1.ハイゼンベルク方程式とシュレディンガー方程式
位置や運動量を行列で表現したハイゼンベルク方程式と、電子を波によって表現したシュレディンガー方程式は
\[\left\{\begin{align}
\left(\frac{P^2}{2m}+V(X)\right)\psi &= W\psi\\
\left(-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dx^2} + V(x)\right)\phi &= E\phi
\end{align}\right.\tag{1}
\]
という感じでよく似ていた。で、前回の検討の結果、
\[\left\{\begin{align}
P&\Longleftrightarrow -i\hbar\frac{d}{dx}\\
X&\Longleftrightarrow x
\end{align}\right.\]
という対応関係がついていることを仮定すれば、PやXに相当する演算子\(-i\hbar\frac{d}{dx}\)と\(x\)の間に交換関係
\[\left[x,-i\hbar\frac{d}{dx}\right] = i\hbar\tag{2}\]
が成り立っていて、いい感じになったのだった。
交換関係が成り立っていることは、シュレディンガー方程式とハイゼンベルク方程式が同等であることを説明するためにかなり重要なんだけども、ハイゼンベルク方程式の\(P,X\)には交換関係以外にもう一つ重要な性質を持っていた。それがエルミート性(\(X^\dagger=X\))なんだが、これが演算子に成り立っている、というのはどういうことなのかしっかり考えないといけない。XやPに対応するシュレディンガー方程式の演算子がエルミート性を持っている、ということがもし言えれば、もう完全にシュレディンガー方程式とハイゼンベルク方程式の同等性が説明されるからな。
でもエルミート性っていっても、\(X^\dagger\)というのは複素共役をとって転置しただけの行列なんだから、演算子だったらただ単に複素共役を取ればいいだけなんじゃないの?と思ってしまうかもしれないが、それは違うのだ。あくまでエルミート性っていうのは行列的な量に対して定義される性質で、演算子に対してエルミート性を定義しようと思ったら、演算子を行列的に表現してやらないといけないのだ。
そこで今回は演算子を行列で表現し、関数をベクトルで表現するということをやる。
2.演算子を行列で、関数をベクトルで
詳細な説明は
次回の補足のページに回すことにして、ここでは関数\(f(x)\)・演算子\(\hat{O}\)をそれぞれベクトル\(f=\{f_n\}\)・行列\(A=\{a_{mn}\}\)で表す方法を書いておく。それには正規直交基底\(\phi_n(x)\)というのを使って、
\[\begin{align}
f_n&=\int\phi_n^*(x)f(x)dx\\
a_{mn}&=\int\phi_m^*(x)\hat{O}\phi_n(x)dx
\end{align}\tag{3}\]
という計算をすればよかった。逆にベクトル・行列から関数・演算子をそれぞれ作り出すには、
\[\begin{align}
f(x)&=\sum_nf_n\phi_n(x)\\
\hat{O}f(x)&=\int\left(\sum_m\sum_n\phi_m(x)a_{mn}\phi^*_n(x')\right) f(x')dx'
\end{align}\tag{4}\]
という感じになる。
この関係を使って、演算子\(x,-i\hbar\frac{d}{dx}\)を行列表示して、これらがエルミートであることを示してみよう。
3.位置・運動量演算子のエルミート性
位置演算子\(x\)を行列表示すると、
\[X_{mn}=\int\phi_m^*(x)x\phi_n(x)dx\tag{5}\]
だ。これがエルミート性\(X^\dagger=X\)を持っていることを示そう。成分表示では、\(X^*_{nm}=X_{mn}\)を示せばいい。
\begin{align}
X_{nm}^*&=\left(\int\phi_n^*(x)x\phi_m(x)dx\right)^*\\
&=\int\phi_n(x)x\phi_m^*(x)dx\\
&=\int\phi^*_m(x)x\phi_n(x)dx\\
&=X_{mn}
\end{align}
のように示せる。簡単だった。
次に運動量演算子\(-i\hbar\frac{d}{dx}\)。
これも、
\[P_{mn}=\int\phi_m^*(x)\left(-i\hbar\frac{d}{dx}\right)\phi_n(x)dx\tag{6}\]
のように行列表現して計算してみると、
\begin{align}
P_{nm}^*&=\left(\int\phi_n^*(x)\left(-i\hbar\frac{d}{dx}\right)\phi_m(x)dx\right)^*\\
&=\int\phi_n(x)\left(i\hbar\frac{d}{dx}\right)\phi_m^*(x)dx
\end{align}
こっちは少しむずかしい。ここまで特に仮定していなかったが、ここで\(\phi_n(x)\)という関数たちは無限遠(もしくは考えている変域の端)で0になるという条件をつけよう。この条件は別に不自然なものではない。シュレディンガー方程式の解というのは、基本的には無限遠で0になっているような解が多いからだ。(自由粒子なんかは無限遠でも波動関数が存在しているが、そういうのはとりあえず無視しよう。結構そのへんの扱いは難しいのだ。)
で、そうすると部分積分を使うことによって
\[=-\int\phi_m^*(x)\left(i\hbar\frac{d}{dx}\right)\phi_n(x)dx\\=P_{mn}\]
と変形していくことができる。
これで\(x,-i\hbar\frac{d}{dx}\)という演算子たちが、エルミート性を持つということを示すことができた。この2つの演算子が交換関係を満たすことは前回示したから、これでこの演算子から作られる行列\(X,P\) ( (5), (6) ) がハイゼンベルク方程式
\[H(X,P)\psi = W\psi\tag{7}\]
の\(X,P\)にふさわしい性質を持つことが分かった。
4.本当のシュレディンガー方程式
本当の、というとなんだか変な言い方になるかもしれない。しかし、よくシュレディンガー方程式と呼ばれる
\[-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2 \phi}{dx^2} + V(x)\phi=E\phi\tag{8}\]
という方程式はシュレディンガーの功績を全く表していない。そのことについて、ここまでの議論を踏まえた「本当の」シュレディンガー方程式について説明しながら見ていくことにしよう。
続きは別の回で。