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第2量子化 - フェルミオンの生成消滅演算子


1.ボソンの第二量子化のまとめ

このページでは、導出といえるほど論理だっているかどうかは分からないが、フェルミオンの第二量子化を導出してみる。しかしその前に、ボソンの第二量子化の手順をおさらいしよう。

前回は、電磁場を量子化した時とのアナロジーによって、ボソンを第二量子化した。ボソンの場合には、ボソンの各モード (波動関数) \(\{\phi_\mu\}\)に以下の交換関係 \begin{align} [a_{\mu},a^\dagger_{\nu}] &= \delta_{\mu\nu} \\ [a_{\mu},a_{\nu}] &= 0 \tag{1}\\ [a^\dagger_{\mu},a^\dagger_{\nu}] &= 0 \end{align} を満たす生成消滅演算子\(a^\dagger_{\mu}, a_{\mu}\)の固有状態を対応付けることで、多粒子系をうまく記述することができた。モード\(\mu\)とは、ハミルトニアンの固有状態を指す量子数だと思ってもらえれば差し支えない。ここでその対応付けの手順をもう一度まとめておく。

1. 真空\(\ket{0}\)に\(a^\dagger_{\mu}\)を作用させた状態\(\ket{1_\mu}\)をモード\(\mu\)の波動関数に対応付ける。 \[\phi_\mu(\b{r}) = \braket{\b{r}}{1_{\mu}} = \bra{\b{r}}a^\dagger_\mu\ket{0}\tag{2}\] 2. ここから逆に、位置演算子\(\hat{\b{r}}\)の固有状態\(\ket{\b{r}}\)を生成する演算子\(\psi^\dagger(\b{r})\)を定義する。 \[\psi^\dagger(\b{r})= \sum_\mu \phi^*_\mu(\b{r})a^\dagger_\mu \tag{3}\] 3. \(N\)粒子系の位置状態を以下のように定義する。 \[\ket{\b{r}_N\cdots\b{r}_2\b{r}_1} = \frac{1}{\sqrt{N!}}\psi^\dagger(\b{r}_N)\cdots\psi^\dagger(\b{r}_2)\psi^\dagger(\b{r}_1)\ket{0} \tag{4}\] 4. すると、\(N\)粒子系のボソンの波動関数\(\Phi^b_{\phi_1\phi_2\cdots\phi_N}(\b{r}_1,\b{r}_2,\cdots,\b{r}_N)\)と以下の対応がつく。 \[\bra{\b{r}_1\b{r}_2\cdots\b{r}_N}a^\dagger_{\mu_N}\cdots a^\dagger_{\mu_2} a^\dagger_{\mu_1}\ket{0}= \Phi^b_{\phi_1\cdots\phi_N}(\b{r}_1,\cdots,\b{r}_N)\tag{5}\]
さて、このようにして、(1)の交換関係をもつ演算子\(a^\dagger_{\mu}, a_{\mu}\)を使うとボソンの多粒子系はうまく記述できることが分かった。同じような手法によって、フェルミオンの多粒子系も記述できればとてもすっきりするだろう。そのような視点のもと、フェルミオンの生成消滅演算子を導出してみようと思う。

2.フェルミオンの問題

フェルミオンとは、波動関数の符号が、ある粒子とある粒子の交換によって符号が反転する粒子のことをいうのだった。具体的には、 \[\psi(\b{r}_1,\cdots,\b{r}_i,\cdots,\b{r}_j,\cdots,\b{r}_N) = -\psi(\b{r}_1,\cdots,\b{r}_j,\cdots,\b{r}_i,\cdots,\b{r}_N)\tag{6}\] である。その性質を満たしつつも、個々の粒子が別々の波動関数を持っている状況を示すときには、スレーター行列式 \[ \Phi_{\phi_1\phi_2\cdots\phi_N}^f(\b{r}_1,\b{r}_2,\cdots,\b{r}_N) = \frac{1}{\sqrt{N!}}\left|\begin{array}{cccc} \phi_1(\b{r}_1) & \phi_1(\b{r}_2) & \cdots & \phi_1(\b{r}_N) \\ \phi_2(\b{r}_1) & \phi_2(\b{r}_2) & \cdots & \phi_2(\b{r}_N) \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ \phi_N(\b{r}_1) & \phi_N(\b{r}_2) & \cdots & \phi_N(\b{r}_N) \\ \end{array} \right|\tag{7} \] を利用する。この形をみると、列の交換が粒子の交換に対応していることがわかる。行列式の性質から粒子の交換に対して符号が反転するように考えられているのだ。また、ある\(i,j\)について\(\phi_i = \phi_j\)が成り立つ場合、つまり2つの粒子が同じ波動関数を持つ場合、行列式は\(0\)になる。フェルミオン系では、1つの波動関数をとることができるのは、1つの粒子だけなのだ。

そういうわけで、フェルミオンとボソンでは大きく状況が異なる。したがって、ボソンと全く同じ手順によって第二量子化することには無理があるのだ。これまで使ってきた生成演算子\(a^\dagger_\mu\)が、同じモード\(\mu\)に何個でも同じ粒子を入れられることだけで、フェルミオンとは相容れないものであることがわかる。

しかし、ボソンの場合にこれだけうまくいった手法なのだから、なんとかしてフェルミオンも生成消滅演算子 (のようなもの) によって記述できないだろうか?

