1.点電荷のエネルギー
まずは静電場での電荷のエネルギーを導く。ある固定された電荷\(q_1\)に対して、\(q_2\)の電荷を無限遠から距離rまで近づけるときに必要なエネルギーUは以下のように計算できる。
距離dxだけ近づけるのに必要な仕事dUは
\[dU=\frac{q_1q_2}{4\pi\epsilon_0r^2}dx\tag{1}\]
だから、
\begin{align}
U=-\int_{\infty}^r\frac{q_1q_2}{4\pi\epsilon_0r^2}dx\\
&=\frac{q_1q_2}{4\pi\epsilon_0 r} \tag{2}
\end{align}
いちおう初心に帰って積分からしっかり計算してみた。別に電位の式を知っているのならこんなめんどくさい計算をする必要なんかない。
このUは電荷同士を近づけるのに必要なエネルギーだったから、電荷が距離rの位置に来た時にこの系に蓄えられたエネルギーである。ここで大事なのは、一つの電荷を固定して、一つの電荷を動かすときに必要なエネルギーを計算するだけで、系全体のエネルギーを計算できたということだ。
ではもっとたくさんの電荷があるときはどうだろうか?例えば3つの電荷なら、固定された\(q_1\)へ、\(q_2,q_3\)を順番に無限遠から近づけていくことを考えればいい。つまり、
\[U=\frac{q_1q_2}{4\pi\epsilon_0 r_{12}}+\frac{q_1q_3}{4\pi\epsilon_0 r_{13}}+\frac{q_2q_3}{4\pi\epsilon_0 r_{23}}\tag{3}\]
という形になる。しかしこのままではちょっと一般化しにくい。
そこですこしこのUという量について考えよう。これは電荷同士を近づけるのに必要なエネルギーだったから、系に蓄えられたエネルギーであるといえる。では、このエネルギーはどこに存在しているのだろうか?まず考えられるのは、電荷自体がこのエネルギーを蓄えたという考え方だ。この時、例えば式(2)の2個の電荷の系では、
\[U_1=U_2=\frac{q_1q_2}{8\pi\epsilon_0 r} \tag{4}\]
のエネルギーをそれぞれの電荷自体が持っているとできるだろう。3個の電荷の系なら、
\[U_1=\frac{q_1q_2}{8\pi\epsilon_0 r_{12}}+\frac{q_1q_3}{8\pi\epsilon_0 r_{13}}\tag{5}\]
のように考えられる。シグマを用いて書きなおせば、i番目の電荷のもつエネルギーは
\[U_i=\sum_{j\neq i}\frac{q_iq_j}{8\pi\epsilon_0 r_{ij}}\tag{6}\]
となる。さらにこれを使って3個の電荷がある系全体のエネルギーは、
\[U=\sum_{i=1}^3U_i=\sum_{i=1}^3\sum_{j\neq i}\frac{q_iq_j}{8\pi\epsilon_0 r_{ij}}\tag{7}\]
ここまで書けば一般化が簡単だ。一般にn個の電荷がある系全体のエネルギーは、
\[U=\sum_{i=1}^n\sum_{j\neq i}\frac{q_iq_j}{8\pi\epsilon_0 r_{ij}}\tag{8}\]
ということになる。これは、
電荷それぞれがエネルギーを持つとして求めたエネルギーである。
2.電荷密度のエネルギー
次に、電荷が連続的に、電荷密度\(\rho(\b{r})\)として分布している時を考えよう。基本的には、点電荷の考え方を使いながら考えていく。
まず、電荷密度を微小な体積ごとに分割する。異なる位置\(\b{r},\b{r}'\)にある微小な体積\(dV,dV'\)を考えると、そこに点電荷\(\rho(\b{r})dV,\rho(\b{r}')dV'\)が存在すると考えることができる。すると、(6)式はこのとき、
\[U(\b{r})=\int\frac{(\rho(\b{r})dV)\rho(\b{r}')}{8\pi\epsilon_0 |\b{r}-\b{r}'|} dV'\tag{9}\]
積分はr'について、全空間で行う。こういうふうにすると、この\(U(\b{r})\)は\(\rho(\b{r})dV\)という点電荷がもつエネルギーを表すことがわかるだろう。
この式から、エネルギー密度\(u(\b{r})\)というものを考えることができる。(9)は\(\rho(\b{r})dV\)がもっているエネルギーだから、
その体積dVに存在していると思えるだろう。すると、その密度は、(9)をdVで割ることによって、
