物理とか

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レイリー・ジーンズの式とヴィーンの式・プランクの輻射式


1.レイリー・ジーンズの式

前回シュテファン・ボルツマンの法則として、空洞内の電磁場から流れ出てくるエネルギーが \[P=\frac{1}{4}cu=\frac{1}{4}caT^4\tag{1}\] となることを導いた。でも、もっと実用的な問題として、例えば溶鉱炉の中の温度を正確に知りたいと思った時に、(1)式だけではなかなか難しい。だいたい、光の全波長を検出できるようなデバイスは存在しないし、いろんなデバイスを使ったにしても、いろんな波長でエネルギーを正確に測定するのは手間が掛かり過ぎるし、そもそもそんなkとができるかどうか怪しいところだ。

ところで、物体を熱すると段々と赤くなり、さらに熱するとやがて白く光り始めるのはみんな知っている。空洞のなかでも同じようなことが起こるだろう。そう思うと、全ての波長を検出するより、その光が何色に見えるかを検出するほうが筋が良さそうだ。だから、エネルギーの

スペクトル

というのが問題になる。つまり、どの波長がどのくらいのエネルギーを担っているのかということを知りたいのだ。

そこで、これまで知られていた法則から空洞輻射のエネルギースペクトルを導出したのがレイリーとジーンズである。せっかくなので、まずは導出してみよう。

ボルツマンの立ち上げた統計力学から、理想気体の平均的な一分子あたりのエネルギーは、 \[u_a=\frac{3}{2}kT\tag{2}\] となることが知られていた。さらに言えば、上の式は、

エネルギー等分配の法則

からの帰結である。系のもつ一つの自由度に対して、\(kT/2\)のエネルギーが平均的に分配されるという法則だ。理想気体の場合には、その気体が3次元のどの方向にも動けることから(2)式のようになるのだ。

では電磁場に分配されるエネルギーはどのくらいになるだろうか。今後示そうとは思うが、電磁場は一次元調和振動子の集合として考えられることを使うと、その運動エネルギーとポテンシャルエネルギーのそれぞれに\(kT/2\)が分配される。(このところは微妙な問題で、なかなか納得いかないかも知れないが、とりあえず自分が一番しっくりくる説明を書いた。)

つまり、電磁場の一つのモードには\(kT\)のエネルギーが平均的に分配される。ここからスペクトルを導出するには、電磁場の

状態密度

という概念が必要だ。状態密度とは、ある波長をもつ電磁場の数がどれだけ存在できるかという量である。状態密度を\(D(\lambda)\)とすると、ある微小幅\(\lambda\)~\(\lambda+d\lambda\)の間にある状態の数は、\(D(\lambda)d\lambda\)と書くことができる。これがわかれば、それとkTを書けることによって、エネルギースペクトルを求められるわけだ。そこで、立方体の中の電磁場では、 \[k^2=\left(\frac{\omega}{c}\right)^2=\frac{\pi^2}{L^2}(n_x^2+n_y^2+n_z^2)\tag{3}\] という波数の波のみが許されていたことを思い出す。(ここを参照。)この式から、波数の空間で\((\pi/L)^3\)ごとに状態が一つあることがわかるから、波数k以下の電磁場の数N(k)は、 \[N(k)=\frac{\frac{1}{8}\frac{4}{3}\pi k^3}{(\pi/L)^3}=\frac{k^3}{6\pi^2}L^3\tag{4}\] となることがわかるだろう。1/8の因子は、空間の正の部分だけを考えたために出てくる因子である。単位体積あたりに直すと、 \[n(k)=\frac{k^3}{6\pi^2}\tag{5}\] である。なんとなく波数だとしっくりこないので波長に直しておこう。すると、 \[n(\lambda)=\frac{4\pi}{3\lambda^3}\tag{6}\] となる。だが、これだと実は不十分で、電磁場の偏光も加味しないといけない。電磁場の偏光は各波長の波について2種類存在するから、(6)を2倍して、 \[n(\lambda)=\frac{8\pi}{3\lambda^3}\tag{7}\] が電磁場の数となる。電磁場の数とはいってもどういう電磁場の数を考えていたのかというと、k以下の波数の波の数を数えていた。それを波長に直したんだから、(7)はλ以上の波長をもっている波の数である。つまり、 \[n(\lambda)=\int_\lambda^\infty D(\lambda)d\lambda\tag{8}\] が成り立っている。したがって、状態密度を求めるにはnをλで微分してマイナスをつければいいわけだ。よって、 \[D(\lambda)=-\frac{dn}{d\lambda}=\frac{8\pi}{\lambda^4}\tag{9}\] となる。

ちょっとばかり長くなってしまったが、(9)はある波長λをもつ波の数を表している。(もちろん、ある微小幅をつけないと数にはならないわけだが。)よって、(9)に一つの波あたりに分配されるエネルギーkTをかけてやれば、スペクトルが得られる。つまり、 \[u(\lambda,T)=\frac{8\pi}{\lambda^4}kT\tag{10}\] となる。ついでに、振動数についても書いておくと、 \[u(\nu,T)=\frac{8\pi\nu^2}{c^3}kT\tag{10'}\] これが

レイリー・ジーンズの式

である。

しかし、この式は積分すると発散してしまい、全エネルギー量が\(T^4\)に比例するというシュテファン・ボルツマンの法則を再現しない。さらに、長波長側では実験値とよく合うのだが、短い波長ではまったくもって合わないことが分かってしまった。

