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波動方程式の解:平面波と球面波


1.一次元の波動方程式

前回までに、 \begin{align} \epsilon_0\mu_0\frac{\partial^2 \phi}{\partial t^2}-\nabla^2\phi&=\frac{\rho}{\epsilon_0}\tag{1} \\ \epsilon_0\mu_0\frac{\partial^2 \b{A}}{\partial t^2}-\nabla^2\b{A}&=\mu_0\b{J}\tag{2} \end{align} という波動方程式がもとまっていた。でも、ベクトルポテンシャルの解を求めても、すぐに電磁場がわかるわけでは無い。そこで今回はまず、電流も電荷も無いJ=0, ρ=0の条件下での、電磁場の波動方程式 \begin{align} \nabla^2\b{B}-\epsilon_0\mu_0\frac{\partial^2\b{B}}{\partial t^2} &= 0 \tag{3}\\ \nabla^2\b{E}-\epsilon_0\mu_0\frac{\partial^2 \b{E}}{\partial t^2} &= 0 \tag{4} \end{align} を解こう。

そうはいっても、いきなり変数三次元では面倒くさい。ということで、電磁場がy,z方向に変化していない状態を考えることにして、問題を一次元に落としてしまおう。すると、 \[\frac{\partial^2 \b{E}}{\partial x^2}-\epsilon_0\mu_0\frac{\partial^2 \b{E}}{\partial t^2} = 0 \tag{5}\] という式になる。別のページ(波動方程式)に載せたが、この方程式の解は、任意のベクトル値関数F,Gを使って、 \[\b{E}=\b{F}(x-ct)+\b{G}(x+ct)\tag{5}\] というふうになる。ただし、 \[c=\frac{1}{\sqrt{\epsilon_0\mu_0}} \tag{6}\] とおいた。この式(5)の意味を考えてみよう。ある関数\(f(x-ct)\)というのは、時間tが進むごとに、x軸の正方向に進んでいくのはわかるだろうか?わからなければ、「f(x)をx軸方向へaだけ平行移動させたものはf(x-a)である」という高校数学でも習う事実を思いだせばわかるはず。ちょっと考えてみてほしい。

しかも、その速さというのは、(6)式のcである。つまり、電磁波はcの速さで進むのだ。実際にcの値を計算すると、\(c\approx3\times10^8 \mathrm{m/s}\)となる。マクスウェルはこの値を発見し、当時実験的に知られていた光の速さと比べるとかなり近い値だったのだ。そのことをもって、「光」というものが電磁波であると予想した。それまではニュートンから続く光の粒子説が主流だっただけに、この発見は大きな驚きだっただろう。

2.平面波

\[\b{E}=\b{E}_0e^i{kx-\omega t} (c=\frac{\omega}{k})\tag{7}\] は(3)の解になる。\(\b{E}_0\)はある定ベクトルだ。不安なら代入してみればいい。一般的に三次元なら、 \[\b{E}=\b{E}_0e^i{\b{k}\cdot\b{r}-\omega t} (c=\frac{\omega}{k},~k^2=k_x^2+k_y^2+k_z^2)\tag{8}\] の形になる。(8)は\(\b{k}\)方向に伝搬する

平面波

を表す。なぜ「平面」波というのかといえば、その波の位相が進行方向に垂直な平面内で、全て同じだからだ。なかなか現実にはそうそう存在しない波だが、扱いやすいし、平面波の重ね合わせからどんな波でも再現できる(フーリエ変換)ので、この解はとても重要である。ちなみに波動光学の方でももう少し詳しく書いているので参考にしてほしい。

3.球面波

次は球対称な空間での波を導出しよう。ベクトル解析公式集にもかいてあるが、球極座標のラプラシアンは、 \[\nabla^2=\frac{1}{r^2}\frac{\partial}{\partial r}\left(r^2\frac{\partial}{\partial r}\right) + \frac{1}{r^2\sin\theta}\frac{\partial}{\partial\theta}\left(\sin\theta\frac{\partial}{\partial\theta}\right) + \frac{1}{r^2\sin\theta}\frac{\partial^2}{\partial \phi^2}\tag{1}\] となっている。球対称な空間では、r微分以外の微分は落としていいから、 \[\nabla^2=\frac{1}{r^2}\frac{\partial}{\partial r}\left(r^2\frac{\partial}{\partial r}\right)\] となって、少しだけ変形すると、 \[\nabla^2\phi=\frac{1}{r}\frac{\partial^2}{\partial^2 r}\left(r\phi\right)\tag{2}\] とかける。

今回は、次からのことも考えて、スカラーポテンシャルの方程式、 \[\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2 \phi}{\partial t^2}-\nabla^2\phi=\frac{\rho}{\epsilon_0}\tag{3}\] を解く。(2)と(3)から、球対称で電荷のない時のスカラーポテンシャルは、 \[\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2 \phi}{\partial t^2}-\frac{1}{r}\frac{\partial^2}{\partial^2 r}\left(r\phi\right)=0\] をみたす。rをかけてやると、 \[\left(\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2 }{\partial t^2}-\frac{\partial^2}{\partial^2 r}\right)\left(r\phi\right)=0\tag{4}\] という方程式となる。

(4)から、\(r\phi\)という関数が、この場合波動方程式を満たすことがわかる。そこで、一般解として、 \[r\phi=F(t-r/c)+G(t+r/c)\tag{5}\] というのがとれるだろう。F,Gは任意の関数である。だから、\(\phi\)の解としては、 \[\phi=\frac{F(t-r/c)}{r}+\frac{G(t+r/c)}{r}\tag{6}\] を得る。

4.もう少し考える

(6)式によって、球対称な空間での波動方程式の一般解が求まった、かと思える。しかし(6)は原点で∞に発散してしまって、原点では波動方程式を満たしているとはいえないだろう。

実は、そもそもこの解(6)は波動方程式、 \[\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2 \phi}{\partial t^2}-\nabla^2\phi=0\tag{7}\] を満たすものではないのだ。もちろん、原点以外では(7)式を満たす解として成立していることは、(6)を(4)に代入してやればすぐにわかる。問題は原点だ。原点でだけ、違う方程式を満たしているのだ。

...と考えると、原点だけ右辺を書き換えてやる必要がありそうだと思える。原点だけ書き換えられる関数といえば、あのデルタ関数が思いつくのでは無いだろうか。ということで、実は、(6)の解は、(7)ではなく、 \[\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2 \phi}{\partial t^2}-\nabla^2\phi=4\pi\left[\b{F}(t)+\b{G}(t)\right]\delta(\b{r})\tag{8}\] を満たす。ベクトル解析公式に、 \[  \Div\frac{\b{r}}{r^3} = 4\pi\delta(r) \] という式があるから、これで理解できるだろう。