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角運動量の合成


1.軌道角運動量とスピン角運動量

今回考えるのは、軌道角運動量\(\hat{\b{l}}\)とスピン角運動量\(\hat{\b{s}}\)を持つ電子が、全体でどのような角運動量を持つか? ということだ。このような角運動量の合成という問題を理解すると、量子力学の考え方への理解がかなり進むだろう。 (こんな偉そうなことを言っているが、僕は大学の講義をリアルタイムで理解した側の人間ではない。講義から何年かして、このサイトで紹介しているような量子力学の発展の歴史を知ってから、初めて腑に落ちたという感じだ。)

具体的な話をすると、今回は全体の角運動量を表す演算子 \[\hat{\b{L}} = \hat{\b{l}} + \hat{\b{s}}\] がどのような固有値・固有状態を持つか、について検討する。

とはいっても、\(\hat{\b{l}} = (\hat{l}_x,\hat{l}_y,\hat{l}_z)\)のそれぞれの成分に対して、同時に固有状態となっているものを作り出すことができなかったのと同じように、\(\hat{\b{L}}\)もそれぞれの成分を確定させるような状態は存在しない。そこで、普通の角運動量でやったように、\(\hat{L}^2,\hat{L}_z\)を考えることになる。

まあやってみよう。これはやらないとわからないタイプの問題だからな。

(ちなみに、このページは「角運動量の交換関係からみる固有状態」に書かれていることを前提として進める。少しの補足はするけど。)

2.軌道角運動量が1でスピン角運動量1/2の場合を考える

簡単のために、軌道角運動量が1でスピン角運動量1/2の系を考えよう。この系が分かってしまえば、もっと複雑な状況に応用するのはそれほど難しくない。

さっそく取り掛かりたいところだが、その前に軌道角運動量が1ということの意味を確認しておく。

一般に、軌道角運動量が1の状態といったときには、\(\hat{\b{l}}\)の大きさを示す\(\hat{l}^2\)という演算子に対して、 \[\hat{l}^2\ket{\psi} = 2\hbar\ket{\psi}\] が成り立つ状態\(\ket{\psi}\)を表す。固有値が\(2\hbar\)なのに、なぜ軌道角運動量が2の状態と言わないのだったか思い出せるだろうか。

それは、\(\hat{l}^2\)の一般的な固有値が、整数\(l\)を用いて、 \[\hat{l}^2\ket{\psi_l} = l(l+1)\hbar\ket{\psi_l}\] と表されるからだった。軌道角運動量が1の状態と言うのは、この\(l\)を指して、\(l=1\)である状態のことを言うのだ。

もう一つ思い出さないといけないことは、\(\hat{l}^2\)に対して固有値\(l(l+1)\hbar\)を持つ状態が一つだけでは無いということだ。(こういう一つの固有値に対して何個も状態が存在することを縮退という。) どういう状況になっていたかというと、\(l(l+1)\hbar\)の固有値をもつ状態には、\(\hat{l}_z\)に対して固有値\(m\hbar\) (\(m=-l,-l+1,...0,...,l-1,l\)) をもつ\(2l+1\)個の状態が存在していた。

ということで、軌道角運動量が1の状態には、3つの状態 \[\ket{m=-1},\ket{m=0},\ket{m=1}\] がある。それぞれ\(\hat{l}_z\)に対して固有値\(-\hbar,0,\hbar\)を持つ状態である。毎回こんなふうに書くのはめんどくさいから、それぞれ\(\ket{-1},\ket{0},\ket{1}\)と書くことにしてしまおう。

スピン角運動量についても同じようなことが言える。スピン1/2の場合には \[\hat{s}^2\ket{\psi} =\frac{3}{4}\hbar\ket{\psi}\] を満たす状態\(\ket{\psi}\)は2つあり、\(\hat{s}_z\)に対してそれぞれ固有値1/2,-1/2を持つ状態である。この2つの状態のことを\(\ket{1/2},\ket{-1/2}\)と書くことにしよう。

