物理とか

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シュテファン・ボルツマンの法則の導出


1.電磁場の熱力学

前回電磁場の状態方程式を導出したから、これをもとに、電磁場の熱力学を考えることができる。電磁場のエネルギー密度と圧力の間には、 \[p=\frac{1}{3}u\tag{1}\] の関係があった。ここから温度によって電磁場のエネルギー密度がどう変わるか考えてみよう。

熱力学から、 \[dU=TdS-pdV\tag{3}\] であるから、この式の両辺を温度一定の条件でdVで割ってやると、左辺はエネルギー密度になって、 \[u=T\frac{\partial S}{\partial V}_T-p\tag{4}\] さらにマクスウェルの関係式 \[\frac{\partial S}{\partial V}_T=\frac{\partial p}{\partial T}_V\tag{5}\] を使うと \[u=T\frac{\partial p}{\partial T}_V-p\tag{6}\] となる。p=u/3を代入して、 \[u=\frac{T}{3}\frac{\partial u}{\partial T}_V-\frac{u}{3}\tag{7}\] あとは変数分離系にして積分するだけだ。つまり \begin{align} \frac{4}{3}u&=\frac{T}{3}\frac{\partial u}{\partial T}_V\\ \frac{1}{u}\frac{\partial u}{\partial T}_V&=\frac{4}{T} \\ \log u&=4\log T + C\\ u&=aT^4 \tag{8} \end{align} となって、空洞内の電磁場のエネルギー密度が\(T^4\)に比例することがわかる。

2.シュテファン・ボルツマンの法則

シュテファン・ボルツマンの法則というのは、電磁場のエネルギーの流れの密度を表すものである。

空洞の壁に、内部の電磁場にほとんど影響を与えないような小さい穴\(\Delta S\)をあけて、そこから流れ出てくるエネルギー量を考えよう。

空洞内の微小な体積要素\(dV\)から等方的にエネルギーが流れているとすると、そこから距離\(r\)の点にある(\Delta S\)に微小時間\(\Delta t\)の間に到達するエネルギー量は \[dP=c\Delta t\times udV\frac{\Delta S}{4\pi r^2}\tag{9}\] となるだろうか。でもこれでは不十分で、例えば壁に平行な方向にあるdVから放射されるエネルギーはΔSに入ることは無いはずだ。そこで、そのことを加味する因子をかける必要がある。壁に垂直な方向を\(\theta=0\)とするなら、\(\theta\)方向にあるdVからΔSは\(\Delta S\cos\theta\)に見えるから、 \[dP=c\Delta t\times udV\frac{\cos\theta\Delta S}{4\pi r^2}\tag{10}\] とするのが正しい。あとはこれを積分すればいいだけだ。ある微小時間\(\Delta t\)の間に到達するエネルギーは\(\Delta r=c\Delta t\)の間にある\(dV\)だけだから、rに関する積分はしなくていい。ΔSを中心とする極座標を取れば、\(dV=r^2\sin\theta drd\theta d\phi\)とかけるから、 \begin{align} P&=\int \frac{cu\cos\theta\Delta S\Delta t}{4\pi r^2}r^2\sin\theta d\theta d\phi \\ &=\frac{cu\Delta S\Delta t}{4\pi}\int_0^{\pi/2}\sin\theta\cos\theta d\theta\int_0^{2\pi}d\phi\\ &=\frac{cu\Delta S\Delta t}{4} \end{align} 単位時間・単位面積あたりに直せば、 \[P=\frac{1}{4}cu=\frac{1}{4}caT^4\tag{11}\] これが

シュテファン・ボルツマンの法則

である。空洞輻射のエネルギーが\(T^4\)に比例するというのは実験によってもよく確かめられている。最初の実験はDulongとPetitによって行われていて、その実験結果からStefanが\(T^4\)則を予想した。さらにボルツマンが理論的な説明を与えたのでこういう名前になっている。

空洞輻射という問題が量子力学の始まりだったのはみんな知っていることだろうが、ここまでは今までの理論で全く問題なく説明できたのだ。しかし、エネルギーの振動数分布を考えようとすると、それまでの理論ではなぜか説明することができなかった。

次からはレイリージーンズの式・ヴィーンの法則、そしてさらにはプランクの輻射式まで導出していこうと思う。やっぱり量子力学を勉強するなら、量子力学がどうやって始まったのかを理解するのは大切だろう。