1.電信方程式
と、このへんまで説明したところで、早速
前回導出した
電信方程式
を書いておきます。
\[
\left\{
\begin{align}
\frac{\partial V}{\partial x} &= -\left(R+L\frac{\partial}{\partial t}\right)I \\\\
\frac{\partial I}{\partial x} &= -\left(G+C\frac{\partial}{\partial t}\right)V
\end{align}
\right.
\]
この方程式によって、伝送線路上で送端から距離xの点の時刻tでの電圧\(V(x,t)\), 電流\(I(x,t)\)が求められるのです。
2.正弦波解
しかし、このままでは解くのが大変ですから、ちょっと式変形しましょう。まず仮定として、時間依存の項は\(e^{j\omega t}\)とかけると仮定します。すなわち、
\[
\left\{
\begin{align}
V(x,t)&=V(x)e^{j\omega t} \\\\
I(x,t)&=I(x)e^{j\omega t}
\end{align}
\right.
\]
という形になります。位置によって変化する振幅\(V(x),I(x)\)はどちらも複素数です。したがって位相の情報と、実効値の情報のどちらも含みます。
さて、ここで注意しなくてはいけないのは、実際には上の式の実数部のみが物理的意味を持つということです。
つまり、\(Re[V(x)e^{j\omega t}]\)が実態をもった電圧として観測されるわけです。そこで、実効値がどうなるかについて先にみておきましょう。
3.正弦波解の実効値
まず\(V(x)=|V(x)|e^{j\phi(x)}\)と置きます。
このとき実効値は、
\begin{align}
V_e^2 &= \int_0^T \left\{Re[V(x)e^{j\omega t}]\right\}^2 dt \\\\
&= \int_0^T \left\{Re[|V(x)|e^{j(\omega t+\phi(x)}]\right\}^2 dt \\\\
&= \int_0^T |V(x)|^2\cos^2(\omega t+\phi(x)) dt \\\\
&= \frac{|V(x)|^2}{2} \\\\
V_e &= \frac{|V(x)|}{\sqrt{2}} \\\\
\end{align}
のように計算できます。実効値も位置の関数となってはいますが、計算自体は集中定数回路の時と同じですね。
4.具体的な解
それでは、
\[
\left\{
\begin{align}
V(x,t)&=V(x)e^{j\omega t} \\\\
I(x,t)&=I(x)e^{j\omega t}
\end{align}
\right.
\]
という仮定をした解について、電信方程式に代入して計算していきましょう。時間偏微分は
\[\frac{\partial V}{\partial t}=j\omega V\]
となります。電流についても同様です。したがって、電信方程式は、
\[
\left\{
\begin{align}
\frac{dV}{dx} &= -\left(R+j\omega L\right)I \\
\frac{dI}{dx} &= -\left(G+j\omega C\right)V
\end{align}
\right. \tag{1}
\]
と書き換えられます。どちらでも良いので、上の二式のうち一つをxで微分してもう一方に代入しましょう。すると
\[
\left\{
\begin{align}
\frac{d^2V}{dx^2} &= \left(R+j\omega L\right)\left(G+j\omega C\right)V \\
\frac{d^2I}{dx^2} &= \left(R+j\omega L\right)\left(G+j\omega C\right)I
\end{align}
\right.
\]
電流電圧について同じ微分方程式が得られます。
ここで\(\theta^2=\left(R+j\omega L\right)\left(G+j\omega C\right)\)とおくと、電圧についての方程式の解は、
\[
V(x)=K^+e^{-j\theta x} + K^-e^{j\theta x}
\]
の形になります。定数\(K^+\)は進行波の成分ですから、添字を+としました。これを(1)式に代入すれば、
\[
I(x)=\frac{\theta}{R+j\omega L}\left(K^+e^{-j\theta x} - K^-e^{j\theta x}\right)
\]
が得られますが、最初の係数\frac{\theta}{R+j\omega L}の逆数がインピーダンスの単位を持つことに注目して、(\(K^+,K^-\)は電圧ですからそうなっていないとおかしいですね。)
\[
Z_0 = \frac{R+j\omega L}{\theta} = \sqrt{\frac{R+j\omega L}{G+j\omega C}}
\]
としましょう。この\(Z_0\)を
特性インピーダンス
といいます。
今回は電圧から先に解いたので、係数\(K^+,K^-\)が基準となっていますが、別に電流から解いてもいいわけです。しかし、どんな教科書をみても電圧基準で書いてあるので、これが慣例なのでしょう。そういう慣例に逆らうと大変なので、逆らうのはやめときます。
なにはともあれ、解けました。時間依存の項も示してまとめておくと、
\[
\left\{
\begin{align}
V(x,t)&=\left[K^+e^{-j\theta x} + K^-e^{j\theta x}\right]e^{j\omega t} \\\\
I(x,t)&=\frac{1}{Z_0}\left[K^+e^{-j\theta x} - K^-e^{j\theta x}\right]e^{j\omega t}
\end{align}
\right.
\]
と、このようになります。