=Q\)ではない。\(P,Q\)が\(i,j\)番目を除いて全て等しいような並べ替えであるときのみ\(0\)でなくなる。

これには次の2つの場合が考えられる。 \begin{align} P_i = Q_i, & ~~P_j = Q_j \\ P_i = Q_j, & ~~P_j = Q_i \end{align} ようするに、\(P = Q\)である場合と、\(P\)の\(i,j\)番目の要素がひっくり返ったものが\(Q\)になっている場合だ。展開式の符号部分を調べてみると、\(P=Q\)の場合は\(\text{sign}(PQ)=1\)で、\(i,j\)番目の要素がひっくり返ったとき、\(P,Q\)はちょうど1回の置換分だけ違うはずなので、\(\text{sign}(PQ)=-1\)となる。

上の2つの場合のみを残して和をとると、 \begin{align} = \frac{1}{N!}\sum_{\{P\}}&\left(\int \phi_{P_i}^*(\b{r}_i)\phi_{P_j}^*(\b{r}_j)\hat{H}_{ij}\phi_{P_i}(\b{r}_i)\phi_{P_j}(\b{r}_j)d\b{r}_i d\b{r}_j \right.\\ &\left.-\int \phi_{P_i}^*(\b{r}_i)\phi_{P_j}^*(\b{r}_j)\hat{H}_{ij}\phi_{P_j}(\b{r}_i)\phi_{P_i}(\b{r}_j)d\b{r}_i d\b{r}_j\right) \end{align} を得る。さらに先と同じように、\(P_i=s,P_j=t\)と固定して考えたとき、\((N-2)!\)通りの並べ替えがあることに注意すれば、 \begin{align} = \frac{1}{N(N-1)}\sum_{s}\sum_{t\neq s}&\left(\int \phi_{s}^*(\b{r}_i)\phi_{t}^*(\b{r}_j)\hat{H}_{ij}\phi_{s}(\b{r}_i)\phi_{t}(\b{r}_j)d\b{r}_i d\b{r}_j \right.\\ &\left.-\int \phi_{s}^*(\b{r}_i)\phi_{t}^*(\b{r}_j)\hat{H}_{ij}\phi_{t}(\b{r}_i)\phi_{s}(\b{r}_j)d\b{r}_i d\b{r}_j\right)\tag{12} \end{align} である。これで2電子ハミルトニアンの積分の変形も終わりにして、いよいよ全体の計算を考える。
スレーター行列式の積分: \(\int \Phi\hat{H}\Phi d\b{r}\)を計算する。全ハミルトニアンは \[\hat{H} = \sum_i \hat{H}_i + \frac{1}{2}\sum_i\sum_{j\neq i} \hat{H}_{ij}\] だったので、まず1電子の方は \begin{align} &\int \Phi \sum_i\hat{H}_{i} \Phi d\b{r}_1\cdots d\b{r}_N \\ &= \sum_i \int \Phi \hat{H}_{i} \Phi d\b{r}_1\cdots d\b{r}_N \\ &=\sum_i \frac{1}{N}\sum_{s} \int \phi_{s}^*(\b{r}_i)\hat{H}_i\phi_{s}(\b{r}_i)d\b{r}_i \end{align} \(i\)に関する和をとってしまって、 \begin{align} &\int \Phi \sum_i\hat{H}_{i} \Phi d\b{r}_1\cdots d\b{r}_N \\ &=\sum_{s} \int \phi_{s}^*(\b{r}_1)\hat{H}_1\phi_{s}(\b{r}_1)d\b{r}_1\tag{13} \end{align} となる。次に2電子の方は \begin{align} &\int \Phi \sum_{i,j\neq i}\hat{H}_{ij} \Phi d\b{r}_1\cdots d\b{r}_N \\ &= \sum_{i}\sum_{j\neq i} \int \Phi \hat{H}_{i,j} \Phi d\b{r}_1\cdots d\b{r}_N\\ &=\sum_i \sum_{j\neq i} \frac{1}{N(N-1)}\sum_{s}\sum_{t\neq s}\left(\int \phi_{s}^*(\b{r}_i)\phi_{t}^*(\b{r}_j)\hat{H}_{ij}\phi_{s}(\b{r}_i)\phi_{t}(\b{r}_j)d\b{r}_i d\b{r}_j -\int \phi_{s}^*(\b{r}_i)\phi_{t}^*(\b{r}_j)\hat{H}_{ij}\phi_{t}(\b{r}_i)\phi_{s}(\b{r}_j)d\b{r}_i d\b{r}_j\right) \end{align} \(i,j\)に関する和を取ってしまうと、\(N(N-1)\)が消えて、 \begin{align} &=\sum_{s}\sum_{t\neq s}\left(\int \phi_{s}^*(\b{r}_1)\phi_{t}^*(\b{r}_2)\hat{H}_{12}\phi_{s}(\b{r}_1)\phi_{t}(\b{r}_2)d\b{r}_1 d\b{r}_2 -\int \phi_{s}^*(\b{r}_1)\phi_{t}^*(\b{r}_2)\hat{H}_{12}\phi_{t}(\b{r}_1)\phi_{s}(\b{r}_2)d\b{r}_1 d\b{r}_2\right)\tag{14} \end{align} となる。