さて、何が間違っていたのだろうか。これまでの法則ではどうしようもないような実験結果だったのだ。

2.ヴィーンの式

ヴィーンは、自分独自の(適当な、といっては失礼かもしれないが、)理論から、 \[u=\frac{8\pi a_1}{\lambda^5}e^{-\frac{a_2}{\lambda T}}\tag{11}\] という式を得た。\(a_1, a_2\)というのは実験から決めるべき定数である。これもついでに、振動数\(\nu\)によっても表しておくと、 \[u=\frac{8\pi a_1\nu^3}{c^3}e^{-\frac{a_2'\nu}{T}}\tag{12}\] のようになる。その理論には飛躍があったものの、この式は実験値を割りと良く再現することができていた。とくに、レイリージーンズの式が苦手としていた短波長側においては、非常によい一致をみせた。

ちなみに、ヴィーンは、この式を、ある温度の時のスペクトルからそれ以外の温度でのスペクトルを推測する、という方法から作られたものらしい。

で、(10)と(11)を波長ごとに使い分けるような式を作ったのがプランクである。

3.プランクの輻射式の導出

プランクは、輻射のエントロピーを考えることによって、あの有名な輻射式を発見した。せっかくなので、その理論をおってみよう。(実は、プランクが輻射式を発表した5年後にレイリー・ジーンズの式が正しい形で発表されたので、プランク自身は(10)式を知らなかったが、まあそのへんは大きな問題じゃないので適当に補足しながら進んでいこうと思う。)

1900年に、Rubensが空洞輻射の実験を行って、輻射のスペクトルが波長の長い領域でヴィーンの法則と一致しないことを見つけた。特に、長波長の領域では、スペクトルの強度は温度に比例することを発見した。そこでプランクは、エントロピーを比べてみることにしたらしい。

エネルギーとエントロピー・温度の間には、 \[\frac{dS}{dE}=\frac{1}{T}\tag{13}\] の関係がある。ヴィーンの導出した(12)式では、 \[\frac{1}{T}=-\frac{1}{a_2'\nu}\ln\left(\frac{c^3}{8\pi a_1\nu^3}E\right)\tag{14}\] となっているので、エントロピーは \begin{align} \frac{dS}{dE}&=-\frac{1}{a_2'\nu}\ln\left(\frac{c^3}{8\pi a_1\nu^3}E\right)\tag{15}\\ \frac{d^2S}{dE^2} &= -\frac{1}{a_2'\nu E}\tag{!6} \end{align} という関係を満たしている。エントロピーの2階微分というなんだかよくわからないものが出てきたが、結構綺麗な形をしているではないか。

しかし、実験によって、低振動数側ではエネルギースペクトルの強度が温度に比例することが分かってしまった。つまり、低振動数側では、レイリージーンズの式(10)が成り立っていたのだ。このときには、(10')から、 \begin{align} \frac{dS}{dE}&=\frac{8\pi k\nu^2}{c^3}\frac{1}{E}\\ \frac{d^2S}{dE^2}&=-\frac{8\pi k\nu^2}{c^3}\frac{1}{E^2}\tag{17} \end{align} となっていることがわかる。実験値との比較から、エントロピーの2階微分が、高振動数側ではEの1乗に、低振動数側ではEの2乗に反比例するというのだ。

そこでプランクは、 \[\frac{d^2S}{dE^2}=-\frac{8\pi k\nu^2}{c^3}\frac{1}{E\left(E+a_2'\frac{8\pi k\nu^3}{c^3}\right)}\tag{18}\] という式を考えた。これなら、低振動数側と高振動数側の式を両立できる。積分してエネルギースペクトルを求めてみよう。、 \begin{align} \frac{dS}{dE}&=-\frac{8\pi k\nu^2}{c^3}\int\frac{1}{E\left(E+a_2'\frac{8\pi k\nu^3}{c^3}\right)}dE\\ \frac{1}{T}&=-\frac{8\pi k\nu^2}{c^3}\frac{1}{a_2'\frac{8\pi k\nu^3}{c^3}}\int \left(\frac{1}{E}-\frac{1}{E+a_2'\frac{8\pi k\nu^3}{c^3}}\right)dE\\ \frac{a_2'\nu}{T}&=-\ln E+\ln\left(E+a_2'\frac{8\pi k\nu^3}{c^3}\right)\\ \frac{a_2'\nu}{T}&=\ln\left(1+a_2'\frac{8\pi k\nu^3}{c^3}\frac{1}{E}\right)\\ \exp\left(\frac{a_2'\nu}{T}\right)-1 &= a_2'\frac{8\pi k\nu^3}{c^3}\frac{1}{E}\\ E&= a_2'\frac{8\pi k\nu^3}{c^3}\frac{1}{\exp\left(\frac{a_2'\nu}{T}\right)-1}\tag{19} \end{align} となる。これが

プランクの輻射式

である。この式は実験値と見事に一致し、あとは実験値との比較から定数\(a_2'\)を求めるだけとなった。この定数\(a_2'\)は今では \[a_2'=h/k\tag{20}\] と書かれることが多いだろう。これがプランク定数\(h=6.626\times10^{-34}\)登場の経緯である。

さて、実験値は再現できたが、プランクがこの式を作ったときはウィーンの式とレイリージーンズの式をつなぐ式(18)を考えただけだった。これではまったくもって物理的な描像が無い。当てずっぽうで式を作ったのと同じだ。

これではダメだということで、プランクは(19)式の意味を考え続けた。それによって量子論が開かれたといっても過言ではないだろう。