物理とか

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電磁場の量子化


1.光子とは

量子力学が始まる発端にもなった黒体放射の式を思い出そう。 \[u= \frac{8\pi h\nu^3}{c^3}\frac{1}{\exp\left(\frac{h\nu}{kT}\right)-1}\tag{1}\] この式を説明するために、角周波数\(\omega\)の光のエネルギーが \[E_\omega = n\hbar\omega\tag{2}\] の離散的な値しか取れないと考えることが、量子力学の始まりで大事な役割を果たした。(2)式から、これまで完全な「波」だと考えられていた光が、1つあたり\(\hbar\omega\)というエネルギーを持った「粒子」かも知れない、という疑念が生まれたのだ。

さて、光が粒子だと考えれば色々な実験が説明できることは分かったものの、じゃあそのようなとき電場や磁場がどのように表されるべきなのか?ということは全くわからないままだ。電場や磁場の振幅も離散化されているのだろうか?

このページでは、そのあたりのことについて考えながら、光を

量子化

する。

2.量子力学と対応させながら考える

まずは量子力学の原理を思い出そう。古典的な粒子のハミルトニアン \[H = H(q,p)\] の変数\(q,p\)を、交換関係\([\hat{q},\hat{p}]=i\hbar\)を満たす演算子\(\hat{q},\hat{p}\)によって置き換えることによって、量子力学的な方程式に移行できた。例えば、この交換関係を入れたハミルトニアンによって、調和振動子のエネルギーが\(n\hbar\omega\)に離散化されることが導き出される。つまり、交換関係\([\hat{q},\hat{p}]=i\hbar\)によって理論が

量子化

されるわけだ。

光もこの形式で量子化することを目指して考えてみよう。(一応先に断っておくと、このページで紹介する説明は、多分に直感的な議論で進めていく。もっと厳密な古典・量子対応を考えたい人には向かないかも知れないが、僕の理解を書きたいと思う。)

まず、電磁場のハミルトニアンとはどんなものを指すだろうか?古典論においてハミルトニアンとは、要するに全エネルギーのことだった。そこで、電磁場のハミルトニアンとして、 \[H = \int \frac{1}{2}\epsilon_0 E^2 + \frac{1}{2}\mu_0 H^2d\b{r}\tag{3}\] を仮定してみよう。積分は全空間で行うが、最初から無限の空間を考えるのは大変なので、今回は体積\(V=L^3\)の立方体の導体に閉じ込められた電磁場を考える。こうすると積分範囲は立方体の中だけで良いので、とりあえず数学的にややこしいことが出てこなくてやりやすくなるのだ。まずはその場合について電磁場を量子化してみよう。

3.箱の中の電磁場

さて、立方体の中だけで考えることにしたのだから、マクスウェル方程式を解けば許される電磁場の形わかる。具体的な電磁場の形は箱の中の電磁場のページで計算したように、例えば \[E_x(n_x,n_y,n_z) = \cos\left(\frac{n_x\pi x}{L}\right)\sin\left(\frac{n_y\pi y}{L}\right)\sin\left(\frac{n_z\pi z}{L}\right) (E_{x0}(n_x,n_y,n_z)e^{-i\omega t} + E_{x0}(n_x,n_y,n_z)^*e^{i\omega t})\] のような形になる。ただし\(\omega^2 = \frac{\pi^2c^2}{L^2}(n_x^2+n_y^2+n_z^2)\)である。(導出のページでは複素電磁場だけを考えたので、\(E_{x0}e^{-i\omega t}\)の項だけを書いていたが、本当の電磁場は実数なので、実数部をとるために複素共役の項\(E_{x0}^*e^{i\omega t}\)も足しておいた。) 箱の中の本当の電磁場は、これらの足し合わせ \begin{align} E_x &= \sum_{n_x,n_y,n_z}E_x(n_x,n_y,n_z)\\ &= \sum_{n_x,n_y,n_z}\cos\left(\frac{n_x\pi x}{L}\right)\sin\left(\frac{n_y\pi y}{L}\right)\sin\left(\frac{n_z\pi z}{L}\right)(E_{x0}(n_x,n_y,n_z)e^{-i\omega t} + E_{x0}(n_x,n_y,n_z)^*e^{i\omega t}) \end{align} で書かれる。\(\cos\)や\(\sin\)で書かれているということは、オイラーの公式を使って全て指数関数で表せるはずだから、書き換えてしまったほうが見通しがよくなるだろう。そうすると、一般には \[\b{E}(\b{r},t) = \sum_{n_x,n_y,n_z} \left(\b{E}(n_x,n_y,n_z)e^{i(\omega t-\b{k}\cdot\b{r})}-\b{E}(n_x,n_y,n_z)^*e^{-i(\omega t-\b{k}\cdot\b{r})}\right)\] となる。ただし\(\b{k} = \left(\frac{n_x\pi}{L},\frac{n_y\pi}{L},\frac{n_z\pi}{L}\right)\)である。こうしてしまうと、和に対する変数を\(n_x,n_y,n_z\)と書くよりも、波数ベクトル\(\b{k}\)で書いてしまう方が式がスッキリする。そこで、 \[\b{E}(\b{r},t) = \sum_{\b{k}} \left(\b{E}_\b{k}e^{-i(\omega_\b{k} t-\b{k}\cdot\b{r})}+\b{E}_\b{k}^*e^{i(\omega_\b{k} t-\b{k}\cdot\b{r})}\right)\tag{4}\] と書く。こう書いても、一応背後には\(n_x,n_y,n_z\)がいることは心に留めておこう。

