1.座標変換によって変化しない運動方程式
解析力学は、力学をもっと統一的に扱おうというところから始まる。
というのも、ニュートンの運動方程式
\[\b{F}=m\frac{d^2\b{x}}{dt^2}\tag{1}\]
はデカルト座標で定義された方程式で、もし円筒極座標
\[x=r\cos\phi,~y=r\sin\phi,~z=z\]
で書こうもんなら、
\[\b{F}=m\left[\frac{d^2r}{dt^2}-r\frac{d^2\phi}{dt^2}\right]\hat{\b{r}}+\frac{1}{r}\frac{d}{dt}\left(r^2\frac{d\phi}{dt}\right)\hat{\b{\phi}}+\frac{d^2z}{dt^2}\hat{\b{z}}\tag{2}\]
なんていう見るのも嫌な方程式になってしまう。
なにが問題なのかといえば、加速度ベクトル
\[\b{a}=\frac{d^2\b{x}}{dt^2}\]
をつかって書いていることが一番の問題だ。ベクトルがあるからその座標変換の問題が出てきてしまって、(2)のようなことになってしまう。
運動において、座標変換によって変化しない量はなんだろう。一番最初に思いつくのはエネルギーじゃないだろうか。エネルギーなら、どんな座標系からみても一定のはずだ。
そこで、まずは(1)の右辺を運動エネルギーによって書き換えてみよう。ここからは、デカルト座標じゃない座標系という意味を付けて、位置ベクトルを\(\b{q}\)で表すことにする。運動エネルギーKは
\[K=\frac{1}{2}mv^2=\frac{1}{2}m\dot{q}^2\tag{3}\]
である。これを(1)の右辺に近づけるために、まずは速度\(\b{v}=\dot{\b{q}}\)によって偏微分する。(正確には、\(\b{v}\)のgradをとる。)
\[\frac{\partial K}{\partial\dot{\b{q}}}=m\dot{\b{q}}\tag{4}\]
これだけでも結構近づいた。あとは時間微分したらいいだろう。
\[\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial K}{\partial\dot{\b{q}}}\right)=m\ddot{\b{q}}\tag{5}\]
あとは左辺だが、力Fは、ポテンシャルエネルギーUによって
\[\b{F}=-\frac{\partial U}{\partial \b{q}}\tag{6}\]
とかける。(5)と(6)を(1)に代入してやれば、
\[\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial K}{\partial\dot{q_i}}\right)+\frac{\partial U}{\partial q_i}=0 \tag{7}\]
というふうに運動方程式が書き直せる。
(7)式の時点で、もうすでにニュートンの運動方程式を座標系によらないものにできたわけだ。そんなに難しいことはしていないだろうと思う。
でもここからが解析力学の本番なのだ。(7)式に隠されたもっと上の何かを見つけていこう。つくづくこういうところで止まらないのが天才のすごいところだなあ、と思う。
2.ラグランジアンの発見
数学の方で書いたのだが、ちょっと見てみて欲しい。解析力学をやる上で欠かせない
変分法だ。大学の授業ならだいたいこれを最初にやっておくんだろう。汎関数\(I[f]\)が
\[I[u]=\int_{x_1}^{x_2} F\left(x,u(x),u'(x)\right) dx\tag{8}\]
という形で与えられているとき、その停留点を与える関数は
\[\frac{\partial F}{\partial u}-\frac{d}{dx}\frac{\partial F}{\partial u'}=0\tag{9}\]
という微分方程式を満たす。というのがあった。どうだろう。(7)式と並べてみると、
\begin{align}
\frac{\partial U}{\partial q_i}+\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial K}{\partial\dot{q_i}}\right)&=0\tag{7}\\
\frac{\partial F}{\partial u}-\frac{d}{dx}\left(\frac{\partial F}{\partial u'}\right)&=0\tag{9}
\end{align}
すごく似ている。ということは、ニュートンの運動方程式(1)と等価な(7)の後ろには、変分法的な何かが隠れていそうだ。それについて調べてみよう。
(7)式を(9)式の形に書き換えてみたい。まず、ポテンシャルエネルギー\(U\)は速度\(\dot{\b{q}}\)には依存しないとしよう。(普通の位置エネルギーなら依存することはないはず。ローレンツ力ではダメなんだがそのへんはまたおいおい考える。)すると、
\[\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial U}{\partial\dot{q_i}}\right)=0\tag{10}\]
が言えるだろう。また、運動エネルギーKは位置\(\b{q}\)には依存しない。だから、
\[\frac{\partial K}{\partial q_i}=0\tag{11}\]
もいえる。(10)と(11)はどちらも0だから、(7)式に適当に足したり引いたりしていいはずだ。だから、
\begin{align}
\frac{\partial U}{\partial q_i}-\frac{\partial K}{\partial q_i}+\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial K}{\partial\dot{q_i}}\right)-\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial U}{\partial\dot{q_i}}\right)&=0 \\
\frac{\partial (U-K)}{\partial q_i}+\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial (K-U)}{\partial\dot{q_i}}\right)&=0\\
\frac{\partial (K-U)}{\partial q_i}-\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial (K-U)}{\partial\dot{q_i}}\right)&=0 \tag{12}
\end{align}
のようになり、
\[L=K-U\tag{13}\]
とすれば、運動方程式は、
\[\frac{\partial L}{\partial q_i}-\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial L}{\partial \dot{q_i}}\right)=0\tag{13}\]
と書き直される。この\(L=K-U\)を
ラグランジアン
といい、(13)式は
ラグランジュ形式の運動方程式
と呼ばれる。ラグランジアンは(運動エネルギー)-(ポテンシャルエネルギー)という意味がわからない量だが、実は運動に関する情報を全て含んだ関数だ。
さらに、運動方程式が(13)式のように書けるということは、(9)式から、
\[I=\int_{t_1}^{t_2} L dt\tag{14}\]
という汎関数\(S\)の停留点を考えていることと等価である。この量\(S\)を
作用
という。運動方程式というのは、実はこの
作用
という量を停留させる経路\(q(t)\)を決める方程式だったということだ。
3.ラグランジュ形式の意味
運動方程式
\[\b{F}=m\frac{d^2\b{x}}{dt^2}\tag{1}\]
をエネルギーで書いて、さらにこねくりまわして、
\[\frac{\partial L}{\partial q_i}-\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial L}{\partial \dot{q_i}}\right)=0\tag{13}\]
という運動方程式にまで持って行った。そればかりか、さらに上の概念、
\[I=\int_{t_1}^{t_2} L dt\tag{14}\]
なんていう作用という量までみつけてしまった。
こんな事言うのも何だが、こんなことになんの意味があるんだろうか。どう考えても(1)の運動方程式のほうが直感的にわかりやすいし、(13)や(14)は数学上の産物にしか思えない。僕が最初に勉強した時はそんなことを考えていた。確かに、物事の本当の本当の原理が見えたような気にはなるが、どうも釈然としない気持ちが残る。
でもこの解析力学の理論が、量子力学とかを支えているのを考えると、やっぱり勉強しないわけにはいかないなあ。