物理とか

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温度と熱容量


0.温度の単位

これから温度について扱っていくわけだが、温度の単位は本当にいつも使う

でよいのだろうか?℃という単位は、 水の沸点、融点を基準にして決められていて、とても人為的な感じがする。何がいいたいかというと、決め方からして一般の物質に 適用できそうな、普遍性が感じられないのだ。
熱力学の発展途上で、気体に関する実験を行ったとき実験式として得られたのは、温度をt[℃]として
\[ \frac{pV}{t+273.15} = const. \] という関係式であった。これが俗に言うBoyle-Charlesの法則である。この関係式からみると、少なくとも気体に関しては、 t[℃]+273.15という量が決定的な役割を果たしているように思われる。
だからここで

絶対温度[K]

という単位を
\[T[K] = t[℃] + 273.15\] と定義しようという話になるわけだ。これからは温度にこの単位を用いることにする。こんな感じで定義したが、絶対温度が 気体だけでなく普遍的な温度を議論するときにも便利になっているのはなんとも面白い。

1. 熱容量

熱に関する情報を知りたいと思ったとき、温度というのは重要な情報だ。 日常的に使う言葉では、ほとんど熱=温度というような図式が成り立っているといってもいい。
そこで

熱容量

という量の登場だ。熱容量とは、物質の温度を1℃あげるのに、 どれだけの量の熱エネルギーを与える必要があるか、という量である。高校では、熱容量をCとして
\[\Delta Q = C\Delta T\] という風に習う。Δというのはその量の変化を表すものとする(これ以降も)。 がしかしCは定数として扱れている。実際の現実世界では、 Cは色々な要因によって変化する変数だ。したがってCは関数のように書いて、
\[\Delta Q = C(状態)\Delta T\] もしくは
\[C(状態) = \frac{\Delta Q}{\Delta T} \] みたいに書くのがよいかもしれない。熱容量にも色々種類があるらしい。

2. 定積熱容量

さて、まずは

定積熱容量

からみていこう。名前の通り、 体積を一定に保った状態で熱を加えたとき、どのくらい温度が変化するかという量だ。第一法則の式
\[dU = -pdV + dQ\] からみればすぐに分かるように、体積一定(dV=0)の条件の下では、dU=dQである。定積熱容量にはCvという記号を使うことが多いので そうすることにする。Cvは式で書くとこうなる。
\[C_V = \left(\frac{\partial Q}{\partial T}\right)_V = \left(\frac{\partial U}{\partial T}\right)_V\] とまあこれだけだ。定積という条件の下では、系の外部には力学的な仕事ができないので 加えた熱量がそのまま内部エネルギーの増加に使われるという話である。

説明を忘れるところだったが、偏微分の下付き文字は、 その変数を一定に保ったときの変化を見ますよ~、という意味を持っている

3. 定圧熱容量

つぎは

定圧熱容量

である。これも名前の通り、 圧力を一定に保って加熱したときどのくらいの温度変化があるか?という量だ。 しかし、こちらのほうは定積熱容量に比べて少し事情が複雑である。なぜかといえば、圧力一定の条件下では 気体は外部に対して仕事をすることができるからだ。したがって上のようにdU=dQなどという簡単な式は出てこない。

けれども、Cvに比べて大きいか小さいかというあたりは推測できるだろう。
外に仕事をするのだから、それに使う熱量は温度変化には使われない。だから同じ1℃あげるにしても 一定体積の場合より、必要な熱量が多くなる。 つまりCvに比べてこの定圧熱容量という量は大きくなるべきなのだ。