これをハミルトニアンに代入して、、、のようにやっても良いのだが、今回はもう少しかっこいい形、使いやすい形にまとめていく。

というのも、電場\(\b{E}\)・磁場\(\b{B}\)を使うと、実はマクスウェル方程式に対しては冗長で、方程式の数と、未定変数の数が一致しないのだ。いらないパラメータが出てきてしまう。それを解決するには、スカラーポテンシャル・ベクトルポテンシャルを使えば良い。

4.ベクトルポテンシャルによって書き換える

スカラーポテンシャル\(\phi\)とベクトルポテンシャル\(\b{A}\)を使うと、電場・磁場は \begin{align} \b{B}&=\rot\b{A} \tag{5}\\ \b{E} &= -\frac{\partial \b{A}}{\partial t}-\grad\phi\tag{6} \end{align} と書き直される。電磁場が(4)のようにかけるということは、スカラーポテンシャル・ベクトルポテンシャルも \[\b{A}(\b{r},t) = \sum_{\b{k}} \left(\b{A}_\b{k}e^{-i(\omega_\b{k} t-\b{k}\cdot\b{r})}+\b{A}_\b{k}^*e^{i(\omega_\b{k} t-\b{k}\cdot\b{r})}\right)\tag{7}\] のようにかけるだろう。さらに\(\b{A},\phi\)には、ゲージ変換という自由度があったことを思い出す。そこでクーロンゲージ \[\nabla\cdot\b{A}=0\tag{8}\] を使うことにすると、(7)式はさらに簡単になる。具体的に(8)に(7)を代入してみると、 \[\b{A}_\b{k}\cdot\b{k} = 0\] となる。つまり\(\b{A}\)は必ず\(\b{k}\)に垂直であることが分かり、\(\b{k}\)に垂直な方向を持つ互いに垂直なベクトルを\(\b{e}_1(\b{k}),\b{e}_2(\b{k})\)とすると、 \[\b{A}(\b{r},t) = \sum_{\mu=1,2}\sum_{\b{k}} \left(A_{\b{k}\mu}e^{-i(\omega_\b{k} t-\b{k}\cdot\b{r})}+A_{\b{k}\mu}^*e^{i(\omega_\b{k} t-\b{k}\cdot\b{r})}\right)\b{e}_\mu\tag{9}\] とかけるわけだ。後の便宜のため、\(\b{e}_1\times\b{e}_2 = \b{k}\)となることにする。ではスカラーポテンシャルはどうなるだろう。電荷の存在しない空間でクーロンゲージでは \[\nabla^2\phi= 0\] を満たす。\(\phi\)も(7)式のように展開できるはずなので、これを代入すると\(k^2\phi = 0\)を得る。つまり\(k=0\)以外の成分は全て0になるのだ。これにより、\(\grad\phi=\b{k}\cdot\phi=0\)となるので、(6)式の電場のスカラーポテンシャルによる項\(\grad\phi\)は0であり、\(\phi\)は無視しても良い。