5.ハートリーフォック方程式

さて長くなったが、変分法の式に入れて、ハートリーフォック方程式を導出しよう。 \begin{align} \int \Phi^* \hat{H} \Phi d\b{r}_1\cdots d\b{r}_N - \sum_{i,j} \lambda_{ij} \left(\int \phi_i^* \phi_j d\b{r}-\delta_{ij}\right) \end{align} は、今までの計算を踏まえて、 \begin{align} &\sum_{i} \int \phi_{i}^*(\b{r}_1)\hat{H}_1\phi_{i}(\b{r}_1)d\b{r}_1\\ &+\frac{1}{2}\sum_{i}\sum_{j\neq i}\left(\int \phi_{i}^*(\b{r}_1)\phi_{j}^*(\b{r}_2)\hat{H}_{12}\phi_{i}(\b{r}_1)\phi_{j}(\b{r}_2)d\b{r}_1 d\b{r}_2 -\int \phi_{i}^*(\b{r}_1)\phi_{j}^*(\b{r}_2)\hat{H}_{12}\phi_{j}(\b{r}_1)\phi_{i}(\b{r}_2)d\b{r}_1 d\b{r}_2\right)\\ &- \sum_{i,j} \lambda_{ij} \left(\int \phi_i^* \phi_j d\b{r}-\delta_{ij}\right) \end{align} となる。変分法のところで紹介したように、ある\(\phi_k^*\)に関する微小変化をとると、 \begin{align} &\int \delta\phi_{k}^*(\b{r}_1)\hat{H}_1\phi_{k}(\b{r}_1)d\b{r}_1\\ &+\sum_{j\neq k}\left(\int \delta\phi_{k}^*(\b{r}_1)\phi_{j}^*(\b{r}_2)\hat{H}_{12}\phi_{k}(\b{r}_1)\phi_{j}(\b{r}_2)d\b{r}_1 d\b{r}_2 -\int \delta\phi_{k}^*(\b{r}_1)\phi_{j}^*(\b{r}_2)\hat{H}_{12}\phi_{j}(\b{r}_1)\phi_{k}(\b{r}_2)d\b{r}_1 d\b{r}_2\right)\\ &- \sum_{j} \lambda_{kj}\int \delta\phi_k^* \phi_j d\b{r} \end{align} この「微分」が、任意の\(\delta\phi_k^*\)について\(0\)にならなくてはいけないので、 \begin{align} \hat{H}_1\phi_{k}(\b{r}_1) +\sum_{j\neq k}\left(\int \phi_{j}^*(\b{r}_2)\hat{H}_{12}\phi_{k}(\b{r}_1)\phi_{j}(\b{r}_2) d\b{r}_2 -\int \phi_{j}^*(\b{r}_2)\hat{H}_{12}\phi_{j}(\b{r}_1)\phi_{k}(\b{r}_2)d\b{r}_2\right) = \sum_{j} \lambda_{kj}\phi_j(\b{r}_1) \end{align} を得る。