3.全角運動量演算子の一般的な性質

ここからは本題である\(\hat{\b{L}}=\hat{\b{l}}+\hat{\b{s}}\)についての一般論。

全角運動量演算子 \[\hat{\b{L}}=\hat{\b{l}}+\hat{\b{s}}\tag{1}\] を成分で書くと、この定義からすぐに分かるように、 \[\hat{\b{L}} = (\hat{L}_x,\hat{L}_y,\hat{L}_z) = (\hat{l}_x+\hat{s}_x,\hat{l}_y+\hat{s}_y,\hat{l}_z+\hat{s}_z)\tag{2}\] である。次にこの全角運動量演算子の成分間の交換関係を考えるが、軌道角運動量演算子もスピン角運動量演算子も \[[\hat{l}_x,\hat{l}_y]=i\hbar\hat{l}_z,~[\hat{l}_z,\hat{l}_x]=i\hbar\hat{l}_y,~[\hat{l}_y,\hat{l}_z]=i\hbar\hat{l}_x\tag{3}\] という交換関係を満たすから、それをただ足しただけの全角運動量演算子も、全く同じ交換関係を満たす。具体的には、 \[[\hat{L}_x,\hat{L}_y]=i\hbar\hat{L}_z,~[\hat{L}_z,\hat{L}_x]=i\hbar\hat{L}_y,~[\hat{L}_y,\hat{L}_z]=i\hbar\hat{L}_x\tag{3}\] ということだ。疑い深い人は、自分で計算してみればいい。そんなに大変な計算では無いはずだ。あ、でも\(\b{l}\)と\(\b{s}\)が交換する、つまり \[[\hat{l}_\alpha,\hat{s}_\beta]=0\tag{4}\] であることについては少し補足しておこう。軌道角運動量演算子は、あくまで電子の空間的な軌道に対してなんらかの作用をする演算子であり、スピンにはなんの作用も及ぼさない。その逆も同じことであり、スピン角運動量演算子は電子のスピンに対するもので、空間的な軌道に対しては何もしない。したがって、この2つをどういう順番で作用させるのかということは、結果に何の影響も及ぼさないのだ。よって(4)が成り立つわけだ。

(3)の交換関係が成り立つということで、普通の角運動量と同じように、 \[\left\{\begin{align} \hat{L}_+&=\hat{L}_x+i\hat{L}_y\\ \hat{L}_-&=\hat{L}_x-i\hat{L}_y \end{align}\right.\] という2つの演算子を定義する。この2つの演算子は、z方向の角運動量を\(\pm\hbar\)だけを増減させる役割を果たすのだった。式で書くと、\(\hat{L}^2\)について\(L(L+1)\hbar\)、\(\hat{L}_z\)について\(M\hbar\)の角運動量をもつ状態を\(\ket{LM}\)と書くことにして、 \[\left\{\begin{align} \hat{L}_+\ket{LM}&=\left[L(L+1)-M(M+1)\right]^{1/2}\ket{L,M+1}\\ \hat{L}_-\ket{LM}&=\left[L(L+1)-M(M-1)\right]^{1/2}\ket{L,M-1} \end{align}\right.\tag{5}\] ということである。さらに(5)からもわかるように、これらの演算子を\(M\)が最大値や最小値\(\pm L\)をもつ状態\(\ket{L ,\pm L}\)に作用させると\(0\)になる。逆に言えば、もしこれらの演算子\(\hat{L}_+,\hat{L}_-\)を作用させて\(0\)になるような状態があれば、それは\(M=\pm L\)という状態を表していると考えられるだろう。このことを使って、具体的な計算を進めていく。

4.\(l=1,s=1/2\)の場合の全角運動量固有値

ここまでで準備は終わりで、具体的な計算に移ろう。

全角運動量のz成分が最大となっている状態はどんな状態だろうか?直感的には、軌道角運動量のz成分もスピン角運動量のz成分も最大であるような状態が、そういう状態を表すだろうと予想できる。軌道角運動量のz成分が最大である状態は\(\ket{1}\)で、スピン角運動量の場合には\(\ket{1/2}\)だった。そこで、電子がこの2つの状態に確定している状態のことを、単に並べて\(\ket{1}\ket{1/2}\)と書くことにする。

