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Van der Waals気体


1.Van der Waals気体

前回は理想気体について扱ったが、現実に存在する気体が必ず理想気体のように振舞うとは限らない。 それどころかむしろ、そうでないように振舞うことが非常に多い。実在気体に関して論じるときに よく使われる有名な状態方程式のひとつに、Van der Waalsによって考案されたものがある。今回はこれを題材にして、 熱力学的な議論をしていこうかと思う。

ちなみに、固体物理のページに、ファンデルワールス力をしっかり理論計算してみたものも書いてある。ここに比べたらちょっとばかり数式展開が難しいページだがみてみてもいいかもしれない。


Van der Waals状態方程式の導出

まずは

Van der Waalsの状態方程式

を導出してみよう。これまた分子をみていくことになるが致し方ない。
さてスタートは理想気体の状態方程式だ。 \[pV=nRT\] そろそろみなれてきたし、書く必要もないかもしれないが、いちおう参考までに書いておいた。この式の中のp,Vを少し 書き換えるとすぐに目的が達成される。

まずは\(V\)。\(V\)は気体の占有する体積である。しかし、ここでよく考えてみよう。気体分子は見えないほどにとても小さい、 しかし小さいといえどもそこに存在している以上、ある程度の体積を持っている。

つまり、分子が占有する体積の分だけ、本当に気体分子が動ける空間というのは、\(V\)よりもほんの少し小さいものになるということだ。その具合は気体分子の数\(n\)に比例するとしてよいだろう。その分子一個あたりの体積を\(b\)として、\(V\) → \(V-nb\) という風に置き換える。

次は\(p\)。pの起源は分子が壁に衝突することだった。これをどうやって書き換えるかというと、

分子間力

という力を考えに入れていくのがミソだ。分子間力というのは、分子間に働く引力のことである。ここで前回のように、箱の中に入った気体を考えよう。箱の真ん中あたりにいる分子は、どの方向からも引かれるから、トータルでは力を受けることは ない。しかし、壁際の分子は、それより箱の内側にいる分子に引かれて、トータルでは真ん中に戻されるような力を受けること になるのが想像できる。その分圧力が減少するわけだが、さあその具合は何に比例するだろうか?

まず、箱の壁際にいる分子の数は、たぶん気体の密度\(n/V\)に比例するだろう。さらにいえば、その分子が受ける力の大きさ だって感覚的に\(n/V\)に比例するんじゃなかろうか。だって周りに分子がたくさんいれば力も大きくなるだろうからな。

とまあこんな感じの適当な考察で、圧力の減少具合は比例定数を\(a\)として、\(a(n/V)^2\)と表せることにする。これで\(p\) → \(p+a(n/V)^2\) と書き換えてやろう。+になっているのは、\(p\)が減った分を打ち消すための書き換えだからだ。

さあやっとできた。Van der Waalsの状態方程式とは下の式のことだ。
\[ \left( p+\frac{an^2}{V^2} \right)(V-nb) = nRT \tag{1} \] a,bという比例定数が残ってしまっているが、この値を実験値にあうように決めてやることで、様々な気体の状態を表すことができる。

3.Van der Waals気体の性質

ほんとはここで熱容量とかを求めたかったのだが、まだここまでの知識ではできないことを忘れていた。これをやるにはMaxwellの 関係式なんていうものが必要になる。とりあえず今回はVan der Waals気体の状態方程式が導出できたことでよしとしよう。

ただ、これだけで終わってしまうのもなんだか味気ないので、この状態方程式の性質を少し探ってみる。

まず、気体が十分希薄であるとき。このときは\(n/V\)がほぼ0であるとみてよいだろう。つまりこの場合には式(1)は、 \[ pV = nRT \] と理想気体の状態方程式に帰着するというわけだ。

あとはなんだろう。\(V→nb\)のとき\(p→\infty\)となるとかそのくらいか。臨界温度やら臨界体積なんていうものとも関係が あるらしいが、それは相転移の話のときにまわして、今回はよしておこう。