1.一般化運動量
ニュートン力学において運動量\(\b{p}\)とは、質量と速度をかけたもので、
\[\b{p}=m\b{v}\tag{1}\]
だった。今回はこの量をラグランジアンを使って表すことを考える。
とはいってもそんなに難しいことはしない。運動量は、運動エネルギー\(K=mv^2/2\)を使うと次のようにできる。
\[p_i=\frac{\partial K}{\partial v_i}\tag{2}\]
ポテンシャル\(U\)が速度に依存しない時を考えると、\(L=K-U\)だから、
\[\frac{\partial L}{\partial v_i}=\frac{\partial K}{\partial v_i}-\frac{\partial U}{\partial v_i}=\frac{\partial K}{\partial v_i}\tag{3}\]
が言えるだろう。だから、
\[p_i=\frac{\partial L}{\partial v_i}=\frac{\partial L}{\partial \dot{q_i}}\tag{4}\]
とすれば良さそうだ。(4)で定義された\(\b{p}\)を
一般化運動量
という。
2.運動量保存則
ラグランジュの運動方程式を思い出そう。
\[\frac{\partial L}{\partial q_i}-\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial L}{\partial \dot{q_i}}\right)=0\tag{5}\]
この中に、一般化運動量があるから、書き直すと、
\begin{align}
\frac{\partial L}{\partial q_i}-\frac{dp_i}{dt}=0 \\
\frac{dp_i}{dt}=\frac{\partial L}{\partial q_i} \tag{6}
\end{align}
を得る。もし、
\[\frac{\partial L}{\partial q_i}=0\tag{7}\]
なら、
\[\frac{dp_i}{dt}=0\tag{8}\]
となって、これは運動量が時間\(t\)によって変化しないことを表している。つまり、これが
運動量保存則
を表していることになる。
じゃあ、運動量保存則が成立する条件(7)はどういう意味があるのだろうか。いまのところ、そこまで深い意味は無い。座標の1成分\(q_i\)によるLの偏微分が0ということは、Lがその成分を陽に(見える形で)含んでいないということだ。本当にただそれだけだ。
ちなみに、Lに陽に含まれていない座標のことを
循環座標
と呼ぶ。
3.中心力での角運動量保存則
例として、平面上の中心力場での角運動量保存則を示してみよう。中心力場というのは、物体が原点からの距離rのみに依存して(補足参照)、原点の方向に力を受けるような場のことだ。つまり、
\[\b{F}(r)=F(r)\hat{\b{r}}\tag{9}\]
とかけるような力のことだ。このときポテンシャルは、ある基準点\(r=a\)でU(a)=0として、
\[U=U(r)=\int_a^rF(r)dr\tag{10}\]
というふうになる。中心力場では、極座標\((r,\theta)\)を使うのが一番良さそうなのは明らかだろう。
それでもってLを書く。極座標表示では、位置ベクトルが\(\b{x}=r\hat{\b{r}}\)なので速度\(\b{v}\)は
\begin{align}
\b{v}&=\frac{d}{dt}(r\hat{\b{r}})\\
&=\frac{dr}{dt}\hat{\b{r}}+r\frac{d\hat{\b{r}}}{dt}\\
&=\frac{dr}{dt}\hat{\b{r}}+r\frac{d\theta}{dt}\hat{\b{\theta}}
\end{align}
とかけるから、
\[L=\frac{1}{2}m\left(\left(\frac{dr}{dt}\right)^2+r^2\left(\frac{d\theta}{dt}\right)^2\right)-U(r)\tag{11}\]
となる。このラグランジアンには\(\theta\)の時間微分こそあれど、\(\theta\)自体は含まれていない。したがって上で説明したような運動量保存則が成立する。今回\(\theta\)に対応する一般化運動量は、
\[p_\theta=\frac{\partial L}{\partial \dot{\theta}}=mr^2\dot{\theta}=mr^2\omega\tag{12}\]
なので(角速度をωとおいた)、この\(mr^2\omega\)という量は保存する。これがこの系での
角運動量保存則だ。
補足:
中心力場で保存力なら、その力は必ず距離のみに依存することを示せる。一般的に三次元で、
\[\b{F}(\b{r})=f(r,\theta,\phi)\hat{\b{r}}\tag{13}\]
となっているとしよう。保存力というのは、任意の閉曲線に沿って積分した時に、
\[\oint \b{F}\cdot d\b{l}=0\tag{14}\]
が成り立つような力のことである。\(\b{F}\cdot d\b{l}\)というのは\(d\b{l}\)の微小距離動かした時に\(\b{F}\)がする仕事だから、(14)式は一周するとエネルギー収支が0になるということを言っている。これはベクトル解析のストークスの定理から
\[\rot\b{F}=0\tag{15}\]
であることと等価である。(15)に(13)を代入すると、
\[\frac{1}{r\sin\theta}\frac{\partial f}{\partial \phi}\hat{\b{\theta}}-\frac{1}{r}\frac{\partial f}{\partial \theta}\hat{\b{\phi}}=0\tag{16}\]
となり、
\[\frac{\partial f}{\partial \phi}=0, \frac{\partial f}{\partial \theta}=0\tag{17}\]
であることがわかる。
ではなぜ保存力にこだわるのかといえば、保存力は簡単だからだ。摩擦力なんかが保存力ではない力の代表だが、とても簡単と言えるような代物じゃない。そもそもそのメカニズムすらよくわかっていないのだから。