今回は、曲線を回転させたり、反転させたりしても、曲率や捩率が変化しないことを示す。なんでもないようなことだ。
1.合同変換
曲線\(\b{x}(s)\)に対して、形を変えずに回転・反転させた曲線\(\bar{\b{x}}\)は、
\[\bar{\b{x}}(s) = P\b{x}(s) + \b{a} ~~~~ (Pは直交行列、\b{a}は定ベクトル)\tag{1}\]
である。直交行列というのは回転や反転を表す行列であり、\(\b{a}\)はその分の平行移動を表すのだから、この変換によって、曲線自体の形状は変化しないはずである。
このときに、まずはフレネ標構がどのように変わるかみてみよう。
Frenet標構の3つのベクトル\(\{\b{t},\b{n},\b{b}\}\)の変化を見てみると、最初の2つは、
\begin{align}
\left\{
\begin{array}
~\bar{\b{t}}&=\bar{\b{x}}'&= P\b{x}' &= P\b{t} \\
\bar{\b{n}}&=\bar{\b{x}}''/\kappa&= P\b{x}''/\kappa &= P\b{n}
\end{array}
\right.
\end{align}
のように変換される。これから、変換後の従法線ベクトルは、\(\{\b{t},\b{n},\b{b}\}\)系で見れば、
\begin{align}
\bar{\b{b}} &= \bar{\b{t}} \times \bar{\b{n}} \\
&= (P\b{t}) \times (P\b{n}) \\
&= \left|
\begin{array}
\b{t} &\b{n} &\b{n} \\
p_{11} &p_{21} &p_{31} \\
p_{12} &p_{22} &p_{32} \\
\end{array}
\right| \\
&= \b{p}_1 \times \b{p}_2 \\
&= \pm \b{p}_3 \\
&= \pm P\b{b}
\end{align}
のようになることがわかる。つまり、直交行列による(1)のような変換を曲線にかけると、\(\b{b}\)だけは向きが変化する可能性があるということだ。ちなみに、復号は直交行列による変換が座標軸の反転を含むのなら-、含まないのなら+になるのだが、そのへんは線形代数を復習すればわかる。更に言えば、実は符号は\(P\)の行列式\(|P|\)の符号に一致するのだ。
2.フレネセレの式の合同変換
Frenet-Serretの式が変換後どうなっているだろう?まず変換前の\(\b{x}(s)\)について、前書いたように、
\[
\frac{d}{ds}\left(\begin{array}{c} \b{t} \\ \b{n} \\ \b{b} \end{array}\right) =
\left( \begin{array}{ccc}
0 & \kappa & 0 \\
-\kappa & 0 & \tau \\
0 & -\tau & 0
\end{array} \right)
\left(\begin{array}{c} \b{t} \\ \b{n} \\ \b{b} \end{array}\right)
\]
が成立しているとしよう。変換後には、\(\bar{\b{t}}=P\b{t},~\bar{\b{n}}=P\b{n},~\bar{\b{b}}=|P|P\b{b}\)という風になっているのだから、変換後の曲線の曲率、捩率をそれぞれ\(\bar{\kappa},\bar{\tau}\)と書くことにすると、
\[
\left\{ \begin{array}
~\frac{d\b{t}}{ds} = \kappa \b{n} &\Rightarrow \frac{d\bar{\b{t}}}{ds} = \kappa \bar{\b{n}} &\Rightarrow \bar{\kappa}=\kappa \\\\
\frac{d\b{b}}{ds} = -\tau \b{n} &\Rightarrow \frac{d\bar{\b{b}}}{ds} = -\tau|P| \bar{\b{n}} &\Rightarrow \bar{\tau}=|P|\tau
\end{array}
\right.
\]
となり、合同変換では、曲率や捩率が(符号の変化を除いて)変化しないことがわかる。
これまで見てきたように、曲率や捩率と言うのは、曲線の形を決めるのにかなり重要なパラメータである。実際、上の議論を見れば、曲率や捩率が与えられていれば、曲線の形が一意に決定されることがわかるだろう。次回からは、例えば曲率一定、捩率一定の曲線がどんな形になるのか、ということについて計算してみようかな。楽しみだ。