物理とか

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遅延ポテンシャルの導出


1.簡単な導入

点電荷q(t)が原点に存在している状況を考えよう。この時、原点以外では、スカラーポテンシャルの波動方程式 \[\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2 \phi}{\partial t^2}-\nabla^2\phi=0\tag{1}\] が満たされている。この系は明らかに球対称であり、こういうときの波動方程式の解は前回導出した。原点以外で、任意の関数f,gを用いて、 \[\phi(\b{r},t)=\frac{f(t-r/c)}{r}+\frac{g(t+r/c)}{r}\tag{2}\] と表される。いま、原点から無限遠に向かって進む波のみをとるとすれば、 \[\phi(\b{r},t)=\frac{f(t-r/c)}{r}\tag{3}\] である。さらにもし、原点の電荷が時間変化しなくて、\(q(t)=Q\)のように定数の時には、\(\phi\)は電位となる。したがってこのとき、 \[\phi(\b{r},t)=\frac{Q}{4\pi\epsilon_0r}\tag{4}\] となっているはずである。つまり、 \[f(t)=\frac{q(t)}{4\pi\epsilon_0}\tag{5}\] であると予想できる。これなら、q(t)=Qのときに(4)式を再現できる。よって、 \[\phi(\b{r},t)=\frac{q(t-r/c)}{4\pi\epsilon_0 r}\tag{6}\] となる。点電荷でこのように表されるのなら、ある電荷分布\(\rho(\b{r},t)\)をもっている時には、これを重ね合わせればよいわけだ。つまり、 \[\phi(\b{r},t)=\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\int\frac{\rho(\b{r}',t-|\b{r}-\b{r}'|/c)}{|\b{r}-\b{r}'|}d\b{r}'\tag{7}\] というふうになる。これが

遅延ポテンシャル

である。(7)式を見ればわかるように、ある位置の電荷の情報が光速度で伝搬する解になっている。電流によるベクトルポテンシャルも同様に、 \[\b{A}(\b{r},t)=\frac{\mu_0}{4\pi}\int\frac{\b{J}(\b{r}',t-|\b{r}-\b{r}'|/c)}{|\b{r}-\b{r}'|}d\b{r}'\tag{8}\] となる。

2.しっかりとした導出

上で(8)式を導入した時には、「同様に」という魔法の言葉を使った。しかしどういうふうに同様なのか。スカラーポテンシャルでは静電場との比較から関数形を定めることができたが、ベクトルポテンシャルではそう簡単に行くのだろうか。スカラーポテンシャルは静的なとき「電位」という物理量と一致するが、ベクトルポテンシャルは静的だからといってそうは行かない。あるとすれば、そのrotをとって静磁場(ビオ・サバールの法則)との比較をしなければならないわけだ。

つまり、ベクトルポテンシャルの解(8)は、そこまで簡単に、同様に、見つかるわけではない。そこで、ここからはもう少し厳密な導出をしてみよう。しかし長くなるので次回に回すことにした。