さて、次に今導いた(9)式によって、ハミルトニアン \[H = \int \frac{1}{2}\epsilon_0 E^2 + \frac{1}{2}\mu_0 H^2d\b{r}\tag{3}\] を書き直してみよう。(5), (6)式にベクトルポテンシャルの表式(9)を代入して、まず電場\(\b{E}\)は \[\b{E}(\b{r},t) = \sum_{\mu=1,2}\sum_{\b{k}} i\omega_\b{k}\left(A_{\b{k}\mu}e^{-i(\omega_\b{k} t-\b{k}\cdot\b{r})}-A_{\b{k}\mu}^*e^{i(\omega_\b{k} t-\b{k}\cdot\b{r})}\right)\b{e}_\mu(\b{k})\tag{10}\] となり、磁場\(\b{B}\)は \[\b{B}(\b{r},t) = \sum_{\mu=1,2}\sum_{\b{k}} ik\left(A_{\b{k}\mu}e^{-i(\omega_\b{k} t-\b{k}\cdot\b{r})}-A_{\b{k}\mu}^*e^{i(\omega_\b{k} t-\b{k}\cdot\b{r})}\right)\hat{\b{k}}\times\b{e}_\mu(\b{k})\tag{11}\] となる。ただし\(\hat{\b{k}}\)は波数ベクトルの方向を向いた単位ベクトルである。これらを使って、ハミルトニアンを順番に計算していこう。まず電場による項は、 \begin{align} \int E^2 d\b{r} &= -\int d\b{r}\sum_{\mu,\nu}\sum_{\b{k},\b{k}'} \omega_\b{k}\omega_{\b{k}'}\left(A_{\b{k}\mu}e^{-i(\omega_\b{k} t-\b{k}\cdot\b{r})}-A_{\b{k}\mu}^*e^{i(\omega_\b{k} t-\b{k}\cdot\b{r})}\right)\left(A_{\b{k}'\nu}e^{-i(\omega_{\b{k}'} t-\b{k}'\cdot\b{r})}-A_{\b{k}'\nu}^*e^{i(\omega_{\b{k}'} t-\b{k}'\cdot\b{r})}\right)\b{e}_\mu\cdot\b{e}_\nu\\ &= -\int d\b{r}\sum_{\mu,\nu}\sum_{\b{k},\b{k}'} \omega_\b{k}\omega_{\b{k}'}\left(A_{\b{k}\mu}A_{\b{k}'\nu} e^{-i((\omega_\b{k}+\omega_{\b{k}'}) t-(\b{k}+\b{k}')\cdot\b{r})}+A_{\b{k}\mu}^*A_{\b{k}'\nu}^*e^{i((\omega_\b{k}+\omega_{\b{k}'}) t-(\b{k}+\b{k}')\cdot\b{r})}\right.\\ &\quad\quad\quad\left.-A_{\b{k}\mu}A_{\b{k}'\nu}^*e^{-i((\omega_\b{k}-\omega_{\b{k}'}) t-(\b{k}-\b{k}')\cdot\b{r})}-A_{\b{k}\mu}^*A_{\b{k}'\nu}e^{i((\omega_\b{k}-\omega_{\b{k}'}) t-(\b{k}-\b{k}')\cdot\b{r})}\right)\delta_{\mu\nu} \end{align} ここで \[\int d\b{r}e^{i(\b{k}-\b{k}')\cdot\b{r})} = V\delta_{\b{k}\b{k}'}\] を使う。\(V\)は立方体の体積である。積分とΣを計算してしまうと、 \begin{align} \int E^2 d\b{r} &= V\sum_{\mu,\b{k}} \left[-\omega_\b{k}\omega_{-\b{k}}(A_{\b{k}\mu}A_{-\b{k}\mu} e^{-i((\omega_\b{k}+\omega_{-\b{k}}) t}+A_{\b{k}\mu}^*A_{-\b{k}\mu}^*e^{i((\omega_\b{k}+\omega_{-\b{k}}) t}) +\omega_\b{k}^2(A_{\b{k}\mu}A_{\b{k}\mu}^*+A_{\b{k}\mu}^*A_{\b{k}\mu})\right] \end{align} となる。さらに磁場による項も計算してしまおう。こちらは \begin{align} \int B^2 d\b{r} &= -\int d\b{r}\sum_{\mu,\nu}\sum_{\b{k},\b{k}'} kk'\left(A_{\b{k}\mu}e^{-i(\omega_\b{k} t-\b{k}\cdot\b{r})}-A_{\b{k}\mu}^*e^{i(\omega_\b{k} t-\b{k}\cdot\b{r})}\right)\left(A_{\b{k}'\nu}e^{-i(\omega_{\b{k}'} t-\b{k}'\cdot\b{r})}-A_{\b{k}'\nu}^*e^{i(\omega_{\b{k}'} t-\b{k}'\cdot\b{r})}\right)(\hat{\b{k}}\times\b{e}_\mu)\cdot(\hat{\b{k}}'\times\b{e}_\nu)\\ &= -\int d\b{r}\sum_{\mu,\nu}\sum_{\b{k},\b{k}'} kk'\left(A_{\b{k}\mu}A_{\b{k}'\nu} e^{-i((\omega_\b{k}+\omega_{\b{k}'}) t-(\b{k}+\b{k}')\cdot\b{r})}+A_{\b{k}\mu}^*A_{\b{k}'\nu}^*e^{i((\omega_\b{k}+\omega_{\b{k}'}) t-(\b{k}+\b{k}')\cdot\b{r})}\right.