1.1qubitの許される状態
実は、
\[\ket{\psi} = \alpha\ket{0}+\beta\ket{1}\tag{1}\]
と\(\alpha,\beta\)という重みによって重ね合わせ状態を作ったとき、\(\alpha,\beta\)はどんな数でもいいわけでは無いのです。
じゃあどんな数が許されるのかというと、それは(1)式の物理的意味に関わってきます。前回説明したように、量子力学では、
\[\ket{\psi} = \alpha\ket{0}+\beta\ket{1}\]
という状態を観測したとき、\(\ket{0}\)を見つける確率が\(|\alpha|^2\)で、\(\ket{1}\)を見つける確率が\(|\beta|^2\)と考えられています。観測は必ず\(\ket{0},\ket{1}\)のどちらかの結果しか与えないですから、この2つの確率を足すと1になっていなくてはいけません。このことを式で書くなら、
\[|\alpha|^2 + |\beta|^2 = 1\tag{2}\]
となります。これが、\(\alpha\ket{0}+\beta\ket{1}\)という重ね合わせ状態の係数\(\alpha,\beta\)が満たすべき条件です。
2.係数を見つける
(2)式を満たす係数の一般形としてはどんなものが考えられるでしょうか。(前回・前々回となるべく中高生にもわかるレベルの話をしていきましたが、ここからは複素数の知識や三角関数の知識が無いと正直きついです。)
2乗したものを足し合わせたら1になるといえば、あれですね。三角関数sin, cosです。そこで、
\[\alpha = \cos\theta, \beta=\sin\theta\]
と書けば自動的に(2)が満たされます。しかし、これだけでいいでしょうか。
(2)にあらわれているのが絶対値の二乗だということに気をつけます。したがって(2)から言えることは、
\[|\alpha| = \cos\theta, |\beta|=\sin\theta\]
という絶対値に関することだけです。つまり、絶対値がこの形になっていれば、別に位相\(e^{i\theta}\)がついていてもいいわけです。\(|e^{i\theta}|=1\)ですからね。だから、\(\alpha,\beta\)の一般形としては、
\[\alpha = e^{i\phi_1}\cos\theta, \beta=e^{i\phi_2}\sin\theta\]
が得られます。つまり、任意の状態は\(\phi_1,\phi_2,\theta\)という3つの実数を使って、
\[\ket{\psi} = e^{i\phi_1}\cos\theta\ket{0}+e^{i\phi_2}\sin\theta\ket{1}\tag{3}\]
と表されるわけです。実は量子力学の性質を使うと、もう少し簡単にできるのでやってみましょう。
まずこの式を次のように変形します。
\[\ket{\psi} = e^{i\phi_1}\left(\cos\theta\ket{0}+e^{i(\phi_2-\phi_1)}\sin\theta\ket{1}\right)\]
量子力学では、状態の全体にくっついている位相 (global phase) は観測結果に影響を及ぼさない、という性質があります。だから上の式で\(e^{i\phi_1}\)はあっても無くても同じことであり、無視することにします。すると、
\[\ket{\psi} = \cos\theta\ket{0}+e^{i\phi}\sin\theta\ket{1}\tag{4}\]
を得ます。\(\phi_2-\phi_1\)を1つの変数として\(\phi\)と置きました。これが任意の1qubit状態の一般式です。
ただし普通は、\(\theta\to\theta/2\)として、
\[\ket{\psi} = \cos\frac{\theta}{2}\ket{0}+e^{i\phi}\sin\frac{\theta}{2}\ket{1}\tag{5}\]
の形を使うことが多いです。なぜかは次回説明しましょう。