1.ラグランジアンの不定性
今まで触れてこなかったが、ラグランジアンには不定性がある。まずはラグランジアンがどういうものだったのか思い出そう。ラグランジアンLとは、運動エネルギーKとポテンシャルエネルギーUを使って
\[L=K-U\tag{1}\]
と定義される。これを使うと、
\[\frac{\partial L}{\partial q_i}-\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial L}{\partial \dot{q_i}}\right)=0\tag{2}\]
という方程式が、物体の運動を決める微分方程式になるのだった。
でも(2)式の形を見ると、例えばLに定数を足して、L'=L+aとしても方程式の形は変わらない。それどころか、実は位置と時間に関する任意の関数\(F(\b{q},t)\)を使って、
\[L'=L+\frac{dF}{dt}=L+\dot{F}\tag{3}\]
としても、運動方程式の形は変化しないのだ。めんどくさいから証明は他のサイトに譲ろう。
ここではひとつ変な例を出してみる。
\[L=q^2\dot{q}^4,~L'=q^3\dot{q}^6 \tag{4}\]
という2つの一見すると全く異なるラグランジアンを考えて、これを(2)に代入してみると、どちらも
\[(\dot{q}^2+2q\ddot{q})q\dot{q}^2=0\tag{5}\]
という全く同じ運動方程式を導出する。やっぱりラグランジアンというのはかなりの不定性を持った量のようだ。
2.正準変換の母関数
前回までで正準変換となる条件を導出してきた。q,pから変数変換したq',p'も正準方程式を満たす必要十分条件は、ポアソン括弧を使って、
\[\left\{\begin{align}
[q_i',q_j']_{q,p}&=0 \\
[p_i',p_j']_{q,p}&=0 \\
[q_i',p_j']_{q,p}&=\delta_{ij}
\end{align}\right.\tag{6}\]
だった。でもこれでは必要十分な条件が分かっただけで、具体的にどういう変換をすればいいのかがよくわからない。(6)の条件を満たす変換なんか無数にあるだろう。そこで今回は、具体的な正準変換の構成法として重要な、
母関数
について考えていく。
上で触れたラグランジアンの不定性を考えてみよう。ラグランジアンに対して適当な関数の時間微分を加えても同じ方程式が得られるのなら、
\[H=\dot{\b{q}}\cdot\b{p}-L\tag{7}\]
と定義されるハミルトニアンにも、そのくらいの不定性があるだろう。このあたりの不定性を利用して、正準変換を構成してみようということだ。ラグランジアンでは\(F(\b{q},t)\)の全微分を足しても変わらなかったが、正準変換を考えるときもそれでいいのだろうか?
じつは全くもって良くない。正準変換する前の位置\(q\)を使うのは当たり前だが、正準変換したあとの位置\(q'\)も使わないとおかしい。なぜなら、正準変換の逆変換はまた正準変換であり、どちらの位置が特別偉いということは絶対に無いからだ。対等な位置にあるべきなのだ。
そこで、関数\(F(\b{q},\b{q}',t)\)の全微分を足したものを考えて....
変分原理を使わないで説明できないか探ってみたが、やっぱり難しかった。力不足だ。悔しいが、下に変分原理を使った母関数の導出も一応書いておく。
2.変分原理からの母関数の導出
変分原理とは、運動方程式が、
\[\delta\int Ldt=0\tag{8}\]
という条件によって得られるということを指すものだった。つまり、ラグランジアンの時間積分が停留値をとるような軌道が実現されるというわけだ。
ここにハミルトニアンを入れてみると、
\[\delta\int (\dot{\b{q}}\cdot\b{p}-H)dt=0\tag{9}\]
(9)は運動方程式そのものだから、正準変換したあとでもこれは成り立っていないといけない。つまり、
\[\delta\int (\dot{\b{q}'}\cdot\b{p}'-H')dt=0\tag{10}\]
ということだ。当然、このふたつの式を引いたとしても右辺は0のままだ。やってみると、
\[\delta\int \left[(\dot{\b{q}}\cdot\b{p}-H)-(\dot{\b{q}'}\cdot\b{p}'-H')\right]dt=0\tag{11}\]
これが成り立っているためには、被積分関数がある関数の時間微分になっていればいいことがわかる。なぜなら、変分では端点の値は変化させないからだ。つまり、
\[(\dot{\b{q}}\cdot\b{p}-H)-(\dot{\b{q}'}\cdot\b{p}'-H')=\frac{dF}{dt}\tag{12}\]
両辺にdtをかけてみれば、
\[\b{p}\cdot d\b{q}-\b{p}'\cdot d\b{q}'-(H-H')dt=dF\tag{13}\]
(13)式から、Fはq,q',tに依存する関数であるべきことがわかり、そういうとき、この関数の全微分は、
\[dF=\frac{\partial F}{\partial \b{q}}d\b{q}+\frac{\partial F}{\partial \b{q}'}d\b{q}'+\frac{\partial F}{\partial t}dt\tag{14}\]
とあたえられるはずだ。つまり、
\[\left\{\begin{align}
\b{p}=\frac{\partial F}{\partial \b{q}} \\
\b{p}'=\frac{\partial F}{\partial \b{q}'} \\
H-H'&=-\frac{\partial F}{\partial t}
\end{align}\right.\tag{15}\]
を得る。普通の導出はこんな漢字だ。(15)式を(6)に代入すれば成り立っていることが確認できるだろう。この\(F(\b{q},\b{q}',t)\)を
母関数
と呼ぶわけだ。
熱力学のように、適当にルジャンドル変換をすれば、ほかのタイプの母関数も得られるが、それも他のサイトに譲ろう。ほんとうに変分原理を使わずに説明できなかったのはくやしい。