1.シュレディンガー方程式の解の直交性
今回は一次元のシュレディンガー方程式
\[\left(-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dx^2} + V(x)\right)\psi = E\psi\tag{1}\]
の異なる固有値に属する解が直交することを示そう。
まず、固有値は離散的であるとして、\(E_n\)のように書けるとする。また、対応する固有関数は\(\psi_n(x)\)とする。今から示したいことは、
\[\int\psi_m^*(x)\psi_n(x)dx\tag{2}\]
が\(n=m\)のときだけ0でなくなるということだ。(不定積分のように書いたが、積分範囲 \(-\infty\) から \(\infty\) の定積分である。物理では、文脈から明らかなとき、\(-\infty\) から \(\infty\) の定積分範囲を省略することがよく行われる。)
まず、\(n\), \(m\)についてシュレディンガー方程式を書く。すると、
\begin{align}
\left(-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dx^2} + V(x)\right)\psi_m &= E_m\psi_m\\
\left(-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dx^2} + V(x)\right)\psi_n &= E_n\psi_n
\end{align}
さらに(2)式を示したいということを念頭において、上の式は複素共役を取ろう。
\begin{align}
\left(-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dx^2} + V(x)\right)\psi_m^* &= E_m^*\psi_m^*\\
\left(-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dx^2} + V(x)\right)\psi_n &= E_n\psi_n
\end{align}
上の式には\(\psi_n\)を、下の式には\(\psi_m^*\)をかけると、
\begin{align}
\psi_n\left(-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dx^2} + V(x)\right)\psi_m^* &= E_m^*\psi_m^*\psi_n\\
\psi_m^*\left(-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dx^2} + V(x)\right)\psi_n &= E_n\psi_m^*\psi_n
\end{align}
で、次にこれらを引き算する。
\[\psi_m^*\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2\psi_n}{dx^2}-\psi_n\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2\psi_m^*}{dx^2}
=(E_m^*-E_n)\psi_m^*\psi_n\]
(2)を示したいんだからこの式を積分する。
\[\int\left(\psi_m^*\frac{d^2\psi_n}{dx^2}-\psi_n\frac{d^2\psi_m^*}{dx^2}\right)dx = \frac{2m}{\hbar^2}(E_m^*-E_n)\int\psi_m^*\psi_ndx\tag{3}\]
ここで、波動関数は無限遠で0になるから、部分積分により
\begin{align}
\int\psi_m^*\frac{d^2\psi_n}{dx^2}dx&=\left[\psi_m^*\frac{d\psi_n}{dx}\right]_{-\infty}^{\infty}-\int\frac{d\psi_m^*}{dx}\frac{d\psi_n}{dx}dx\\
&=-\int\frac{d\psi_m^*}{dx}\frac{d\psi_n}{dx}dx
\end{align}
とできて、これを(3)の左辺に適用すると
\[(E_m^*-E_n)\int\psi_m^*\psi_ndx=0\tag{4}\]
になる。まず\(m=n\)の時を考えると、
\[(E_n^*-E_n)\int\psi_n^*\psi_ndx=0\tag{5}\]
であり、これは\(\int\psi_n^*\psi_ndx = \int|\psi_n|^2dx >0\)だから、\(E_n^*=E_n\)、つまり固有値が実数であることを示す。
(4)に戻って考えると、\(E_m^*\neq E_n\)のときは必ず\(\psi_n\)と\(\psi_m\)が直交することがわかる。
2.ハミルトニアンの対角化
シュレディンガー方程式において、異なる固有値の固有関数が直交することを上で証明してみた。また、今のところは証明しないが、同じ固有値に属する固有関数が何個かあっても、必ずその固有関数は直交しているように選ぶことがができる。(グラム・シュミットの直交化法を使えばいいだけなんだけど。)
さらに、シュレディンガー方程式の解は
完全系
をなすことが知られているらしい。この証明は絶対に難しいから僕は勉強しいようともしていない。
しかし、この2つの事実は、シュレディンガー方程式の解によって、
完全正規直交基底
を作り出すことができることを意味していて、非常に重要なのだ。そのことについて少し書こうと思う。
シュレディンガー方程式は、ハイゼンベルク方程式の運動量行列Pや位置行列Xをそれぞれの演算子によって書き直したもので、
\[\hat{H}\left(x,-i\hbar\frac{d}{dx}\right)\psi(x) = E\psi(x)\tag{5}\]
という形式をとるのだった。この方程式を解いた結果得られる固有関数を\(\psi_n\)を適当な完全正規直交基底\(\phi_n\)によって展開して、
\[\psi_{mn}=\int\phi_m^*(x)\psi_n(x)dx\tag{6}\]
のようにベクトル表示すると、これがハイゼンベルク方程式の固有ベクトルになる。あとは行列力学のやり方を思い出して、この\(\psi_n\)を並べたユニタリ行列\(U=(\psi_1\psi_2\cdots)\)によって、
\[H_{mn}=\int\phi_m^*\hat{H}\phi_ndx\tag{7}\]
というハミルトニアン行列が対角化(\(U^\dagger HU=E\))される。このことから求めるべき位置行列は
\[X_{mn}=\int\phi_m^*x\phi_ndx\tag{8}\]
というもともとの位置行列を\(U\)によってユニタリー変換した、
\[X_0=U^\dagger XU\tag{9}\]
であるといえる。この(9)から、スペクトルの強度や遷移の確率というものが取り出される。
この(5)から(9)までの計算が、シュレディンガー方程式の解\(\psi_n(x)\)が完全正規直交基底として使える、という事実から大幅に簡単化できてしまうのだ。
ここで使った\(\phi_n\)というのは完全正規直交基底であれば別に何を使ってもよくて、適当に自分の使いやすいものを使えばよかった。そこで、シュレディンガー方程式の解\(\psi_n(x)\)を使ってみよう。すると、ユニタリ行列\(U\)の行列要素である\(\psi_{mn}\)は
\[\psi_{mn}=\int\psi_m^*(x)\psi_n(x)dx=\delta_{mn}\tag{10}\]
となり、つまり\(U\)は単位行列\(I\)になってしまう。
つまり、シュレディンガー方程式の解\(\psi_n(x)\)というのは、
それ自身がハミルトニアンを対角化する基底となっているのだ!ということは、(9)の計算はもはや必要なくて、
\[X_{mn}=\int\psi_m^*x\psi_ndx\tag{11}\]
という行列が、求めるべき位置行列の成分になっている!
こんなふうにして、シュレディンガー方程式を解くと、自動的にハミルトニアンを対角化する基底が得られる。これこそが、シュレディンガー方程式の有用な点である。