3. フェルミオンの生成消滅演算子

そこでフェルミオンの生成消滅演算子\(c^\dagger_\mu,c_\mu\)なるものが存在すると仮定して、その性質がどのようなものになるべきか考えてみよう。まずはボソンのときと同じように、\(c^\dagger_\mu\)を真空\(\ket{0}\)に作用させた状態\(\ket{1_\mu}\)と、フェルミオンのモード\(\mu\)の波動関数\(\phi_\mu(\b{r})\)とが、以下の対応関係を持っていると仮定する。 \[\phi_\mu(\b{r}) = \braket{\b{r}}{1_{\mu}} = \bra{\b{r}}c^\dagger_\mu\ket{0}\tag{8}\]

もちろんこの時点では、真空\(\ket{0}\)がどのような状態なのかはよくわからない。ボソンのときは粒子の無い状態\(\ket{0}\)があったのだから、きっとフェルミオンにもそのような状態があるはずだというアナロジーである。

さらにボソンのときと同じように、2粒子状態も次のように定義することにしよう。 \[{1_{\mu}1_{\nu}} = c^\dagger_\mu c^\dagger_\nu\ket{0}\tag{9}\] ここでフェルミオンの「粒子の交換について波動関数の符号が反転する」という性質を、\(c^\dagger_\mu\)の性質に押し付けられないか考えてみる。スレーター行列式を見ればわかるように、粒子の交換について符号が反転するということは、粒子同士のモードの交換について符号が反転するということと等価である。そこで、この性質を「モードの交換について状態の符号が反転する」と言い換えてしまえば、(9)の2粒子状態について \[c^\dagger_\mu c^\dagger_\nu\ket{0} = -c^\dagger_\nu c^\dagger_\mu\ket{0}\tag{10}\] が成り立つことが予想される。(10)の性質は、真空\(\ket{0}\)だけではなく、どんな状態に対してもなりたっているべきだろう。なぜなら、どんな状態に\(\mu,\nu\)のフェルミ粒子を付け加えたとしても、同様に符号が反転するべきだからだ。したがってフェルミオンの生成演算子には、 \[c^\dagger_\mu c^\dagger_\nu + c^\dagger_\nu c^\dagger_\mu = 0\tag{11}\] という

反交換関係

が成り立っているだろうと考えられる。これを反交換子\([A,B]_+ = AB+BA\)を使ってかっこよく書くと、 \[ [c^\dagger_\mu, c^\dagger_\nu]_+ = 0\tag{11}\] である。(ここからは、区別のため通常の交換子は\([A,B]_-\)と書くことにする。) ちょうどボソンの交換関係\([a^\dagger_{\mu},a^\dagger_{\nu}]_- = 0\)とは真逆の関係だ。そこで、少し飛躍があるが、ボソンの交換関係の他の式も反交換子に替えて、 \begin{align} [c_{\mu},c^\dagger_{\nu}]_+ &= \delta_{\mu\nu} \\ [c_{\mu},c_{\nu}]_+ &= 0 \tag{12}\\ [c^\dagger_{\mu},c^\dagger_{\nu}]_+ &= 0 \end{align} が成り立っていると仮定してみよう。この上で、真空\(\ket{0}\)などがうまく定義できるか考える。

4. フェルミオンの生成消滅演算子の性質

(12)の交換関係を満たす演算子\(c^\dagger_\mu, c_\mu\)を使って、ボソンの場合とのアナロジーから、個数演算子\(c^\dagger_\mu c_\mu\)を定義して、その固有値や性質を求めてみよう。その後、(8)の対応関係によって、たしかにスレーター行列式と同じ波動関数が得られることを示すことにする。

