1.曲線のパラメータ表示
今回から、3次元空間の曲線について考えていく。将来は微分幾何まで続けたい考えだ。まず一般的な曲線の表し方についてみてみよう。たとえば、原点中心の円であれば、次のように表すことができることがわかるはずだ。
\begin{align}
\left\{
\begin{array}
~x^2 + y^2 + z^2 &= r^2 \\
ax + by + cz &= 0
\end{array}
\right. \tag{1}
\end{align}
つまり、半径rの球の方程式と、原点を通る平面の交点の集合として、円を与えるわけだ。でも毎回曲線を表すのにこんな連立方程式を使うのはさすがに面倒だし、もっと複雑な図形だったら困ってしまう。でも、そこを何とかできる表し方があるのだ。それを考えてみる。
上の連立方程式は3変数に対して2本ある。こんなふうに実は曲線というのは、基本的に2本の連立方程式で表現することができるのだ。2本の方程式があればx,y,zのなかのどれかひとつを使って、他の2つを表せる。そこで上の方程式を変形して、xで他の二つを表す、つまり、
\begin{align}
\left\{
\begin{array}
~y&=y(x)\\
z&=z(x)
\end{array}
\right.
\end{align}
という形に帰着させてみよう。a,b,cという定数がうっとうしいので、とりあえずはa=b=c=1としてやってみるが、a,b,cのままでも同じようにやればできるはずだ。(1)の下の式をy=,z=の形にして(1)の上の式に代入してみると、
\begin{align}
\left\{
\begin{array}
~x^2 + (x+z)^2 + z^2 = r^2 \\
x^2 + y^2 + (x+y)^2 = r^2
\end{array}
\right.
\end{align}
となってこれをyやzの二次方程式だと思って解けば、
\begin{align}
\left\{
\begin{array}
~y &= -\frac{x}{2} \pm \sqrt{\frac{x^2}{4} + (r^2-x^2)} \\
z &= -\frac{x}{2} \pm \sqrt{\frac{x^2}{4} + (r^2-x^2)}
\end{array}
\right.\tag{1'}
\end{align}
のようにy,zをxの関数として表すことができた。曲線上の座標を求めるのに、本当は連立方程式(1)を一つ一つの点について解いてやらないといけなかったところを、1つの変数\(x\)を変化させ、その一つ一つの点を(1')しきにしたがってプロットすれば曲線を描けることがわかったわけだ。
こんなふうにして、一般に、曲線はひとつの変数で完全に表せる。もちろんさっきのように1つの座標をその変数として使ってもいいのだが、もっと便利な変数があるかも知れない。例えば二次元平面内の半径rの原点中心の円は、
\[x(\theta)=r\cos\theta,y(\theta)=r\sin\theta\]
と表せる。こうした方が\(y=\pm\sqrt{r^2-x^2}\)と表すよりも見通しが良さそうなのは一目瞭然だろう。そこでこれから、一般の曲線を考えるときには、
\[\b{x}(t) = \left(
\begin{array}{c}
x(t)\\
y(t)\\
z(t)
\end{array}
\right)\]
のように表すことにしよう。このような表し方のことを、曲線のパラメータ表示
と呼ぶ。
2. 曲線の長さ
曲線の長さを直感的に定義していこう。一般的にパラメタ表示された曲線\(\b{x}(t)\)の長さはどのように計算したらいいだろうか。
曲線の長さをそのまま計算するのは難しそうだから、まずは非常に小さな範囲の曲線を考えて、その区間で直線とみなして長さを計算し、あとで足し合わせるという方針で計算する。\((dx,dy,dz)\)という無限小のベクトルの長さ\(ds\)は、
\[ds^2 = dx^2+dy^2+dz^2\]
と表せるだろう。一方で、曲線\(\b{x}(t)\)で\(dt\)という非常に小さい変化をさせてみると、xyzそれぞれの成分の変化は、
\[dx = \frac{dx}{dt}dt, dy = \frac{dy}{dt}dt, dz = \frac{dz}{dt}dt\]
となる。よって曲線の点\(\b{x}(t)\)と\(\b{x}(t+dt)\)の間の長さは以下のように表せる。
\[ds^2 = \left[\left(\frac{dx}{dt}\right)^2+\left(\frac{dy}{dt}\right)^2+\left(\frac{dz}{dt}\right)^2\right]dt^2\]
両辺のルートをとって、
\[ds = \sqrt{\left(\frac{dx}{dt}\right)^2+\left(\frac{dy}{dt}\right)^2+\left(\frac{dz}{dt}\right)^2}dt\]
