1.ポインティングの定理
前回までで、電磁場のエネルギー密度と電流によるジュール熱がどういう式で表わされるのか見てきた。今回はその辺を使いながら、
ポインティングの定理
というのを導出していく。
ジュール熱というのは、電場が導体に与えるエネルギーなんだから、何らかの形で電磁場のエネルギー密度、
\[u=\frac{1}{2}\epsilon_0 E^2+\frac{1}{2}\mu_0 H^2\tag{1}\]
と関係しあっているとかんがえられるだろう。と、いうか電磁場が導体にエネルギーを与えたなら、電磁場自体のエネルギーが減らないとおかしい。
ジュール熱\(\b{E}\cdot\b{J}\)を変形して、その関係性を見つけてみよう。Maxwell方程式の中の一つ、
\[\rot\b{H}=\b{J}+\epsilon_0\frac{\partial\b{E}}{\partial t}\]
を使う。今回は、\(\b{J}\)に代入することを考えて、
\[\b{J}=\rot\b{H} - \epsilon_0\frac{\partial\b{E}}{\partial t}\tag{2}\]
として代入する。すると、
\begin{align}
\b{E}\cdot\b{J}&=\b{E}\cdot\left(\rot\b{H} - \epsilon_0\frac{\partial\b{E}}{\partial t}\right) \\
&= \b{E}\cdot\rot\b{H}-\epsilon_0\b{E}\cdot\frac{\partial\b{E}}{\partial t} \\
&= -\Div(\b{E}\times\b{H})+\b{H}\cdot\rot\b{E}-\epsilon_0\b{E}\cdot\frac{\partial\b{E}}{\partial t}~~~(\because \Div(\b{E}\times\b{H})=\b{H}\cdot\rot\b{E}-\b{E}\cdot\rot\b{H}) \\
&= -\Div(\b{E}\times\b{H})-\mu_0\b{H}\cdot\frac{\partial\b{H}}{\partial t}-\epsilon_0\b{E}\cdot\frac{\partial\b{E}}{\partial t} ~~~(\because \rot\b{E}=-\frac{\partial\b{B}}{\partial t}=\mu_0\frac{\partial\b{H}}{\partial t})\tag{3}
\end{align}
というふうに変形できる。この(3)式の後半部分はかなり電磁場のエネルギー密度の(1)式に似ているじゃないか。ちょっと考えてみると、
\[\frac{\partial}{\partial t}(\b{f}\cdot\b{f})=\b{f}\cdot\frac{\partial\b{f}}{\partial t}+\frac{\partial\b{f}}{\partial t}\cdot\b{f}=2\b{f}\cdot\frac{\partial\b{f}}{\partial t}\]
となっていることが思いつくから、
\[\b{E}\cdot\b{J}=-\Div(\b{E}\times\b{H})-\frac{\partial}{\partial t}\left(\frac{1}{2}\epsilon_0 E^2+\frac{1}{2}\mu_0 H^2\right) \tag{4}\]
とできる。これで
ジュール熱とエネルギー密度の関係がついた。これが
ポインティングの定理
である。しかし、\(\Div(\b{E}\times\b{H})\)とかいうなんなのかよくわからない量がついてきた。この項の物理的意味を考えなければ。
2.ポインティングベクトル
(4)式の体積積分をとって、ある領域Vでのエネルギーを考えてみよう。微分系だとよくわからないものも、積分にすれば意味がわかりやすくなることはよくあるからな。
\[\int\b{E}\cdot\b{J}dV=-\int\Div(\b{E}\times\b{H})dV-\frac{\partial}{\partial t}\int\left(\frac{1}{2}\epsilon_0 E^2+\frac{1}{2}\mu_0 H^2\right)dV\tag{5}\]
ガウスの定理を使って、体積積分を表面積分に直してしまおう。
\[\int\b{E}\cdot\b{J}dV=-\int\b{E}\times\b{H}\cdot d\b{s}-\frac{\partial}{\partial t}\int u dV\tag{6}\]
ついでに電磁場のエネルギー密度もuとした。で、ちょっと順番を入れ替える。
\[\frac{\partial}{\partial t}\int u dV=-\int\b{E}\times\b{H}\cdot d\b{s}-\int\b{E}\cdot\b{J}dV\tag{7}\]
(7)式まで行けばちょっと意味がわかってくる。左辺はある領域内に存在する電磁場のエネルギーの時間変化だから、右辺の量\(\int\b{E}\times\b{H}dS, \int\b{E}\cdot\b{J}dV\)はその減少具合を表しているわけ。(マイナスが付いているから減少。)
\(\b{E}\cdot\b{J}\)の方はジュール熱。電磁場がその領域に存在する導体にエネルギーを与えて、その分のエネルギーが減るということだ。
じゃあ謎の\(\int\b{E}\times\b{H}\cdot d\b{s}\)を説明しよう。電磁波の進行方向が(普通の媒質では)、\(\b{E}\times\b{H}\)であったことを思い出すとわかりやすいかもしれない。普通に考えれば、電磁波の進行方向にエネルギーが運ばれていると思えるだろう。つまり\(\b{E}\times\b{H}\)というのは、(7)式で表面積分されていることを加味して、
単位面積あたりのエネルギーの流れを表していると考えられる。
よって、\(\int\b{E}\times\b{H}\cdot d\b{s}\)これは
その領域から流れ出すエネルギーを表していると解釈される。
そして、単位面積あたりのエネルギーの流れを表す
\[\b{S}=\b{E}\times\b{H}\tag{8}\]
を
ポインティングベクトル
と呼ぶ。