\\ &\quad\quad\quad\left.-A_{\b{k}\mu}A_{\b{k}'\nu}^*e^{-i((\omega_\b{k}-\omega_{\b{k}'}) t-(\b{k}-\b{k}')\cdot\b{r})}-A_{\b{k}\mu}^*A_{\b{k}'\nu}e^{i((\omega_\b{k}-\omega_{\b{k}'}) t-(\b{k}-\b{k}')\cdot\b{r})}\right)(\hat{\b{k}}\times\b{e}_\mu)\cdot(\hat{\b{k}}'\times\b{e}_\nu)\\ &= -V\sum_{\mu,\nu}\sum_{\b{k}} k^2\left[(A_{\b{k}\mu}A_{-\b{k}\nu} e^{-i((\omega_\b{k}+\omega_{-\b{k}}) t}+A_{\b{k}\mu}^*A_{-\b{k}\nu}^*e^{i((\omega_\b{k}+\omega_{-\b{k}}) t})(\hat{\b{k}}\times\b{e}_\mu)\cdot(-\hat{\b{k}}\times\b{e}_\nu(-\b{k}))\right.\\ &\quad\quad\quad\left.-(A_{\b{k}\mu}A_{\b{k}\nu}^*+A_{\b{k}\mu}^*A_{\b{k}\nu})(\hat{\b{k}}\times\b{e}_\mu)\cdot(\hat{\b{k}}\times\b{e}_\nu)\right] \end{align} のように計算していける。ただ、外積が残ったので少し考えないといけない。もともと\(\b{e}_1(\b{k})\times\b{e}_2(\b{k}) = \b{k}\)としていたことを踏まえると、 \begin{align} (\hat{\b{k}}\times\b{e}_\mu)\cdot(\hat{\b{k}}\times\b{e}_\nu) &= \delta_{\mu\nu}\\ (\hat{\b{k}}\times\b{e}_\mu)\cdot(-\hat{\b{k}}\times\b{e}_\nu(-\b{k})) &= -\delta_{\mu\nu} \end{align} である。もしわからないときは、図をしっかり書いてみればわかるはず。これを使えば、 \begin{align} \int B^2 d\b{r} &= V\sum_{\mu,\b{k}} k^2\left[(A_{\b{k}\mu}A_{-\b{k}\mu} e^{-i((\omega_\b{k}+\omega_{-\b{k}}) t}+A_{\b{k}\mu}^*A_{-\b{k}\mu}^*e^{i((\omega_\b{k}+\omega_{-\b{k}}) t}) +(A_{\b{k}\mu}A_{\b{k}\mu}^*+A_{\b{k}\mu}^*A_{\b{k}\mu})\right] \end{align} が得られる。さて、先に求めていた電場の項も合わせてハミルトニアンの式 (3) に代入していこう。 \begin{align} H &= \int \frac{1}{2}\epsilon_0 E^2 + \frac{1}{2}\mu_0 H^2d\b{r}\\ &= \frac{\epsilon_0V}{2}\sum_{\mu,\b{k}} \left[-\omega_\b{k}\omega_{-\b{k}}(A_{\b{k}\mu}A_{-\b{k}\mu} e^{-i((\omega_\b{k}+\omega_{-\b{k}}) t}+A_{\b{k}\mu}^*A_{-\b{k}\mu}^*e^{i((\omega_\b{k}+\omega_{-\b{k}}) t}) +\omega_\b{k}^2(A_{\b{k}\mu}A_{\b{k}\mu}^*+A_{\b{k}\mu}^*A_{\b{k}\mu})\right] \\ &\quad + \frac{V}{2\mu_0}\sum_{\mu,\b{k}} k^2\left[(A_{\b{k}\mu}A_{-\b{k}\mu} e^{-i((\omega_\b{k}+\omega_{-\b{k}}) t}+A_{\b{k}\mu}^*A_{-\b{k}\mu}^*e^{i((\omega_\b{k}+\omega_{-\b{k}}) t}) +(A_{\b{k}\mu}A_{\b{k}\mu}^*+A_{\b{k}\mu}^*A_{\b{k}\mu})\right] \end{align} ここで箱の中の電磁場の分散関係\(\omega_\b{k} = ck\)を使う。(\(\omega^2 = \frac{\pi^2c^2}{L^2}(n_x^2+n_y^2+n_z^2)=c^2k^2\)だった。) \(c = 1/\sqrt{\epsilon_0\mu_0}\)だから、特に\(k^2/\mu_0 = \epsilon_0\omega_\b{k}^2\)になることに注意すると、時間変化していた項は打ち消し合って、きれいにまとまってくれる。 \begin{align} H &= \int \frac{1}{2}\epsilon_0 E^2 + \frac{1}{2}\mu_0 H^2d\b{r}\\ &= \sum_{\mu,\b{k}} 2\epsilon_0\omega_\b{k}^2VA_{\b{k}\mu}A_{\b{k}\mu}^* \tag{12}\\ \end{align} ふう。なかなかハードな計算だった。そろそろ量子化したいのだが、もうひと工夫必要になる。