あとは求めたい範囲、例えば\(a≦t≦b\)の範囲で積分すれば、その区間の長さ\(s_{ab}\)になる。
\[s_{ab} = \int ds = \int_a^b \sqrt{\left(\frac{dx}{dt}\right)^2 + \left(\frac{dy}{dt}\right)^2 + \left(\frac{dz}{dt}\right)^2} dt = \int_a^b \left|\frac{d\b{x}}{dt}\right| dt\tag{2}\]
これで曲線の長さを計算する公式を作ることができた。
曲線の長さのことを弧長
と呼んだりもする。
3.弧長をパラメータとして
曲線を\(\b{x}(t)\)のようにパラメータ表示したとき、その表し方というのは特にこれを使わないといけない、という決まりがあるわけではなくて、自分が使いたい表現を使えばいい。曲線の議論をするときには、特に弧長\(s\)をパラメータとして使うような表現をすると便利なことがある。それは、接ベクトル (速度ベクトル) が単位ベクトル
になるという性質だ。ちょっと確認しておこう。
一般的な曲線\(\b{x}(t)\)の接ベクトル (速度ベクトル) \(\b{t}\)は、パラメータtで微分してやって、
\[\b{t} = \frac{d\b{x}}{dt}\]
と計算できる。\(\b{t}\)と書いたのは、英語で接ベクトルがtangent vectorと呼ばれるからだ。もしパラメータが弧長だったら、
\[\b{t} = \frac{d\b{x}}{ds}\]
となるわけだが、両辺の大きさを考えると、
\[|\b{t}| = \left|\frac{d\b{x}}{ds}\right| = \frac{|d\b{x}|}{ds} = 1\]
のように確かに単位ベクトルになっている。sは弧長なんだから\(ds = |d\b{x}|\)を使った。この適当な導出で納得できない人は、最後に割りとしっかりとした証明を書いたので参考にしてほしい。
4.例
弧長で表すって言ったって、そんなことがほんとにできるのか不安になる人もいるだろうから、円の場合を例に挙げてパラメータ表示してみようと思う。
原点を中心にした半径rの円は、
\[x(\theta)=r\cos\theta,y(\theta)=r\sin\theta\]
と表せた。一方で、\(\theta\)が\(0\to\theta\)と変化したときの弧長\(s\)は
\[s=r\theta\]
と表せる。つまり逆にみれば、
\[\theta=\frac{s}{r}\]
なので、これを代入すると、
\[x(s)=r\cos\frac{s}{r},y(s)=r\sin\frac{s}{r}\]
とできる。これが円を弧長パラメータ\(s\)で表示した形である。本当に接ベクトルが単位ベクトルになっているか、微分して計算してみよう。
\begin{align}
\b{t} &= \frac{d\b{x}}{ds}\\
&=\frac{d}{dt}\left(\begin{array}{c}x(s)\\y(s)\end{array}\right)\\
&=\left(\begin{array}{c}\cos(s/r)\\\sin(s/r)\end{array}\right)\\
\end{align}
となって、たしかにどんなsに対しても単位ベクトルになっていることがわかる。
\(ds = |d\b{x}|\)という適当な式では納得しない人向けに、少しだけしっかりした証明。弧長の定義式は、
\[s = \int_a^b \left|\frac{d\b{x}}{dt}\right| dt \]
こんな感じになっているわけだが、いまtをsで置き換えるわけだから、
\[s = \int_a^b \left|\frac{d\b{x}}{ds}\right| ds \]
となる。弧長sを変数として使っているのだから、aからbまで積分したら当然\(s=b-a\)になるだろう。したがって、
\begin{align}
b-a &= \int_a^b \left|\frac{d\b{x}}{ds}\right| ds \\\\
0 &= \int_a^b \left(\left|\frac{d\b{x}}{ds}\right| -1\right) ds
\end{align}
となるが、aとbはまったく任意なので、この式が成り立つためには、
\[\left|\frac{d\b{x}}{ds}\right| = 1\]
でなくてはならない。つまり、このようにsを変数とすると、\(b{x}(s)\)の微分が必ず単位ベクトルになるということだ。また、一般に位置ベクトルのパラメータによる微分がその接線方向(物理では速度)を向くということを考えると、\(\frac{d\b{x}}{ds}\)というベクトルは、単位接線ベクトル
である。こんな風に微分するだけで単位接線ベクトルがえられるので、このパラメータ表示は有用である。
これからは、
\[\b{t}=\frac{d\b{x}}{ds}\]
と書くことにしよう。