物理とか

Index

電磁場中の粒子のラグランジアン


1.速度にも依存する力

前回は、ポテンシャルが位置にのみ依存するような場合について考えて、ラグランジアン\(L=K-U\)が \[\frac{\partial L}{\partial q_i}-\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial L}{\partial \dot{q_i}}\right)=0\tag{1}\] を満たすという

ラグランジュの運動方程式

を導いた。しかし、電磁気力を考えるときには、その力が \[\b{F}=q\left(\b{E}+\b{v}\times\b{B}\right)\tag{2}\] となっている。ただしqは電荷。\(\b{E}\)は電場に比例する力、\(\b{v}\times\b{B}\)はローレンツ力を表す。

(2)式からすぐに分かるように、電磁場による力は速度にも依存していて、普通のポテンシャルでは表せない。...だからといってせっかく導いた(1)式が使えないなんていうのはもったいない。今回はこのへんを考えていこう。

2.電磁場中の粒子のラグランジアン

まずは前回の導出の途中まで戻らないといけない。運動方程式は、運動エネルギーKを使って、 \[\b{F}=\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial K}{\partial\dot{\b{q}}}\right) \tag{3}\] と書けるのだった。前回は、 \[\b{F}=-\frac{\partial U}{\partial \b{q}}\tag{4}\] というふうになっているとして、これを代入することによって、 \[\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial K}{\partial\dot{q_i}}\right)+\frac{\partial U}{\partial q_i}=0 \tag{5}\] を示した。で、 \[\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial U}{\partial\dot{q_i}}\right)=0\tag{6}\] \[\frac{\partial K}{\partial q_i}=0\tag{7}\] を使って、 \[\frac{\partial (K-U)}{\partial q_i}-\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial (K-U)}{\partial\dot{q_i}}\right)=0 \tag{8}\] を導いた。電磁場中では、(6)式や(4)式の仮定は使えない。何しろ普通のポテンシャルでは表せないのだから。

でも、前回みたように、ラグランジュの運動方程式はすごく高いところから抽象化されている方程式だったんだから、絶対電磁場中でも使えるはずだ。なんとか工夫しよう。

とにかく、(8)式の形に持っていくことが目標だ。(7)はいつでも成立するから、(8)は \[-\frac{\partial U}{\partial q_i}-\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial (K-U)}{\partial\dot{q_i}}\right)=0 \tag{9}\] と書き直せて、さらに、 \[\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial K}{\partial\dot{q_i}}\right)=\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial U}{\partial\b{\dot{q_i}}}\right)-\frac{\partial U}{\partial \b{q}}\tag{10}\] とできる。だから、(3)から \[\b{F}=\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial U}{\partial\b{\dot{q_i}}}\right)-\frac{\partial U}{\partial \b{q}}\tag{11}\] とかけるような関数\(U(\b{q},\b{\dot{q}})\)が存在するならうまくいくことがわかる。こういう(11)式を満たすような関数Uを

一般化ポテンシャル

と呼ぶ。

で、実は(2)式の電磁場による力は、(11)式の形に変形することができるのだ。本当に自然とは良く出来ているものだ。ちょっとやってみよう。 まず使うのは、ベクトルポテンシャルとスカラーポテンシャルだ。ベクトルポテンシャル\(\b{A}\)とスカラーポテンシャル\(\phi\)を使うと、 \begin{align} \b{B}&=\rot\b{A}=\nabla\times\b{A} \\ \b{E} &= -\frac{\partial \b{A}}{\partial t}-\grad\phi=-\frac{\partial \b{A}}{\partial t}-\nabla\phi \end{align} という風に電磁場を書ける。これを(2)式に代入して変形していく。途中で\(\b{v}\times(\nabla\times\b{A})=\nabla(\b{v}\cdot\b{A})-(\b{v}\cdot\nabla)\b{A}\)を使ったが、これの証明はただただ計算がめんどくさいだけなので書かない。 \begin{align} \b{F}&=q\left[-\frac{\partial \b{A}}{\partial t}-\nabla\phi+\b{v}\times(\nabla\times\b{A})\right]\\ &=q\left[-\frac{\partial \b{A}}{\partial t}-\nabla\phi+\nabla(\b{v}\cdot\b{A})-(\b{v}\cdot\nabla)\b{A}\right]\\ &=q\left[-\nabla(\phi-\b{v}\cdot\b{A})-\frac{\partial \b{A}}{\partial t}-(\b{v}\cdot\nabla)\b{A}\right] \end{align} ここで、偏微分の合成関数の微分から、 \[\frac{d\b{A}}{dt}=\left(\frac{d\b{x}}{dt}\cdot\nabla\right)\b{A}+\frac{\partial \b{A}}{\partial t}\] だから、 \[\b{F}=q\left[-\nabla(\phi-\b{v}\cdot\b{A})-\frac{d\b{A}}{dt}\right]\tag{12}\] を得る。(11)と比較すると、 \[\b{F}=-\frac{\partial U}{\partial \b{q}}+\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial U}{\partial\b{\dot{q_i}}}\right)\tag{11}\] 結構近づいてきた感じがする。たぶん \[U=\phi-\b{v}\cdot\b{A}\tag{13}\] とすればいいんだろう。実際、Aやφは速度に依存しないから、 \begin{align} \frac{d}{dt}\left(\frac{\partial U}{\partial\b{\dot{q_i}}}\right) &= \frac{d}{dt}\left(\frac{\partial }{\partial\b{\dot{q_i}}}(\phi-\b{v}\cdot\b{A})\right)\\ &= \frac{d\b{A}}{dt} \end{align} となって(13)式でうまくいきそうだ。つまり、電磁場中の荷電粒子を考えるときは、 \[U=q(\phi-\b{v}\cdot\b{A})\tag{13}\] というふうな

一般化ポテンシャル

をとればよくて、ラグランジアンは \[L=K-U=\frac{1}{2}mv^2-q(\phi-\b{v}\cdot\b{A})\tag{14}\] となることがわかる。これは結構応用範囲が広い式だから覚えておくといいかもしれない。ちょっと導くのは面倒だからなあ。