まず、\(\mu\neq\nu\)に対して、\(c^\dagger_\mu c_\mu\)と\(c^\dagger_\nu c_\nu\)は可換である。実際計算してみれば、 \begin{align} [c^\dagger_\mu c_\mu, c^\dagger_\nu c_\nu]_- &= c^\dagger_\mu c_\mu c^\dagger_\nu c_\nu - c^\dagger_\nu c_\nu c^\dagger_\mu c_\mu \\ &= -c^\dagger_\mu c^\dagger_\nu c_\mu c_\nu + c^\dagger_\nu c^\dagger_\mu c_\nu c_\mu \\ &= -c^\dagger_\mu c^\dagger_\nu c_\mu c_\nu + c^\dagger_\mu c^\dagger_\nu c_\mu c_\nu \\ &= 0 \end{align} となる。したがって、エルミート演算子\(\{c^\dagger_\mu c_\mu\}\)はすべての\(\mu\)について同時に対角化可能であることがわかる。また、個数演算子の二乗は、 \begin{align} (c^\dagger_\mu c_\mu)^2 &= c^\dagger_\mu c_\mu c^\dagger_\mu c_\mu\\ &= c^\dagger_\mu (1 - c^\dagger_\mu c_\mu) c_\mu\\ &= c^\dagger_\mu c_\mu-c^\dagger_\mu c^\dagger_\mu c_\mu c_\mu \end{align} ここで反交換関係から\(c^\dagger_\mu c^\dagger_\mu = c_\mu c_\mu = 0\)であることを使って、 \[(c^\dagger_\mu c_\mu)^2 = c^\dagger_\mu c_\mu\tag{13}\] を得る。

ここでこの個数演算子\(c^\dagger_\mu c_\mu\)の固有値を\(n_\mu\)とし、対応する固有状態を\(\ket{n_\mu}\)とする。まず、(13)の性質からすぐに、\(n_\mu^2 = n_\mu\)であり、したがって固有値は\(0,1\)に限られることがわかる。さて、調和振動子を生成消滅演算子で解くときと全く同じように、\(c^\dagger_\nu\)を\(\ket{n_\mu}\)にかけた状態が個数演算子のどのような固有状態に対応しているか調べよう。反交換関係を使いながら次の計算をする。 \begin{align} c^\dagger_\mu c_\mu\left(c^\dagger_\nu\ket{n_\mu}\right) &= c^\dagger_\mu c_\mu c^\dagger_\nu\ket{n_\mu}\\ &= c^\dagger_\mu (\delta_{\mu\nu}-c^\dagger_\nu c_\mu)\ket{n_\mu}\\ &= \delta_{\mu\nu} c^\dagger_\mu\ket{n_\mu} - c^\dagger_\mu c^\dagger_\nu c_\mu\ket{n_\mu}\\ &= \delta_{\mu\nu} c^\dagger_\mu\ket{n_\mu} + c^\dagger_\nu c^\dagger_\mu c_\mu\ket{n_\mu}\\ &= ( n_\mu + \delta_{\mu\nu})c^\dagger_\nu\ket{n_\mu} \end{align} よって\(\mu=\nu\)のとき、\(c^\dagger_\nu\)は\(\ket{n_\mu}\)の固有値を1増やす働きをすることがわかる。一方で、\(\mu\neq\nu\)のときには\(c^\dagger_\nu\ket{n_\mu}\)の固有値は\(n_\mu\)のままであり、状態は変化しない。\(c_\nu\)についても同じような計算をすると、 \[c^\dagger_\mu c_\mu\left(c_\nu\ket{n_\mu}\right) = (n_\mu-\delta_{\mu\nu})c_\nu\ket{n_\mu}\] となることを示せる。つまりこちらは固有値を1減らした状態を作るのである。ここまでの結果から、固有値\(n_\mu = 0,1\)の状態をそれぞれ\(\ket{0_\mu},\ket{1_\mu}\)と書くことにすれば、これらの関係は、 \begin{align} \ket{1_\mu} = c^\dagger_\mu \ket{0_\mu} \\ \ket{0_\mu} = c_\mu \ket{1_\mu} \end{align} である。ここで注意したいのは、反交換関係から\((c^\dagger_\mu)^2 = (c_\mu)^2 = 0\)という性質が得られていたが、この性質が、\(\ket{1_\mu}\)よりも大きな固有値や\(\ket{0_\mu}\)よりも小さな固有値を持つ状態を許さない働きをしていることだ。反交換関係によって、フェルミオンの「同じモードに1粒子しか入れない」という性質が現れる、とみることもできるだろう。

最後にフェルミオンの真空を定義する。個数演算子\(c^\dagger_\mu c_\mu\)が、異なる\(\mu\)の間で可換であったことを踏まえれば、全ての個数演算子\(\{c^\dagger_\mu c_\mu\}\)について固有値が\(0\)の状態を無理なく定義できる。この状態\(\ket{0} = \ket{0_{\mu_1} 0_{\mu_2}\cdots}\)のことを

