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ボルツマン因子・分配関数


1.あるエネルギー状態をとる確率

前回、平衡状態という状態を、考えている系で一番起こりやすい状態として定義した。今回は、平衡状態となっている系で、ある一部分を取り出してその内部に存在するエネルギーを調べたとき、そのエネルギー状態が観測される確率について考えよう。これがわかると、例えばその系を構成する粒子一つ一つがあるエネルギーをもつ確率を、統計的に調べることができる。

全体のエネルギーが\(U_0\)であるような系について考えて、それをエネルギー\(\epsilon\)をもつ小さな領域\(s\)と、\(U_0-\epsilon\)をもつ領域\(R\)に分ける。(sはsystem, Rはreserviorのつもり。) 今からやりたいのは、\(\epsilon=\epsilon_i\)となるような確率\(P(\epsilon_i)\)を調べることである。

よくある説明は、\(P(\epsilon_i)\)を直接調べるのではなく、\(P(\epsilon_1)\)と\(P(\epsilon_2)\)の比を調べる方法だ。\(\epsilon=\epsilon_1\)と\(\epsilon=\epsilon_2\)となる確率の比は、Rにおける状態数の比を調べることで得られるだろう。したがって、 \[\frac{P(\epsilon_1)}{P(\epsilon_2)}=\frac{g_R(U_0-\epsilon_1)}{g_R(U_0-\epsilon_2)}\tag{1}\] とかける。さらに、エントロピー \[S_R=k\log g_R \tag{2}\] を用いて(1)を書き直せば、 \[\frac{P(\epsilon_1)}{P(\epsilon_2)}=\exp\left[\frac{S_R(U_0-\epsilon_1)-S_R(U_0-\epsilon_2)}{k}\right]\tag{3}\] となる。

次に、\(\epsilon_1,\epsilon_2<<U_0\)であることを利用して、エントロピーを一次の項までテイラー展開する。テイラー展開は \[S_R(U_0-\epsilon)\approx S_R(U_0)-\epsilon\left(\frac{\partial S_R(U)}{\partial U}\right)_{V,N,U=U_0}\tag{4}\] のようになる。ここで、前回の温度の定義を思い出すと、 \[\frac{1}{T}=\left(\frac{\partial S}{\partial U}\right)_{V,N}\tag{5}\] だったから、(4)は \[S_R(U_0-\epsilon)\approx S_R(U_0)-\frac{\epsilon}{T}\tag{4'}\] となり、(3)式は次のように書き直せる。 \[\frac{P(\epsilon_1)}{P(\epsilon_2)}=\frac{\exp\left[-\frac{\epsilon_1}{kT}\right]}{\exp\left[-\frac{\epsilon_2}{kT}\right]}\tag{6}\] この(6)式が

ボルツマン因子

\(\exp[-\epsilon/kT]\)の起源である。

蛇足かも知れないが、自分は最初にこ説明を見たとき疑問に思ったので少し補足しておく。(1)式を書くときに、何の理由も説明せずにRにおける状態数の比を用いたが、別に小さな領域\(s\)の状態数\(g_s\)を使ってもいいはずである。しかしそれでは(6)を導出することができないのだ。それは、\(U_0\)という項が無いがために(3)式を上でやったようにはテイラー展開できないことによる。

2.分配関数

さて、(6)式によって状態間の確率の比がでたわけだが、個々のエネルギー状態をとる確率はまだ分かっていない。しかし、ここまでくればあと一歩だ。

全てのエネルギー状態を考えたとき、その確率の和は1になるべきである。つまり、 \[\sum_i P(\epsilon_i)=1\] 両辺をあるエネルギー状態\(\epsilon_a\)を持つ確率で割ってやると、 \[\sum_i\frac{ P(\epsilon_i)}{P(\epsilon_a)}=\frac{1}{P(\epsilon_A)}\tag{7}\] (6)を使って、さらに両辺の逆数をとれば、 \[P(\epsilon_a)=\frac{\exp[-\epsilon_a/kT]}{Z}\tag{8}\] ただし \[Z=\sum_i \exp\left[-\frac{\epsilon_i}{kT}\right]\tag{9}\] と定義してしまった。これでついに、(8)式によって、任意の\(\epsilon\)を平衡状態の系の一部が持つ確率を求めることができた!注意して置きたいのは、考えている系が、熱浴Rによって等温に保たれているということだ。前回のエントロピーの議論では、考えている系のエネルギーが保たれていた。今回は、等温になるようにエネルギーが熱浴と常にやりとりされているから、系のエネルギーは常に揺らいでいる。

(9)のZは

分配関数

と呼ばれる量であり、統計力学では中心的な役割を果たす。これからの議論では、まず分配関数を計算してしまうことがおおい。

ちなみに、ある問題が与えられたときに、(2)式のエントロピーを状態数から計算して解く方法のことをミクロカノニカルによる方法、一方で(9)式の分配関数をエネルギー状態から求めて解く方法をカノニカルによる方法と呼んだりする。