これから定圧熱容量Cpという量がどのように式で表されるかみていこう。
当然第一法則の式
\[dU = -pdV + dQ\] は使うのだが、このままでは具合が悪い。なぜなら、dpの項が含まれておらず、定圧という条件が表現しにくいからだ。 dpさえあればdp=0として、一定圧力下の変化であるということを簡単に表現できる。
そこで、dVの部分を書き換えることを考えてみよう。
前に熱力学的な状態はp,T,Vのうち2つが決まれば確定されるという話をした。したがってpとTを独立な変数 とすれば、それら二つの従属変数であるVの微分dVは
\[ dV = \left(\frac {\partial V}{\partial T}\right)_p dT + \left(\frac {\partial V}{\partial p}\right)_T dp \] とかけるだろう。これでdVをdpを使って表すことができたので、これを第一法則の式に代入してやる。すると、
\[ dU = -p\left\{\left(\frac {\partial V}{\partial T}\right)_p dT + \left(\frac {\partial V}{\partial p}\right)_T\right\} + dQ \tag{1} \] という式になるわけだ。今知りたいのは定圧変化に関する情報であり、特に知りたいのは定圧熱容量Cpという量がどのような 振る舞いをするか、ということだ。Cpというのは、与えた熱量に対する定圧下での温度変化の程度なので、
\[ C_p = \left(\frac {\partial Q}{\partial T}\right)_p \] と書くことができるだろう。これを得るには、(1)式をdp=0(定圧)として、dTで割ってやればよい。
\begin{align} \left(\frac {\partial U}{\partial T}\right)_p &= -p\left(\frac {\partial V}{\partial T}\right)_p + \left(\frac {\partial Q}{\partial T}\right)_p \nonumber \\\\ C_p &= \left(\frac {\partial U}{\partial T}\right)_p + p\left(\frac {\partial V}{\partial T}\right)_p \end{align} さあこれでCpを式に表すことができた。なんだか複雑でよく分からない式だ。

4. エンタルピー

Cpの式は複雑で分かりにくくて仕方がないし、何より覚えにくい。ちょっと式をいじってみよう。Cpの式(2)の右辺第二項のpは一定 で微分しているのだから、定数であり微分の中に入れても問題ない。
\begin{align} C_p &= \left(\frac {\partial U}{\partial T}\right)_p + \left(\frac {\partial pV}{\partial T}\right)_p \\\\ &= \left(\frac {\partial \left(U+pV\right)}{\partial T}\right)_p \end{align} と、こんな感じにまとまる。ここで微分の中にまとまっている量、\(U+pV\)をひとつの変数Hとして定義してやる。
\[ H = U+pV \tag{2} \] このように定義された量Hを

エンタルピー

と呼ぶ。このエンタルピーを使えば、Cpは
\[ C_p = \left(\frac {\partial H}{\partial T}\right)_p \] と非常に簡単な式でまとめられて、気持ちがいい。これだけでもエンタルピーという量を導入した価値があると思える。

もう少しエンタルピーという量について調べてみよう。
そこで微分dHを考えてみる。式(2)のHの中にあるpVの微分は積の微分によって、
\[ d(pV) = pdV + Vdp \] とできるので、
\begin{align} dH &= dU + d(pV) \\\\ &= (-pdV + dQ) + (pdV + Vdp) \\\\ dH &= Vdp + dQ \end{align} うまい具合に打ち消しあってdpの項だけが残る。これがエンタルピーが定圧変化において重要な役割を果たすゆえんである。
この式は重要なので覚えておくとよいかもしれない。まあHの定義だけ覚えておけば簡単に導出できるわけだし、そこまで覚えておく というものでもないか。


5. Cv と Cp の関係

さて、最後にCvとCpの関係だけ導出して終わっておこう。
まず第一法則の式を
\[ dQ = pdV + dU \] と書き換えておく。ここでdUはT,Vを独立な変数だとみたとき、
\begin{align} dU &= \left(\frac {\partial U}{\partial T}\right)_V dT + \left(\frac {\partial U}{\partial V}\right)_T dV \\\\ &= C_V dT + \left(\frac {\partial U}{\partial V}\right)_T dV \end{align} となる。これを代入してやれば、
\[ dQ = \left\{ p + \left(\frac {\partial U}{\partial V}\right)_T \right\} dV + C_v dT \] さらに圧力一定の下でdTで割ってやれば、
\begin{align} \left(\frac {\partial Q}{\partial T}\right)_p &= \left\{ p + \left(\frac {\partial U}{\partial V}\right)_T \right\} \left(\frac {\partial V}{\partial T}\right)_p + C_v \\\\ C_p &= \left\{ p + \left(\frac {\partial U}{\partial V}\right)_T \right\} \left(\frac {\partial V}{\partial T}\right)_p + C_v \\\\ C_p - C_v &= \left\{ p + \left(\frac {\partial U}{\partial V}\right)_T \right\} \left(\frac {\partial V}{\partial T}\right)_p \end{align} とまあこんな感じになる。またもよく分からない式だが、実はこの式の右辺は必ず正になる ことがもっと勉強を深めていけば示せるらしい。つまりこれから Cp > Cv であることが導きだされるのだ。
しかしここまで一般論ばかりで飽きてきた。
次からはこんな一般論ばかりでなく、演習問題の意味も含めて、実際に存在するものに適用して考えていこうかと思う。