\[u(\b{r})=\int\frac{\rho(\b{r})\rho(\b{r}')}{8\pi\epsilon_0 |\b{r}-\b{r}'|} dV'\tag{10}\]
となる。この考え方によって、
エネルギーの存在している場所が電荷から空間に移った。これは考えてみればとても変なことだ。なにも無い空間にエネルギーというものがあるのだから。
一応全エネルギーも書いておこう。
\[U=\int u(\b{r})dV=\int\int\frac{\rho(\b{r})\rho(\b{r}')}{8\pi\epsilon_0 |\b{r}-\b{r}'|} dV'dV\tag{11}\]
3.電場のエネルギー
静電気力によるエネルギーは、空間に存在していると考えることができることをみた。さっきは「なにも無い空間」というふうな表現をしたが、本当はなにも無くなんか無い。電荷が存在するまわりの空間には、電場という場が満ちている。そのことを確認してみよう。使うのは、静電位に関するポアソン方程式
\[\Delta \phi=-\frac{\rho}{\epsilon_0}\tag{12}\]
だ。まず、(11)式を\(\phi\)を使って書き直す。
\begin{align}
U&=\int\int\frac{\rho(\b{r})\rho(\b{r}')}{8\pi\epsilon_0 |\b{r}-\b{r}'|} dV'dV \\
&=\frac{1}{2}\int\rho(\b{r})\left(\int\frac{\rho(\b{r}')}{4\pi\epsilon_0 |\b{r}-\b{r}'|}dV'\right)dV
\end{align}
ここで、r'による積分の項は、実は\(\phi(\b{r})\)となる。
遅延ポテンシャルでやったのと同じように、微小領域の電荷\(\rho dV'\)が作る電位を重ねあわせていからだ。つまり、
\[U=\frac{1}{2}\int\rho(\b{r})\phi(\b{r})dV\tag{13}\]
と書くことができる。ここで残った\(\rho(\b{r})\)をポアソン方程式(12)を使って電位で書きなおし、さらに変形していく。
\begin{align}
U&=-\frac{\epsilon_0}{2}\int(\Delta\phi)\phi dV \\
&= -\frac{\epsilon_0}{2}\int\nabla\cdot(\nabla\phi)\phi dV \\
&= -\frac{\epsilon_0}{2}\int\nabla\cdot(\phi\nabla\phi)-\nabla\phi\cdot\nabla\phi dV ~~~~~(\because\nabla\cdot(f\b{g})=\nabla f\cdot\b{g}+f\nabla\cdot\b{g}) \\
&= \frac{\epsilon_0}{2}\left(\int\nabla\phi\cdot\nabla\phi dV-\int\nabla\cdot(\phi\nabla\phi)dV\right)
\end{align}
さらに、ガウスの定理と電場と電位の関係
\begin{align}
\int\Div\b{A}dV=\int\b{A}\cdot d\b{s}\\
\b{E}=-\nabla\phi
\end{align}
を使えば、
\[=\frac{\epsilon_0}{2}\left(\int\b{E}^2dV-\int\phi\nabla\phi\cdot d\b{s}\right) \tag{14}\]
を得る。
(14)式の第二項について考えよう。ガウスの定理をつかって体積積分を表面積分に置き換えたわけだが、基本的に積分は全ての領域、つまり無限遠まで含めた領域で行うことになっていた。つまりこの表面積分は無限遠の面上で行われる積分だ。もし無限遠で\(\phi\)が値を持つならこの項はゼロでは無い。しかし、電荷密度がある有限の領域でおさまっていれば\(\phi\)は無限遠で0になる。
そこで、\(\phi\)は無限遠で0になっているとして考えよう。(もし0でないなら無限遠まで電荷が存在することになり、このときのエネルギーは間違いなく発散してしまうだろうから。)
で、そうすると、
\[U=\frac{\epsilon_0}{2}\int\b{E}^2dV\tag{15}\]
というのがわかり、エネルギー密度は、
\[u(\b{r})=\frac{1}{2}\epsilon_0\b{E}\tag{16}\]
となることがわかる。これで、電場が存在している領域には、(16)式によって表されるエネルギー密度があるということがいえた。つまり何もない空間にエネルギーがあるのではなく、電場という場がエネルギーを持っているわけだ。