自分はこの\(\ket{1}\ket{1/2}\)という状態が最初良くわからなかったので、少し補足しておこう。これは、軌道角運動量のz成分が\(\hbar\)、スピン角運動量のz成分が\(\hbar/2\)にそれぞれ「確定」している状態を示す。なんらかの方法でこの2つの角運動量のz成分を別々に測定することができたとしたら、その測定の順序に関わらず、それぞれ\(\hbar,\hbar/2\)という結果を与えるということである。ヒルベルト空間上の直積が何とか...とかいうよくわからない解説が講義で出てきたとしても、そんなことは無視して進めばいい。たしかにこの状態を数学的に言い表すとするならそういう言い方になるのだが、物理的にはここで説明したような意味しかないからだ。

さて、直感的には間違いなく、\(\ket{1}\ket{1/2}\)の状態では全角運動量のz成分も最大になっているだろうと考えられるわけだが、そのことをしっかり示すには\(\hat{L}_+\)を作用させてみればいい。これで0になってしまえば確かに最大であるといえるのだ。

さて、\(\hat{L}_+ =\hat{l}_+ + \hat{s}_+\)に注意して計算してみると、 \begin{align} \hat{L}_+\ket{1}\ket{1/2} &= \left(\hat{l}_+ + \hat{s}_+\right)\ket{1}\ket{1/2}\\ &=\hat{l}_+ \ket{1}\ket{1/2}+ \hat{s}_+\ket{1}\ket{1/2}\\ &=\left(\hat{l}_+ \ket{1}\right)\ket{1/2}+ \ket{1}\left(\hat{s}_+\ket{1/2}\right)\\ &=0 \end{align} いくらか注意が必要かな。さっきも言ったかもしれないが、演算子\(\hat{l}_+,\hat{s}_+\)は、それぞれ軌道角運動量、スピン角運動量状態に対してだけ作用する演算子なので、たとえば\(\hat{s}_+\)は軌道角運動量の状態には何も作用せずに、スピン状態だけに作用する。また、これは当たり前かも知れないけれど、\(\ket{1}\)や\(\ket{1/2}\)という状態は、z方向に最大角運動量をもつ状態だったから、+の演算子を作用させると0になる。だから上のような計算になるのだ。

ということで、\(\ket{1}\ket{1/2}\)という状態が、全角運動量のz成分\(\hat{L}_z\)を最大にする状態であることが分かった。具体的にその大きさを調べてみると、 \begin{align} \hat{L}_z\ket{1}\ket{1/2} &= \left(\hat{l}_z + \hat{s}_z\right)\ket{1}\ket{1/2}\\ &=\hat{l}_z \ket{1}\ket{1/2}+ \hat{s}_z\ket{1}\ket{1/2}\\ &=\hbar \ket{1}\ket{1/2}+ \frac{\hbar}{2}\ket{1}\ket{1/2}\\ &=\frac{3}{2}\hbar\ket{1}\ket{1/2} \end{align} となり、期待通り\(3\hbar/2\)の角運動量を持つことがわかる。したがってこの状態は、全角運動量のz成分\(\hat{L}_z\)の量子数\(M\)が\(3/2\)の状態を表していて、しかもそれが最大ということは、全角運動量の大きさ\(\hat{L}^2\)の量子数\(L\)も\(3/2\)の状態である。さっき全角運動量の固有状態のことを\(\ket{LM}\)と書くことにしていたから、 \[\ket{L=\frac{3}{2},M=\frac{3}{2}}=\ket{1}\ket{1/2}\tag{6}\] であるということが言える。