真空

と呼ぶことにしよう。

5.波動関数との対応

さて、いよいよ(12)の交換関係を満たす\(c^\dagger_\mu,c_\mu\)を使って、フェルミオンの波動関数がうまく対応付けられるか見ていこう。まずは、1粒子波動関数\(\phi_\mu\)と状態\(\ket{1_\mu} = c^\dagger_\mu\ket{0}\)の間に、(8)式 \[\phi_\mu(\b{r}) = \braket{\b{r}}{1_{\mu}}\tag{8}\] を使って対応関係をつける。この仮定のもと、ボソンのときと同じように\(\ket{1_\mu}\)が完全系をなしていると考えると、1粒子の位置状態\(\ket{\b{r}}\)は次のように表せるはずだ。 \begin{align} \ket{\b{r}} &= \sum_\mu \ket{1_\mu}\braket{1_\mu}{\b{r}} \\ &= \sum_\mu \phi_\mu^*(\b{r})c^\dagger_\mu\ket{0} \end{align} ここからフェルミオンの位置状態の生成演算子を\(\psi^\dagger(\b{r}) = \sum_\mu \phi_\mu(\b{r})^*c^\dagger_\mu\)と定義する。

次にこれを使って、2粒子に対する位置状態をボソンの場合と同じく、 \[\ket{\b{r}_1,\b{r}_2} = \frac{1}{\sqrt{2}}\psi^\dagger(\b{r}_2)\psi^\dagger(\b{r}_1)\ket{0}\tag{14}\] と定義し、2粒子状態の波動関数が確かにスレーター行列式となることを確かめよう。真空からモード\(\mu,\nu\)に2つのフェルミ粒子を生成した状態を、 \[\ket{1_\mu,1_\nu} =c^\dagger_\mu c^\dagger_\nu \ket{0}\tag{15}\] とかく。この状態に対する波動関数は\(\braket{\b{r}_1,\b{r}_2}{1_\mu,1_\nu}\)である。これを計算するために、先に\(\psi(\b{r})\)と\(c^\dagger_\mu\)の反交換関係を計算しておこう。 \begin{align} [\psi(\b{r}),c^\dagger_\mu]_+ &= \sum_\nu \phi_\nu(\b{r}) [c_\nu,c^\dagger_\mu]_+\\ &= \sum_\nu \phi_\nu(\b{r}) \delta_{\nu\mu}\\ &= \phi_\mu(\b{r}) \end{align} となる。これを使いながら計算すると、 \begin{align} \braket{\b{r}_1,\b{r}_2}{1_\mu,1_\nu} &= \frac{1}{\sqrt{2}}\bra{0}\psi(\b{r}_1)\psi(\b{r}_2) c^\dagger_\mu c^\dagger_\nu \ket{0} \\ &= \frac{1}{\sqrt{2}}\bra{0}\psi(\b{r}_1)(\phi_\mu(\b{r}_2) - c^\dagger_\mu \psi(\b{r}_2)) c^\dagger_\nu \ket{0} \\ &= \frac{1}{\sqrt{2}}\left(\phi_\mu(\b{r}_2)\bra{0}\psi(\b{r}_1)c^\dagger_\nu \ket{0} - \bra{0}\psi(\b{r}_1)c^\dagger_\mu \psi(\b{r}_2) c^\dagger_\nu \ket{0} \right)\\ &= \frac{1}{\sqrt{2}}\left(\phi_\nu(\b{r}_1)\phi_\mu(\b{r}_2) - \bra{0}\psi(\b{r}_1)c^\dagger_\mu (\phi_\nu(\b{r}_2)-c^\dagger_\nu\psi(\b{r}_2)) \ket{0} \right)\\ &= \frac{1}{\sqrt{2}}\left(\phi_\nu(\b{r}_1)\phi_\mu(\b{r}_2) - \phi_\nu(\b{r}_2)\bra{0}\psi(\b{r}_1)c^\dagger_\mu\ket{0} \right)\\ &= \frac{1}{\sqrt{2}}\left(\phi_\nu(\b{r}_1)\phi_\mu(\b{r}_2) - \phi_\nu(\b{r}_2)\phi_\mu(\b{r}_1)\right) \end{align} を得る。これは確かに2粒子系のスレーター行列式であり、(12)の対応関係をつけたことによって、多粒子系の状態をうまいこと定義できていることがわかる。

さらに一般に、\(N\)粒子系であっても、状態\(c^\dagger_{\mu_N}\cdots c^\dagger_{\mu_2}c^\dagger_{\mu_1}\ket{0}\)の波動関数が、スレーター行列式と等しくなることは簡単に示すことができる。その証明は帰納法を使うもので、\(k+1\)粒子系の波動関数が、\(k\)粒子系の波動関数を使って、行列式の余因子展開と同じように書けることを示すことによる。前回のボソンのものとほとんど同じ計算をすることになるので、ここでは省略。練習問題に良いくらいの難易度だと思うので、ぜひ自分でやってみて欲しい。