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マクスウェル方程式の性質とポテンシャル


1.独立な方程式

マクスウェル方程式を見なおそう。 \begin{align} \Div (\epsilon_0\b{E}) &= \rho \tag{1}\\ \Div \b{B} &= 0 \tag{2}\\ \rot \b{E} &= -\frac{\partial \b{B}}{\partial t} \tag{3}\\ \rot \b{B} &= \mu_0\left( \b{J} + \frac{\partial \epsilon_0\b{E}}{\partial t}\right) \tag{4} \end{align} で、この連立方程式の未知数は、\(\b{B},\b{E}\)の2つである。この2つは三次元のベクトルだから、合計で未知数は6個。

一方、連立方程式の数は、(3),(4)式はベクトルの方程式だからこの2つだけで6本、(1),(2)式も含めれば8個である。

これはどういうことだろう。もしこの8個の方程式が全て独立なら、EやBは値を持てないのではないか?と思ってしまうが、8個の方程式は全て独立というわけではないのだ。先に言ってしまうと、実は(2)と(3)式は本質的では無い方程式で、(3)と(4)式が中心となる方程式となっている。(3),(4)式には電荷密度や電流など電磁場の源となっている物理量が登場することからも、ちょっとわかるのではないだろうか。

2.ベクトルポテンシャル

まず注目するのは、(2)式、\(\Div\b{B}=0\)である。

ベクトル解析公式集に載せたが、divが0となるようなベクトル値関数には、 \[\b{B}=\rot\b{A}\tag{5}\] となるようなベクトル\(\b{A}\)が必ず存在する。この定理を証明するのは結構大変だが、逆は簡単に示せるのでやってみて欲しい。逆というのは\(\Div(\rot\b{A})\)が0になるということだ。これをやればなんとなくは納得できるのではないかと思う。

なにはともあれ、(5)式のような\(\b{A}\)を

ベクトルポテンシャル

と呼ぶ。

こんなことをして何が楽しいのか、と言いたくなる。しかし、これをすることによって、方程式(2)を考える必要がなくなるのだ。これが大きな成果なのだが、意味はすぐにはわからないかもしれない。次にスカラーポテンシャルを導入すればもう少し意味が見えてくる。

3.スカラーポテンシャル

次に注目するのは(3)式\(\rot \b{E} = -\partial \b{B}/\partial t\)だ。

せっかくさっきベクトルポテンシャルを導入したから、この式を\(\b{B}=\rot\b{A}\)を使って書き換えてやろう。 \begin{align} \rot\b{E}&=-\frac{\partial }{\partial t}(\rot\b{A}) \\ &= -\rot\left(\frac{\partial \b{A}}{\partial t}\right) \\ \rot\left(\b{E}+\frac{\partial \b{A}}{\partial t}\right)&=0 \tag{6} \end{align} というふうになる。

またベクトル解析公式集に頼るが、rotが0になるようなベクトル場Fには、 \[\b{F}=\grad \phi\] となるスカラー値関数\(\phi\)が必ず存在する。実際、rot(grad φ)は0になる。

したがって、あるなんらかのスカラー値関数\(\phi\)を用いて、以下の式が成り立つ。 \begin{align} \b{E}+\frac{\partial \b{A}}{\partial t} &= -\grad\phi \\ \b{E} &= -\frac{\partial \b{A}}{\partial t}-\grad\phi \tag{7} \end{align} (7)式の上の式で、\(\grad\phi\)の前にマイナスをつけたのは、今から説明する。別に無くても全く問題は無い。この\(\phi\)を

スカラーポテンシャル

と呼ぶ。

(7)のように定義されたスカラーポテンシャルは、電流・電荷などが静的な(時間変化の無い)場合には、\(\b{E}=-\grad\phi\)となるから、物理的には電位と同じである(こうするためにマイナスをつけた)。しかし、逆にみれば、時間変化がある場合には電場が(7)式のように表されるから、静電場のときのような「電位」というものは定義できない。つまり時間変化のある系において電位という概念は通用しなくなるのだ。

これでベクトルポテンシャルとスカラーポテンシャルが導入できた。マクスウェル方程式を書き換えよう。

4.マクスウェル方程式の書き換え

ここからがおもしろいところ。ベクトルポテンシャル\(\b{A}\)とスカラーポテンシャル\(\phi\)を使って、 \begin{align} \b{B}&=\rot\b{A} \\ \b{E} &= -\frac{\partial \b{A}}{\partial t}-\grad\phi \end{align} とすれば、(2)と(3)式が自動的に満たされるようになる。つまり、電磁場の姿が、ベクトルポテンシャルとスカラーポテンシャルによって記述されると約束すれば、マクスウェル方程式の(2)と(3)式は必要無くなるのだ。つまり、電場・磁場はベクトル・スカラーポテンシャルが本質的に存在して、その結果存在するものだとするわけだ。

自分にとっては、ここがよくわからなくなるとこだった。ベクトルポテンシャルとスカラーポテンシャルを物理的な「実体」として受け入れることができなかったからだ。こんな風に導出されると、この2つのポテンシャルは数学的に見通しを良くするためだけの道具に思えてしまう。

しかし、実はベクトルポテンシャルが作用して起こる現象がある。アハラノフ・ボーム効果というやつだ。そのうち量子力学をしっかり勉強できたらしっかり書こうと思うが、これはベクトルポテンシャルの存在によって電子の波動関数に位相差を生じる現象だ。実験でも実証されている。僕はこの現象の存在を知って、ベクトルポテンシャルが実体であると思えるようになった。

(しかし、よく考えて見れば電場や磁場というのも物理的な「実体」とは程遠いよな。実際実験で観測できるのは、電磁場が及ぼす力だけだから。結局イメージしやすいかイメージしにくいかの問題なのかな。)

で、肝心のマクスウェル方程式のベクトルポテンシャル・スカラーポテンシャルによる書き換えだが、長くなりすぎるので次回に回す。