次は全角運動量のz成分が3/2より1小さい場合。

(6)に\(\hat{L}_-\)を掛ければいいっちゃいいのだが、それをやる前に、もっと簡単な方法が無いか考えておこう。

全角運動量のz成分\(\hat{L}_z=\hat{l}_z + \hat{s}_z\)が1/2になっている状態として、すぐに思いつくのは \[\ket{1}\ket{-1/2},~\ket{0}\ket{1/2}\] の2つがある。このどちらもたしかに\(\hat{L}_z\)に固有状態なのだから、これで求まったとしていいんじゃないか?と思ってしまうが、いまやろうとしていることとは少し違う。今知りたいのは、軌道角運動量とスピン角運動量をもつ電子を観測したときに、全体としてどのような角運動量が観測されるか?ということである。そういうことを念頭に置くと、確かに上の2つの状態\(\ket{1}\ket{-1/2},~\ket{0}\ket{1/2}\)は、\(\hat{L}_z\)の固有状態ではあるのだが、実は全角運動量の大きさ\(\hat{L}^2\)の固有状態にはなっていないことが問題となる。\(\ket{1}\ket{-1/2},~\ket{0}\ket{1/2}\)という状態を考えているだけでは、z方向の角運動量が1/2の場合に、全角運動量の大きさとしてどのような値が許されるかが全くわからないのだ。

だから全角運動量の大きさを調べるには、\(\ket{1}\ket{-1/2},~\ket{0}\ket{1/2}\)を組み直して、\(\hat{L}^2\)という演算子に対する固有状態を作り出さないといけない。

その方法は2つあるのだがわかるだろうか。一つはさっき言ったように(6)に\(\hat{L}_-\)を掛けて状態を作り出す方法。もう一つは\(\hat{L}^2 = (\hat{\b{l}}+\hat{\b{s}})^2\)という演算子の固有状態を\(\ket{1}\ket{-1/2},~\ket{0}\ket{1/2}\)の線形結合として書いて、 \[\hat{L}^2(\alpha\ket{1}\ket{-1/2}+\beta\ket{0}\ket{1/2})=L(L+1)(\alpha\ket{1}\ket{-1/2}+\beta\ket{0}\ket{1/2})\] となるような\(\alpha,\beta\)を見つける方法だ。もう少しかっこよく言うと、\(\hat{L}^2\)を対角化するような基底を見つける方法とも書ける。

しかし、この二番目の方法はかなりめんどくさそうだし、まあ\(\hat{L}_-\)を掛けて作り出してしまおう。

(6)に\(\hat{L}_-\)を書けると、(5)の関係を使いながら \begin{align} \hat{L}_-\ket{L=\frac{3}{2},M=\frac{3}{2}}&=\hat{L}_-\ket{1}\ket{1/2} \\ \sqrt{3}\ket{L=\frac{3}{2},M=\frac{1}{2}}&=\left(\hat{l}_1+\hat{s}_-\right)\ket{1}\ket{1/2} \\ &=\hat{l}_-\ket{1}\ket{1/2} + \hat{s}_-\ket{1}\ket{1/2}\\ &=\sqrt{2}\ket{0}\ket{1/2} + \ket{1}\ket{-1/2}\\\\ \ket{L=\frac{3}{2},M=\frac{1}{2}}&=\sqrt{\frac{2}{3}}\ket{0}\ket{1/2} + \frac{1}{\sqrt{3}}\ket{1}\ket{-1/2}\tag{7} \end{align} となる。ではもう一つの\(M=1/2\)の状態は、これに直交する状態として求められる。ちょっと考えればわかるように、これは \[\frac{1}{\sqrt{3}}\ket{0}\ket{1/2} - \sqrt{\frac{2}{3}}\ket{1}\ket{-1/2}\] である。この状態の\(\hat{L}^2\)に対する固有値は何か計算してみると、\(3\hbar/4\)であることがわかるので、これは実は\(L=1/2\)の状態である。\(\hat{L}^2\)の計算がめんどくさければ、\(\hat{L}_+\)を掛けることによっても確かめられる。

長くなったが、結局、 \begin{align} \ket{L=\frac{3}{2},M=\frac{1}{2}}&=\sqrt{\frac{2}{3}}\ket{0}\ket{1/2} + \frac{1}{\sqrt{3}}\ket{1}\ket{-1/2}\\ \ket{L=\frac{1}{2},M=\frac{1}{2}}&=\frac{1}{\sqrt{3}}\ket{0}\ket{1/2} - \sqrt{\frac{2}{3}}\ket{1}\ket{-1/2} \end{align} というのが、全角運動量に対して固有状態となっている状態であることがわかったのだ。

