1.コイルのエネルギー
磁場のエネルギーを考えるために、コンデンサと対になる存在、コイルが蓄えるエネルギーについて考えよう。
あるコイルのインダクタンスLは、そのコイルを流れる電流Iと貫く磁束φをむすぶ比例定数であり、
\[\phi=LI\tag{1}\]
と定義されている。また、磁束に時間変化があるときには、コイルには誘導起電力\(V\)が生じる。これには、ファラデーの法則として、
\[V=\frac{d\phi}{dt}\tag{2}\]
という関係式があった。(1)を(2)に代入すれば、
\[V=L\frac{dI}{dt}\tag{3}\]
である。この式からコイルが蓄えるエネルギーを計算できる。例えば、コイルに一定の電圧Vをかける状況を考えればいい。t=0で電流が0だったとして、t=Tで突然コイルの両端を短絡(電圧0)にすることにしよう。このとき電流Iの変化は、t<Tの範囲で、(3)式を積分すれば、
\[I=Vt/L\tag{4}\]
のように、時間に比例して増えていくことがわかる。t=Tの時点までにコイルの供給されるエネルギーUは、瞬間的な電力W=VIを積分すればでる。
\begin{align}
U&=\int_0^T VI dt \\
&=\frac{V^2}{L}\int_0^T t dt\\
&=\frac{V^2T^2}{2L}\\
&=\frac{1}{2}LI_f^2 \tag{5}
\end{align}
ただし、最後に\(I_f=VT/L\)とおいた。つまり最終的な電流値である。
さて、コイルは(3)式で電圧・電流が決まるから、電圧が0なら電流の時間変化は無い。つまり、完全に短絡されたような状態では、電流が永久的に流れ続けるのだ。さらに続けて電流の流れている状態のコイルに抵抗なんかを接続すれば、蓄えられた(5)式のエネルギーをジュール熱として取り出せる。
さて、ということは、電流Iが流れているコイルには、
\[U=\frac{1}{2}LI^2\tag{6}\]
のエネルギーが蓄えられているといっていいだろう。でもこのエネルギーはどこに蓄えられているんだろう?もちろん、流れている電流がそのエネルギーをもっていると考えるのが普通かも知れない。でも前回コンデンサの時は、(電圧では無くて)コンデンサの極板間の電場がエネルギーを蓄えているとみてもうまくいった。
ということで今回はコイルの中に発生している
磁場がエネルギーを蓄えていると考えてみよう。
2.ソレノイドのエネルギー
話を簡単にするために、導線が単位長さあたりn回巻かれたソレノイドを考えよう。一応言っておくと、ソレノイドとは円柱に導線を巻きつけたようなものである。
さらに簡単化するために、ソレノイドは無限に長いものであるとする。実際には、太さに対して十分に長いものを想像すればいい。こうすることで、外部への磁場はなくなり、ソレノイド内部では、
\[H=nI\tag{7}\]
の一様な磁場が発生する。この計算はどこにでものっているだろう。ちょっと検索すれば出てくるはずだ。
ということでこのソレノイドが単位長さあたりに溜め込んでいるエネルギーを計算してみよう。まずソレノイド内の鎖交磁束数はつぎのように求まる。ソレノイドの断面積をSとして、
\begin{align}
\phi&=nBS\\
&=\mu_0 nHS\\
&=\mu_0 n^2IS
\end{align}
最初にnをかけているのは、単位長さあたりでは、n回導線が巻かれているからだ。インダクタンスを求めるときには、こういうふうにして、鎖交磁束数を求める必要がある。
これより、このソレノイドの単位長さあたりのインダクタンスは
\[L=\frac{\phi}{I}=\mu_0n^2S \tag{8}\]
ということになる。
で、単位長さあたりのエネルギーUを調べてみると、
\[U=\frac{1}{2}LI^2=\frac{\mu_0n^2I^2S}{2}\tag{9}\]
となる。
ここからが本題。(9)式のエネルギーはあくまでもコイルが持っているエネルギーを調べただけだ。このエネルギーを、ソレノイド内部の磁場がもっているものと考えるのだ。これをするためにまずはエネルギーを内部の体積密度に直そう。
(9)のUというのはすでに単位長さあたりのエネルギーだから、これを断面積で割ればすぐに単位体積あたりのエネルギーuになる。だから、
\[u=\frac{\mu_0n^2I^2}{2}\tag{10}\]
となる。磁場\(H=nI\)を使えば、
\[u=\frac{1}{2}\mu_0 H^2\tag{11}\]
だ!
3.磁場のエネルギー
上でみたように、すくなくともソレノイドの場合には、磁場によるエネルギー密度を
\[u=\frac{1}{2}\mu_0 H^2\tag{11}\]
と考えれば、コイルが蓄えるエネルギーを磁場が持っているとしても矛盾はでないことがわかった。
電場のエネルギー密度
\[u=\frac{1}{2}\epsilon_0 E^2\tag{12}\]
と比較しても非常によい対称性が得られている。ということでもう(11)式を一般の磁場のエネルギー密度と考えてしまおう!これで間違いは無いはずだ!
かなり無理があるかもしれないが、磁場のエネルギー密度を
電場のエネルギー密度と同じように、理論的に導出する手法を僕はまだ知らない。もしかしたらとんでもなく難しいかもしれない。あ、でも磁荷の存在を仮定してしまえば電場と同じように導出できるだろうな。でもこの世界に存在が確認されていないものを使うのも気が引ける。