5.量子化する。

本当に「量子化」する前に、「量子化」という作業をなぜするのかもう一度おさらいしておこう。それは最初にも言ったように、マクスウェル方程式だけからは絶対に\(E_\omega = n\hbar\omega\)のように離散化されたエネルギーが現れないからだ。でも実験結果はそうなっているんだから、\(E_\omega = n\hbar\omega\)を導くような理論が欲しいのである。

そこで、シュレディンガー方程式を解いて\(E_\omega = n\hbar\omega\)のような解が出てくるのはどんなハミルトニアンだったか、というところから逆算して考えてみよう。この解が得られるのは、

調和振動子

のハミルトニアンだった。("生成演算子と消滅演算子で調和振動子を解く"参考。) つまり電磁場のハミルトニアンも、調和振動子のハミルトニアン \[H=\frac{p^2}{2}+\frac{\omega^2q^2}{2}\] と同じ形にすることができれば、交換関係\([q,p]=i\hbar\)を入れることによって\(E_\omega = n\hbar\omega\)を導けるはずだ。

これを目指した最後の一工夫は、\(A_{\b{k}\mu}\)を実数部と虚数部に分けて書くことである。 \[A_{\b{k}\mu} = x_{\b{k}\mu} + iy_{\b{k}\mu}\] とでもしてみよう。すると、 \[ H =\sum_{\mu,\b{k}} 2\epsilon_0\omega_\b{k}^2V(x^2_{\b{k}\mu} + y^2_{\b{k}\mu}) \tag{12} \] となって、調和振動子の形によく似てくる。もっと似させるには、 \begin{align} Q_{\b{k}\mu} &= 2\sqrt{\epsilon_0V}x_{\b{k}\mu}\\ P_{\b{k}\mu} &= 2\omega_\b{k}\sqrt{\epsilon_0V}y_{\b{k}\mu} \end{align} という変数変換をすれば良い。(細かいことを言うと、一応解析力学で言う正準変換に対応する。) こうすれば、 \[ H =\frac{1}{2}\sum_{\mu,\b{k}} (P^2_{\b{k}\mu} + \omega_\b{k}^2Q^2_{\b{k}\mu}) \tag{13} \] 完全に調和振動子の形にできた。ということは、これに\([\hat{Q}_{\b{k}\mu},\hat{P}_{\b{k}\mu}]=i\hbar\)を入れれば、このハミルトニアンの固有値が、 \[ E =\sum_{\mu,\b{k}} \hbar\omega_\b{k}\left(n_{\b{k}\mu}+\frac{1}{2}\right) \tag{14} \] となって、実験から推測されている、\(E_\omega = n\hbar\omega\)とほぼ同じ解が得られる。これで電磁場が