さらに、実は係数\(\lambda_{ij}\)は対角化することができる。もともとの起源を考えてみると、これは\(\sum_{i,j}\lambda_{ij}\int \phi_i^* \phi_j d\b{r}-\delta_{ij}\)の形で現れていた。この拘束条件を表す式は、少し冗長で、\(\sum_{i\leq j}\lambda_{ij}\int \phi_i^* \phi_j d\b{r}-\delta_{ij}\)としても問題無い。なぜなら\(\int\phi_i^*\phi_j = 0\)となることと\(\int\phi_j^*\phi_i = 0\)となることは同じことだからだ。したがって、本来\(\sum_{i\leq j}\)でいいところを\(\sum_{i,j}\)としたときに、暗に\(\lambda_{ij} = \lambda_{ji}\)と\(\lambda\)を定義しているのである。つまり\(\lambda_{ij}\)は対称行列であり、直交行列によって対角化可能である。

その直交行列によって\(\phi_j\)を変換したものを、(直交行列による変換では、正規直交性が保たれることに注意しながら) 改めて\(\phi_j\)と置くことにすれば、

ハートリーフォック方程式:

\begin{align} \hat{H}_1\phi_{k}(\b{r}_1) +\sum_{j\neq k}\left(\left(\int \phi_{j}^*(\b{r}_2)\hat{H}_{12}\phi_{j}(\b{r}_2) d\b{r}_2\right) \phi_{k}(\b{r}_1) -\left(\int \phi_{j}^*(\b{r}_2)\hat{H}_{12}\phi_{k}(\b{r}_2)d\b{r}_2\right)\phi_{j}(\b{r}_1)\right) = E_k \phi_k(\b{r}_1) \end{align} を得る。

もう少しきれいにまとめて終わりとしておこう。\(j=k\)の項を入れてもキャンセルして消えるので問題無い。そこで、 \begin{align} U_C(\b{r}_1) &= \sum_{j}\int \phi_{j}^*(\b{r}_2)\hat{H}_{12}\phi_{j}(\b{r}_2) d\b{r}_2\\ V_E(\b{r}_1,\b{r}_2) &= \sum_{j}\phi_{j}^*(\b{r}_2)\hat{H}_{12}\phi_{j}(\b{r}_1) \end{align} と定義すれば、 \begin{align} \left(\hat{H}_1 + U_C(\b{r}_1)\right) \phi_{k}(\b{r}_1) -\int V_E(\b{r}_1,\b{r}_2)\phi_{k}(\b{r}_2)d\b{r}_2 = E_k \phi_k(\b{r}_1) \end{align} を得る。

\(U_C\)の項は、電子の反対称性を考えず、\(\psi(\b{r}_1,\b{r}_2,\cdots,\b{r}_N) = \phi_1(\b{r}_1)\phi_2(\b{r}_2)\cdots\phi_N(\b{r}_N)\)と仮定した場合でも現れる項であり、ある意味で古典的なものといえるだろう。その一方で、\(V_E\)の積分項は、電子の反対称性を考えて、解としてスレーター行列式を仮定した場合のみ現れる項であり、ある意味では非常に量子的なものであるといえる。これを踏まえて、\(V_E\)の積分項には特別な名前がついており、

交換相互作用

と呼ばれる。(しかし計算からもわかるように、本当の実体はただのクーロン相互作用であることを忘れてはいけない。)