1.予想される電磁場の角運動量
前回、電磁場の運動量密度は
\[\b{p}=\frac{1}{c^2}(\b{E}\times\b{H})\tag{1}\]
で与えられて、物質が受けるローレンツ力を\(f\)、マクスウェルの応力テンソルを
\[T_{ij}=\epsilon_0\left(E_iE_j+\frac{1}{2}\delta_{ij}E^2\right)+\frac{1}{\mu_0}\left(B_iB_j+\frac{1}{2}\delta_{ij}B^2\right)\tag{2}\]
とすると
\[\int_V\b{f}dV=-\frac{\partial}{\partial t}\int_V\b{p}dV+\int_S\b{T}\cdot d\b{S}\tag{3}\]
という運動量保存則が成り立っていることが分かった。
今回は、(1)から類推される角運動量
\[\b{J}=\b{r}\times\b{p}=\frac{1}{c^2}\b{r}\times(\b{E}\times\b{H})\tag{4}\]
がしっかりと角運動量保存則を満たしていて、本当に電磁場の角運動量として正しいことを確かめよう。
2.角運動量保存則
前回と同じようにまずは電荷密度\(\rho\)が受けるローレンツ力から考えよう。ローレンツ力による原点からみたトルクは
\[\b{N}=\b{r}\times\b{f}\tag{5}\]
である。ここで前回の結果
\[\b{f}=-\epsilon_0\frac{\partial}{\partial t}(\b{E}\times\b{B})+\nabla\cdot\b{T}\tag{6}\]
を使ってみよう。(この式は(3)と等価だ。)すると、
\[\int_V\b{N}dV=-\frac{\partial}{\partial t}\int_V\b{r}\times(\epsilon_0\b{E}\times\b{B})dV+\int_V\b{r}\times(\nabla\cdot\b{T}) dV\tag{7}\]
となる。ここで一旦切ろう。
3.テンソル(ダイアド)とベクトルの外積
この先に進むためには、テンソルとベクトルの外積について考える必要がある。ここで、テンソル\(\b{T}\)とベクトル\(\b{x}\)の外積
\[\b{M}=\b{T}\times\b{x}\tag{8}\]
を考えたい。これは、適当なテンソルが2つのベクトル\(\b{a},\b{b}\)を用いて
\[T_{ij}=a_ib_j\tag{10}\]
とかけていたとしたとき、このテンソルを
\[\b{T}=\b{a}\b{b}\tag{11}\]
と書くことにしよう。こういうのは
ダイアド
と呼ばれたりもする。例としてマクスウェルの応力テンソルをこの形に書くと、
\[\b{T}=\epsilon_0\left(\b{E}\b{E}+\frac{1}{2}E^2\b{I}\right)\frac{1}{\mu_0}\left(\b{B}\b{B}+\frac{1}{2}B^2\b{I}\right)\tag{12}\]
というふうになる。
さて(11)式とベクトル\(\b{x}\)の外積(こういう時は本当はクロス積と呼ぶべきかもしれない)は安直に思えるかもしれないが、
\[\b{M}=\b{T}\times\b{x}=(\b{a}\b{b})\times\b{x}=\b{a}(\b{b}\times\b{x})\tag{13}\]
と定義すると便利になる。成分表示するなら
\[M_{ij}=a_i(\b{b}\times\b{x})_j\]
となる。これの成分を計算して行列にしっかりとあらわして見ると、
\begin{align}\b{M}&=
\left(\begin{array}{ccc}
a_1(b_2x_3-b_3x_2) & a_1(b_3x_1-b_1x_3) & a_1(b_1x_2-b_2x_1)\\
a_2(b_2x_3-b_3x_2) & a_2(b_3x_1-b_1x_3) & a_2(b_1x_2-b_2x_1)\\
a_3(b_2x_3-b_3x_2) & a_3(b_3x_1-b_1x_3) & a_3(b_1x_2-b_2x_1)\\
\end{array}\right)\\
&=\left(\begin{array}{ccc}
T_{12}x_3-T_{13}x_2 & T_{13}x_1-T_{11}x_3 & T_{11}x_2-T_{12}x_1\\
T_{22}x_3-T_{23}x_2 & T_{23}x_1-T_{21}x_3 & T_{21}x_2-T_{22}x_1\\
T_{32}x_3-T_{33}x_2 & T_{33}x_1-T_{31}x_3 & T_{31}x_2-T_{32}x_1\\
\end{array}\right)
\tag(14)\end{align}
となる。違う順番の外積を\(\b{x}\times\b{a}\b{b}=(\b{x}\times\b{a})\b{b}\)と定義すると、普通の外積と同じように、
\[\b{x}\times\b{T}=-\b{T}\times\b{x}\]
が成り立つ。
4.角運動量保存則
(13)や(14)のような外積を定義するとなにが嬉しいかというと、計算はちょっとめんどくさいが、以下の様な関係式が使えるということだ。
\[\b{M}=\b{r}\times\b{T}\rightarrow\b{r}\times(\nabla\cdot\b{T})=\nabla\cdot\b{M}\tag{15}\]
これを示すには自分でちょっと計算するだけだからやってみて欲しい。ともかく、(15)を認めると、電磁場のトルク(7)は
\[\int_V\b{N}dV=-\frac{\partial}{\partial t}\int_V\b{r}\times(\epsilon_0\b{E}\times\b{B})dV+\int_V\nabla\cdot\b{M}dV\tag{16}\]
と書けることになる。最後の項はガウスの定理によって書き直せて、
\[\int_V\b{N}dV=-\frac{\partial}{\partial t}\int_V\b{r}\times(\epsilon_0\b{E}\times\b{B})dV+\int_V\b{M}\cdot d\b{s}\tag{17}\]
が得られる。これは、運動量保存則の時の式
\[\int_V\b{f}dV=-\frac{\partial}{\partial t}\int_V\b{p}dV+\int_S\b{T}\cdot d\b{S}\tag{3}\]
と全く同じ形をしている。式の形が同じということは、物理的な解釈もほとんど同じでいいだろう。
(17)式の左辺は電荷に与えるトルク、つまり単位時間あたりに電荷に与える角運動量を表していて、右辺第一項は最初に類推したように電磁場の角運動量を表していると考えられる。さらに右辺第二項は、運動量保存則のときと同じように、考えている領域に、その外から流れ込む角運動量を表しているとすればいい。
ということで、こういう式展開によって、
\[\b{J}=\b{r}\times\b{p}=\frac{1}{c^2}\b{r}\times(\b{E}\times\b{H})\tag{4}\]
という普通に類推される角運動量が、しっかりと角運動量としての性質をもっていそうなことが分かった。これで角運動量については終わり。