量子化

できたのだ。

6.量子化後の電場や磁場

交換関係を入れることによって量子化されたわけだが、ではこのとき電場や磁場はどう表されるのだろう。今回はこれを考えて終わりにしよう。

光子を考えるときは、生成・消滅演算子を中心に議論することが多いので、今後のためにもその形式で考える。生成・消滅演算子は \[\hat{a}=\sqrt{\frac{\omega}{2\hbar}}\hat{Q}+i\frac{1}{\sqrt{2\hbar\omega}}\hat{P}\] と定義されていた。これを使って\(A_{\b{k}\mu}\)を書き表すことができれば良いわけだ。だからさっき調和振動子の形に合わせこんだところを逆に辿っていけば良い。実際にやってみると、 \[A_{\b{k}\mu} = \frac{1}{2\sqrt{\epsilon_0V}}Q_{\b{k}\mu} + i\frac{1}{2\omega_\b{k}\sqrt{\epsilon_0V}}P_{\b{k}\mu}\] だったことを思い出し、ここに量子化して演算子となった \begin{align} \hat{Q}_{\b{k}\mu} &= \sqrt{\frac{\hbar}{2\omega_{\b{k}}}}(\hat{a}_{\b{k}\mu}+\hat{a}^\dagger_{\b{k}\mu})\\ \hat{P}_{\b{k}\mu} &= -i\sqrt{\frac{\hbar\omega_{\b{k}}}{2}}(\hat{a}_{\b{k}\mu}-\hat{a}^\dagger_{\b{k}\mu}) \end{align} を代入すると、 \[\hat{A}_{\b{k}\mu} = \sqrt{\frac{\hbar}{2\epsilon_0\omega_\b{k}V}}\hat{a}_{\b{k}\mu}\] が得られる。これを(10),(11)に代入すれば、量子化後の電場・磁場は、 \begin{align} \hat{\b{E}}(\b{r},t) &= i\sum_{\mu=1,2}\sum_{\b{k}} \sqrt{\frac{\hbar\omega_\b{k}}{2\epsilon_0V}}\left(\hat{a}_{\b{k}\mu}e^{-i(\omega_\b{k} t-\b{k}\cdot\b{r})}-\hat{a}_{\b{k}\mu}^\dagger e^{i(\omega_\b{k} t-\b{k}\cdot\b{r})}\right)\b{e}_\mu(\b{k})\\ \hat{\b{B}}(\b{r},t) &= i\sum_{\mu=1,2}\sum_{\b{k}} \sqrt{\frac{\mu_0\hbar\omega_\b{k}}{2V}}\left(\hat{a}_{\b{k}\mu}e^{-i(\omega_\b{k} t-\b{k}\cdot\b{r})}-\hat{a}_{\b{k}\mu}^\dagger e^{i(\omega_\b{k} t-\b{k}\cdot\b{r})}\right)\hat{\b{k}}\times\b{e}_\mu(\b{k}) \end{align} と表されることになる。

量子化後の電場・磁場は演算子になってしまった。しかし、電子のときも位置や運動量が演算子になってしまっていたのだから、これはある意味当然とも考えられる。しっかりと量子力学的な形式に移行できたわけだ。あとはこの理論が様々な実験を再現できるかどうか調べて行けば良い。
これで今回は終わり。次回からは量子化された電磁場がどういう性質を持つか調べていく。

このページでは、だいぶ直感的な説明をした。 本当は(3)のハミルトニアンからマクスウェル方程式が再現するかどうか調べないといけないし、更にいうならそもそもハミルトニアンを導出するには、電磁場のラグランジアンから考えるのがスジである。しかし、こういうふうな直感的な (実験に合わせこむような) 理論を作って、あれこれいじくり回して問題を解いてなんとなく理解できた気がした後に、そういう厳密な理論を学ぶほうが僕は好きだ。

ということで、このページみたいな説明にしたが、もちろん厳密なほうの理論を勉強しなくては素粒子の話は理解できないだろう。もしこのページが、厳密な議論で挫折した人の最初の一歩になればとても嬉しい。