5.まとめ

ここまでで、 \begin{align} \ket{L=\frac{3}{2},M=\frac{3}{2}}&=\ket{1}\ket{1/2}\\ \ket{L=\frac{3}{2},M=\frac{1}{2}}&=\sqrt{\frac{2}{3}}\ket{0}\ket{1/2} + \frac{1}{\sqrt{3}}\ket{1}\ket{-1/2}\\ \ket{L=\frac{1}{2},M=\frac{1}{2}}&=\frac{1}{\sqrt{3}}\ket{0}\ket{1/2} - \sqrt{\frac{2}{3}}\ket{1}\ket{-1/2} \end{align} であることを導けた。あとはここまでの議論を繰り返す、つまり順々に\(\hat{L}_-\)を掛けて行けば、全角運動量の固有状態を全て作り出すことができる。

まとめて書いておくと、 \[\left\{\begin{align} \ket{L=\frac{3}{2},M=\frac{3}{2}}&=\ket{1}\ket{1/2}\\ \ket{L=\frac{3}{2},M=\frac{1}{2}}&=\sqrt{\frac{2}{3}}\ket{0}\ket{1/2} + \frac{1}{\sqrt{3}}\ket{1}\ket{-1/2}\\ \ket{L=\frac{3}{2},M=-\frac{1}{2}}&=\frac{1}{\sqrt{3}}\ket{-1}\ket{1/2} + \sqrt{\frac{2}{3}}\ket{0}\ket{-1/2}\\ \ket{L=\frac{3}{2},M=-\frac{3}{2}}&=\ket{-1}\ket{-1/2} \end{align}\right.\\ \]\[ \left\{\begin{align} \ket{L=\frac{1}{2},M=\frac{1}{2}}&=\frac{1}{\sqrt{3}}\ket{0}\ket{1/2} - \sqrt{\frac{2}{3}}\ket{1}\ket{-1/2}\\ \ket{L=\frac{1}{2},M=-\frac{1}{2}}&=\sqrt{\frac{2}{3}}\ket{-1}\ket{1/2} - \frac{1}{\sqrt{3}}\ket{0}\ket{-1/2} \end{align}\right. \] となる。

上の式の意味について最後に少し説明して終わりにする。

例えば\(\ket{L=\frac{3}{2},M=\frac{1}{2}}\)という状態を例にとって考えよう。この状態にある電子の全角運動量の大きさとそのz方向成分を測定したとき、その結果はそれぞれ必ず\(15\hbar/4\)と\(\hbar/2\)になる。実験に誤差が無いとするならば、これに不確定性は何も無い。「必ず」そのような結果が得られるのだ。

しかし、同じ状態にある電子の軌道角運動量だけを測定したとしよう。そのとき、軌道角運動量の大きさは必ず\(2\hbar\)だが、z方向成分は\(\hbar,0\)という結果がそれぞれ2/3, 1/3の確率で得られる。そして、もしこの測定でz方向成分が\(\hbar\)であるという結果が得られたら、電子はその「観測」の影響を受けて、\(\ket{1}\ket{-1/2}\)という状態へ「収縮」する。軌道角運動量を測定しただけなのに、スピンには何の作用もしていないはずなのに、不思議なことに、この観測によってスピンのz方向成分も確定してしまうのだ。(こういう状況はエンタングルメントと呼ばれる。)

さらに、この測定の後すぐに、状態\(\ket{1}\ket{-1/2}\)でもう一度全角運動量を測定すると、この状態が全角運動量の固有状態で無いことが原因となって、全角運動量の大きさはある一定の確率によって\(15\hbar/4,3\hbar/4\)の2つの値を取り得てしまうのだ。ちょっと前には確定していたはずなのに。

角運動量の合成の理論には、こんなふうに量子力学の不思議なところが凝縮されている。こういう観測問題は、ほとんど哲学みたいなところがあるから、深入りしないでおこう。